レオナルド・ディカプリオさん主演の映画「華麗なるギャツビー」が公開中だ。F・スコット・フィッツジェラルドの原作小説を、ディカプリオさんとは「ロミオ+ジュリエット」(96年)以来のタッグとなるバズ・ラーマン監督が映画化した。同タイトルの作品では、74年に製作されたロバート・レッドフォードさん主演作がよく知られている。ディカプリオさん起用の理由など作品に込めた思いを、来日したラーマン監督に聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)
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映画は、20年代のニューヨークを舞台に、ディカプリオさん演じる大富豪ジェイ・ギャツビーが、なぜこの土地に現れたのかを、ラーマン監督ならではのきらびやかな映像演出で描いていく。ディカプリオさんの相手役を「17歳の肖像」(09年)のキャリー・マリガンさんが演じるほか、ギャツビーの隣人で、のちに理解者となるニック・キャラウェイを「スパイダーマン」シリーズのトビー・マグワイアさんが演じている。
−−ギャツビー役イコール、レッドフォードさんのイメージがある中で、ディカプリオさんのギャツビー役は、正直違和感がありました。ところが、実際にスクリーンにディカプリオさんが登場すると、それはギャッツビー以外の何ものでもなく、感嘆しました。
僕は最初から、ギャツビーを演じられるのはレオ(ディカプリオさん)しかいないと思っていた。もちろん僕だって、レッドフォードは大好きだ。父が経営していた映画館で、彼が主演の「明日に向って撃て!」を見たし、「スティング」も大好き。でも、「華麗なるギャツビー」を見たとき僕は12歳だったけれど、ギャツビーを美しいと思いこそすれ、何者かが見えてこなかったんだ。決してレッドフォード版をけなしているわけじゃないからね。
今回、原作を読み返して、まるで米国版「ハムレット」だと思ったんだ。ギャツビーはカリスマ性があり、ロマンチックだし、魅力的で、だけれどもダークで危険なほどの愛を持っている。つまり複雑な役。レオは、僕の作品の「ロミオ+ジュリエット」でロミオをやったけれど、あのときは非常にロマンチックな役だった。その後、複雑な役ばかりをこなしている。だけどこのギャツビーには、両面がある。魅力的であると同時に複雑なんだ。同年代で彼に匹敵する俳優はほかにはいないよ。
−−雨の日にデイジーを招いてのお茶会でのギャツビーが印象的でした。
原作では、雨が降っているという設定だった。ギャツビーがぬれて外から入ってくる。舞台はニューヨーク州のロングアイランドだが、撮影はオーストラリアの小さな町で行った。撮影中、ほとんど毎日雨。ところがその、雨の設定の日だけ、あろうことか、晴天だったんだ! まったく僕が行くところ、いつも雨だというのにね。この東京のプロモーション(13日)も雨だし、前作「オーストラリア」を撮ったときも、砂漠で100年ぶりの雨が降ったんだからね。だから、どうしても雨が必要なときは僕を呼んでくれ(笑い)。
−−では、今回のその場面は人工的に雨を降らせ、ディカプリオさんをびしょぬれにしたのですね。
種明かしをするとそうなんだ。ギャツビーがびしょぬれになって、ドアを開けて入って来るのはスタジオの中で、ものすごく寒かった。普通の人なら恥ずかしいよね。だけどギャツビーは、自分が恥ずかしいと思うことに怒りを覚えているんだ。その場の雰囲気を台なしにしてしまったという自分に対するイラつきがある。そういう複雑な演技を、レオは6回もやってくれた。彼は、自分が演じるキャラクターが必要だと思えばなんでもやる男だよ。
−−原作に忠実に映画化されている中で、ある変更点が目立ちました。ニックの“その後”を見せたことです。その意図を教えてください。
原作の中で、二ックが本を書いたことは事実としてある。ではなぜ彼は本を書いたのか。彼は、ギャツビーに対する自分の気持ちを書いているが、なんのために書いたのかが分からない。彼は最初はギャツビーを否定的にとらえていたが、最後にはハートが感じられる。そこに至ったニックの苦悩を、僕は見せたかった。フィッツジェラルドの遺作で「ラスト・タイクーン」という未完の本がある。あれは、語り部の人間が療養所にいるという設定にしようとしていたようだ。で、僕は精神科医に相談した。すると彼は、患者に絵を描かせたり、気持ちを日記に書かせたりする療法があるというんだ。だから、トビー・マグワイアが演じるニックがセラピーを受けているという設定にした。それに、フィッツジェラルド本人の言葉をもっと使いたかった。その点でも、本を書いているという設定は、すごく有効だったんだ。
−−ほとんどがセットでの撮影だったそうですが、それがジオラマっぽいというか、セットだからこその“まがいもの”感が出ていて、だからこそ当時の狂騒ぶりが伝わってきました。
原作でもそうなっているけれど、舞台となった20年代というのは、新しい建造物がどんどん建ち、人工的なにおいが充満していたんだ。ニックはそれを「失われた街」と表現していたけれど、すべてがハイパーリアルで現実的じゃなかった。それをうまく表せたと思っている。
まがいものといえば、今回の映画化に際してリサーチしたときに、実は、(74年版「ギャツビー」の)レッドフォードは、(ギャツビーに深く関係する億万長者)ダン・コディ(スティーブ・ビズレーさん)についての回想シーンを映画の中に入れたいと熱望したが、(ジャック・クレイトン)監督に却下されてしまったんだそうだ。僕は、その部分は重要だと思ったから映画の真ん中にもってきた。あそこで観客はギャツビーの“正体”を知ることになる。でも、劇中のギャツビーの周囲の人間はそれを知らない。その対比を見せることで、ギャツビーがまがいものの人間であることを強調したかったんだ。
−−今後の計画と、作品を楽しみにしている人にメッセージをお願いします。
まず、次の仕事は、僕の映画デビュー作「ダンシング・ヒーロー」の舞台版を作り、来年3月に上演する。そしてメッセージだけれど、日本で(この映画が)大成功してほしい。最後にニックの言葉で「いろんな困難を乗り越えてもボートをこぎ続ける」というのがあるけれど、日本はバブル経済というものを経験しているし、(東日本大震災など)大変な体験もしている。だから、この映画はまさに、今の日本にふさわしいメッセージがあると思っているよ。
<プロフィール>
1962年、豪ニューサウスウェールズ州生まれ。90年にプッチーニの「ラ・ボエーム」をオーストラリアンオペラで上演し、オペラティック・パフォーマンス・オブ・ザ・イヤーに選ばれる。92年、「ダンシング・ヒーロー」で映画界にデビュー。以降、「ロミオ&ジュリエット」(96年)、「ムーラン・ルージュ」(2001年)を送り出し、いずれも大ヒット。映画監督のほか舞台演出家としても活躍し、再脚色した「ラ・ボエーム」は02年から米ブロードウェーで上演されトニー賞を3部門で受賞している。さらに04年にはニコール・キッドマンさんを起用したシャネルNo.5のCMを制作し話題を集めた。08年、キッドマンさん、ヒュー・ジャックマンさん共演の「オーストラリア」を監督した。
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