サンドラ・ブロックさん、ジョージ・クルーニーさんが宇宙飛行士にふんしたSFサスペンス映画「ゼロ・グラビティ」が13日から全国で公開中だ。地球の上空60万メートルで船外活動中の宇宙飛行士2人に、突然、スペース・デブリ(宇宙ゴミ)が襲いかかる。通信は遮断され、宇宙空間に投げ出された2人は絶望的な状況の中で必死に生き残ろうとする。メガホンをとったのは、「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」(2004年)などで知られるアルフォンソ・キュアロン監督だ。映画のPRのために来日したキュアロン監督に作品に込めた思いや撮影秘話などを聞いた。(りんたいこ/フリーライター)
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「ゼロ・グラビティ」は映画の99%が宇宙空間、すなわち無重力空間で展開していく。人工衛星の破壊によって発生したデブリが宇宙飛行士にぶつかり、加わった衝撃によって体は跳ね飛ばされぐるぐると回転する。宇宙では一度力が加わると、その物体は永遠に動き続けるため、命綱を断ち切られたら漆黒(しっこく)の闇の中に吸い込まれていく以外なすすべはない。まさにそんな状況に、ブロックさん、クルーニーさんが演じる2人の宇宙飛行士は陥るのだが、そんな動きを可能にさせたのが、4年半かけて開発されたという最新の技術だった。
「役者もデブリもぐるぐる回っているという遊泳状態を保ちながら、その周囲のものすべてを動かすということを今回やっている。あるいは、自動車工場などで使われているロボット工学に基づいたアーム。あれは照明やカメラの移動のために必要だった。(シーンに応じて適切な照明をキャラクターに当てるために)LED照明も重要だった。あとは、12本のワイヤを使ったシステム。とはいえこれにはローテクも必要で、熟練の人形師がそれを使って(俳優たちを)動かしたりしていたんだ」と今回の撮影についてキュアロン監督は振り返る。
だからといって今作は、そんな特殊技術が売りの映画ではない。キュアロン監督にとってそういった技術は「カメラやクレーンやドリー(カメラを載せる台車)、音楽、そういった映画的言語、つまり映画的な体験を作りだすためのツール」でしかなく、「あくまでも大切なのはエモーショナルな(宇宙の)旅だ」と力を込める。
その言葉通り、今作にはブロックさんが演じるライアンというキャラクターに悲しい過去を背負わせているし、ほかにも生命の起源を象徴する水が効果的に使われたり、ライアンが体を丸める仕草がまるで胎児のように見えたりといった比喩的表現が見て取れる。
「この“90分間(今作の長さ)の旅”ではせりふはかなり少なく、人物背景もあまり描かれていない。そのため登場人物の感情は視覚的なメタファー(暗喩)と俳優たちの演技に負うしかない。つまり、逆境を通じて生還への可能性を探るライアンはまさに胎児であり、地球は母の象徴なんだ。それに逆境というのは、新しい知識を得てそれを蓄積することでもある」と暗喩が意図することを説明する。
また、魚から両生類やは虫類、さらに4足歩行のほ乳類から2足歩行の人間へといった生命の進化をうかがわせる表現もある。それについては「生存本能は自然界におけるすべての生き物が持っているものだ。しかし人類が他の生物と違うのは、生き延びようとする意思を反映させることができるところにあるんだ」と語った。
今作は、ハリウッドが好んで作るアクションあり、大爆発ありのSF娯楽作とは趣を異にする。だからといって、「2001年宇宙の旅」(1968年)のような難解な作品でもない。観客は、ライアンたちとともに宇宙空間に放たれ、漂い、彼らと同じ感覚を共有する。その感覚はすでに映画の冒頭、10分を超える長回しによる場面から始まっている。
長回しの多いNASA(米航空宇宙局)のドキュメンタリーなどから着想を得たというそのシーンについて、キュアロン監督は「まず我々は、作業をしている宇宙飛行士たちを第三者的立場で観察している。そこにデブリが飛んできて、事故が起きる。ライアンがくるくる回るとその瞬間から、今度はカメラも彼女とともに回り始める。それによって第三者的な視点は彼女の視点に切り替わる。そして彼女が回転から逃れると、今度は彼女とともに遊泳し始め、それを物理の法則に応じたよりよいカメラワークで撮っていくんだ」と詳細に解説。
その上で、「そうしたカメラワークの意図は、観客にこの作品を一人称的に見てほしかったから。原始的な世界、目の前に広がる世界をみなさんに体験してほしかったから。そして、主人公が体験するエモーショナルな部分、虚無感だったり、絶望であったり、死であったり、そういうものを観客のみなさんにも感じながら見てほしいと思ったからです」と終始熱弁をふるっていたインタビューを締めくくった。映画は13日から全国で公開中。
<プロフィル>
1961年生まれ、メキシコ出身。91年、「最も危険な愛し方」(日本未公開)で長編映画監督デビュー。93年、米テレビシリーズ「堕ちた天使たち」のエピソードを監督。95年の「リトル・プリンセス」で米映画の初メガホンをとり、98年には「大いなる遺産」で監督を務めた。2001年、メキシコ映画「天国の口、終りの楽園。」、04年、「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」、06年、「トゥモロー・ワールド」を監督。「パンズ・ラビリンス」(06年)、「ルドandクルシ」(08年)ではプロデューサーを務めた。
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