ゲノムハザード:キム・ソンス監督に聞く 記憶が上書きできたら「妻子のある設定で楽しみたい」

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 映画「ゲノムハザード ある天才科学者の5日間」が公開中だ。今作は第15回サントリーミステリー大賞・読者賞を受賞した司城志朗さんのベストセラー小説が原作で、日韓共作で映画化。記憶を“上書き”された主人公・石神武人を西島秀俊さんが演じ、石神の妻を装う美由紀に真木よう子さん、記者役でキム・ヒョジンさんらが出演。記憶の謎を中心にカーチェイスやアクションなどが展開する今作でメガホンをとり、脚本も担当したキム・ソンス監督に話を聞いた。

 ◇西島秀俊の魅力は「人間味があるところ」

 原作を読み、自分で製作会社に映画化の話を持ち込んだというキム監督。原作で最も印象的だったことを「アルツハイマーなど、記憶を失っていくという映画はたくさんあったと思うのですが、原作において今回の一番の違いは“他人の記憶が上書きされる”という独特の設定でした。同じようにアイデンティティーを求めていく映画だとしても、これはすごく独特な映画になるだろうと思いました」と表現する。続けて「面白いのは、自分が誰なのかが分かった瞬間、すべてを失い、すべてが消えるといったアイロニー的なところ。普段から“運命のアイロニー”というのが自分の中にテーマとしており、それを描きたいというのがあったので、これだ!と思いました」と映画化への思いを語る。

 原作の設定やストーリーに魅了されたキム監督は原作との出合いを「運命です」と話す。どのようにして原作と出合ったのだろうか。キム監督は資料収集のために図書館へ通っていたそうで、そのときに「科学書籍を見に行くと、多分、誰かの間違いかもしれないし、『ゲノムハザード』というタイトルなので誰かが(科学関連の書棚に)小説を置いてしまったのかは分からないのですが、たまたまそこにありました」という。そして、原作を手に取った理由が「最初は『ゲノムハザード』というタイトルを不思議に感じました。“ゲノム”と“ハザード”ということで『うん!?』と思って、その不思議な感覚から手に取ってみたという経緯です」とタイトルにあったことを明かした。

 今作は主人公の記憶の謎を追っていくというサスペンス的なストーリーに、カーチェイスやアクションなど、さまざまな要素で構成されている。シーンの中でキム監督は、主人公の石神が妻を探している最中、「飛行機に乗りに行って美由紀と一瞬すれ違う場面」が最も記憶に残っているという。この場面は「もともとシナリオになかったのですが、現場で付け加えたシーン」だと明かす。「やっと美由紀にたどり着いて会えるというところで、行こうとして一瞬戸惑って止まってしまうところなのですが、自分が探して求めていた美由紀に見覚えがないというような感情を出したかった。そこがアイロニーにつながると思うので、すごく愛着があります」と説明した。

 主人公を演じた西島さんの演技力にキム監督は感嘆し、監督自身ファンになったという。西島さんの魅力を「純粋にすごく人間味、ヒューマニティーがあるというところ」と表現する。「個人的に演技がうまいへたはあまり意味がないと思っていて、俳優さん自身、人間に対してどれぐらい悩み、研究しているか、その気持ちが大事だと思っています。西島さんはそういった面では、すごく魅力的だと思います」と持論を展開する。続けて「映画をものすごく愛しているということ」も魅力だといい、「『自分が俳優だから映画が好き』ではなくて、本当に映画のマニアというか、たくさん映画を見ていますし、見た映画について語ることも大好きですし、そういった面ですごく合ったので、“映画人”そのものだなと思いました。一緒に作業している間、映画人の友だちとして、西島さんと一緒に(仕事が)できてすごく幸せでした」と話した。そして、「映画の話だけではなくいろいろな話を共有でき、話せるようないい友人ができた」と笑顔を見せた。

 ◇“記憶”と“思い出”の違い

 劇中のせりふに“記憶”と“思い出”という単語が、似て非なるものとして象徴的に使われている。ニュアンスの違いを聞くと、キム監督は「記憶は脳、フィジカルなことで脳の領域だとしたら、思い出というのは物理的とか科学的とかでは説明できない、そこから抜け出した感性の領域ではないかな」と表現。もともと、ドキュメンタリー番組でアルツハイマーの特集を見たことが単語の使い分けをするきっかけになったといい、「アルツハイマーで自分が誰なのかも分からない、記憶が失われている方が、昔の息子さんとの思い出について話をしている場面を見て、記憶は全部消えても思い出というものはどこかに残っているものだということをすごく感じた。その要素をせりふでこの映画に持ってきたい、一言でまとめたいと思って作ったせりふが『記憶は消えても思い出はどこかに残っている』というものです」と明かす。

 映画化に際し、原作から舞台や時代背景など、さまざまなエッセンスの足し引きがあったが、キム監督が特にこだわったのがクライマックスでの観覧車のシーンだ。「美由紀がまるで“ざんげ”しているような空間のため、原作でも描かれているような2人だけの場所にこだわりたかった。石神は答えを聞くために大変なことを乗り越えてたどり着いたところで、実際に自分が聞きたかった言葉は、ほぼ記憶が薄れていて聞きたかったことを聞けなくなるというアイロニーも入っている場所なので、セットまで作ってやりました。一番こだわったところです」と熱弁する。

 キム監督がこれまでに夢中になったポップカルチャーは映画音楽で、「映画音楽を作るのが夢だった」という。「今回の音楽は、川井憲次さんという素晴らしいパートナーのお陰で、かなわなかった夢は満足したというか、かなえさせていただきました」と笑顔で語る。映画については「スティーブン・スピルバーグ監督の『ジョーズ』という映画を見て、幼いながら衝撃を受け映画のことを夢見ていました」と話す。そして「『美しき野獣』と『ゲノムハザード』の両方とも川井さんと一緒に仕事ができたのですが、音楽作業をしているときはすごく興奮しますし、楽しかったです」と楽しそうに振り返る。

 日韓共作となった今作について、「一番気にしたことは、お互い違うやり方で作業していた人たち、慣れない環境で慣れない人たちとやらなければいけないというところだった」と語る。「いい作品にするためには、いい撮影現場を作ること、それはみんなが楽しくて仕方ない、“遊び場”というか、現場に行ったら楽しいというような撮影にしたかった。そういうところは、まさに自分が追求した部分かもしれません」。そんなキム監督に「もし自分の記憶が上書きされたら?」と聞くと、「自分は独身なので、奥さんと子どもがいるという設定で楽しみたい。自分ができないことをやりたいので、そういう人の記憶が自分の中に入ってほしい。同じ映画業界の人の上書きはできれば避けたいですね」とちゃめっけたっぷりに答えた。映画は、TOHOシネマズ六本木ヒルズ(東京都港区)ほか全国で公開中。

 <プロフィル>

 1971年生まれ、韓国出身。ソウル芸術大学映画科在学中から短編映画の分野で才能を発揮し、「ホテルカリフォルニア」(1994年)、「暴力映画」(95年)などの作品で各種短編映画祭で受賞を果たす。自身の作品と並行し、パク・チャヌク監督やソン・ヘソン監督など実力派の監督の下で助監督を務める。2006年、「美しき野獣」で長編映画監督デビューを果たす。

(インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)

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