イタリアの名匠ジュゼッペ・トルナトーレ監督の最新作「鑑定士と顔のない依頼人」が13日に公開されたは、美術品の鑑定士を主人公にしたミステリーで、「英国王のスピーチ」(2010年)で米アカデミー賞にノミネートされたジェフリー・ラッシュさんが演じる人間嫌いの鑑定士が、大屋敷に住むなかなか姿を現さない依頼人の女性に夢中になっていく。女性の鑑定の目的は何だったのか? 謎が明らかになった後、また見たくなる映画だ。音楽は「ニュー・シネマ・パラダイス」(89年)以来、ずっとタッグを組んできたエンニオ・モリコーネさんが担当している。
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世界の美術品を仕切るオークショニアのバージル・オールドマン(ラッシュさん)は、豊かな知識と確かな鑑定力で活躍していた。美術品を心から愛しているが、人間は苦手。早くに親を亡くし、独身、友だちもいない。携帯電話も持っていない。レストランで一人で食事をし、高級ホテル風の綺麗な住まいで、隠し部屋に集めた女性の肖像画を眺めるのが趣味だった。そんなバージルのもとに、鑑定依頼が舞い込む。クレア・イベットソン(シルビア・ホークスさん)と名乗る女性は、亡くなった両親が遺した家具や絵画を鑑定してほしいという。バージルは屋敷を訪ねたが、門は閉ざされたまま。依頼人のクレアは嘘を重ねて、姿を現さない。彼女を一目見ようと隠れて待つバージル。出て来た依頼人は、若くて美しい女性だった……という展開。
主人公は人嫌いで尊大な美術品鑑定士。ずっと絵画の中の、二次元の女性にしか興味がなかった彼が、三次元の女性に恋をする。ラッシュさんの表情や仕草がこまやかで、渋さ中に滑稽さも見え、この主人公がどうなっていくのか目が離せなくなってしまう。女性の姿がなかなか出てこず、前半映るのは、バージルが眺めている風景、つまり女性がいる部屋の扉ばかりだ。見る側も想像力がかき立てられ、女性が登場する場面ではバージルとともに「ハッ!」と息をのむ。それにしても、引きこもり生活のわりにはおしゃれで小ぎれいだが、と謎が流れるように進む……。モリコーネの音楽がたまに冗舌過ぎて次の展開が分かってしまう部分もなきしもあらずだが、そこは目をつぶりたい。カタカタと歯車が回る不気味な機械人形、足をひきずる使用人、記憶力の良い小人……、アングラのにおいがミステリーを引き立てる。鑑定士の結末をどう思うか、人によってさまざまな捉え方がありそうで、そこが再度見たくなる理由の一つかもしれない。13日からTOHOシネマズシャンテ(東京都千代田区)、新宿武蔵野館(東京都新宿区)ほか全国で順次公開中。(キョーコ/毎日新聞デジタル)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、闘病をきっかけに、単館映画館通いの20代を思い出して、映画を見まくろうと決心。映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。
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