メイジーの瞳:両監督と子役に聞く 6歳の少女の目線で撮影「メイジーに主導権を与えたかった」

「メイジ−の瞳」について語った(左から)デビッド・シーゲル監督、オナタ・アプリールちゃん、スコット・マクギー監督
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「メイジ−の瞳」について語った(左から)デビッド・シーゲル監督、オナタ・アプリールちゃん、スコット・マクギー監督

 6歳の少女から見た大人の世界を描く「メイジーの瞳」が1月31日から全国で公開された。離婚した両親の身勝手さに振り回されながらもけなげに生きる少女メイジーの姿を通して家族のあり方を問いかける今作は、2005年公開の映画「綴り字のシーズン」でも家族を描いたスコット・マクギー、デビッド・シーゲル両監督によるもの。作品のPRのために昨年11月に来日した2人と、メイジー役のオナタ・アプリールちゃんに話を聞いた。

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 マクギー監督は「幼い少女メイジーの経験を通して、そこから何かを感じてもらいたい」という。その少女メイジーは6歳。アートディーラーの父(スティーブ・クーガンさん)とロック歌手の母(ジュリアン・ムーアさん)が離婚し、親権を共同で持つことになったため、10日ごとに両親の家を行ったり来たりする不安定な生活を余儀なくされる。メイジーの気持ちなんてお構いなしに、父親は早速メイジーのベビーシッター、マーゴ(ジョアンナ・バンダーハムさん)と再婚。それを知った母も、これ見よがしにバーテンダーのリンカーン(アレキサンダー・スカルスガルドさん)と再婚する。境遇がますます不安定になるメイジーだが、純真な彼女はマーゴともリンカーンとも仲良くなっていく……というストーリー。

 映画は、メイジーの目線で描かれている。といっても、カメラの位置が極端に低いといった小手先の手法では撮られてはいない。「工夫したのは、コスチュームや照明、セットのデザインです。音響効果の役割も大きい。確かに、カメラの位置が低いときもありますが、ずっとその高さではありません。ようは、メイジーに主導権を与えたかったのです。だから何かが起きていても、ほかの俳優は映さずにメイジーだけを撮るといった方法をとりました」と撮影の裏側を語るマクギー監督。

 メイジーを演じるのは、現在8歳のオナタちゃん。2人の監督は、何百人もの少女に会ったがふさわしい子が見つからず、撮影まで1カ月を切ったところで彼女に出会ったという。その静かでナチュラルな雰囲気に引かれたというが、もちろん演技力も抜群だ。シーゲル監督は「彼女は、周囲の大人たちがあれこれ手を焼かなくても自然にコミュニケーションができる。つまり、自分の気持ちを表現することができるんです。それはあの(作品の)ポスターを見れば一目瞭然。わずか1枚の写真ですが、メイジーの心を雄弁に物語っている。オナタの才能を証明するものだと思います」と絶賛する。

 当のオナタちゃんは監督のコメントなどどこ吹く風だ。持参したスケッチブックに無心に絵を描いている。来日して取材ばかりで疲れていることもあるだろう。そんな彼女に、「メイジーはどんな子?」と聞くと、ちょっと考えてから「とても物静かな子です」と至極短い答えが返ってきた。確かに、映画の中のメイジーも寡黙だったが、子供の扱いに慣れていない筆者は冷や汗をかきながら、気を取り直して「メイジーのどんなところが偉いと思った?」と続けて聞くと、「偉い」が「すごい」と伝わったようで、「えっと、リンカーンに登っていくところです」という答えが返ってきた。リンカーンは母親の再婚相手。長身の彼にメイジーがふざけてよじ登るシーンがあるのだ。こちらが意図していなかった答えにますます困り、ひとまず、「高いところはどうだった?」と場つなぎの質問をすると、「すごくいい景色でした」とにっこり笑って返すところに愛嬌(あいきょう)がある。なるほどシーゲル監督が「彼女は一緒にいて楽しいし、ユーモアがある子」というのもうなずける。

 両監督は撮影前、オナタちゃんを相手に演出をどうしたものかと思案したそうだ。しかしふたを開けてみれば他の俳優たちと肩を並べ、完璧にメイジーになりきっていたという。その演技は、リアル過ぎるため即興かと思いきや、すべて脚本通りだという。「彼女はその場の状況、その瞬間に自分を置くことがすごくうまい。僕らが演出したというより、脚本に書いてあることを彼女は理解し、それを実践したんだ」とシーゲル監督。そこで、オナタちゃんにせりふをどうやって覚えたのかとたずねると、「えっと……一つのせりふを覚えるまで何度も何度も言って、それを覚えたら次のせりふに移って、四つぐらい覚えたらそれを通してやってみました」とのこと。演技コーチをしている母親のバレンタインさんを相手に練習したという。

 メイジーは、自分を愛してくれる父と母、“友だち”のリンカーンとマーゴの間で、ときに邪険にされながらもけなげに頑張る。そして最後には“幸せ”を求めて重大な決断する。シーゲル監督の言葉を借りるなら「子供ならではの鋭い感性で、自分のニーズに応えてくれる人」を探し当てるのだが、そのときのメイジーの気持ちを、「すごくうれしかったと思います」と、これまた言葉少なに分析するオナタちゃん。幼くして大人顔負けの演技をするのだから、素顔は人見知りのしない、活発なよくしゃべる少女だと思っていたこちらの予想は見事に外れてしまった。

 ところが、写真を撮る際、きょとんとしていた彼女に「好きなポーズをしてみて」とお願いすると、途端に満面の笑みで「えっへん!」のポーズ。監督に抱え上げられると屈託なく笑い、その姿は無邪気な女の子そのものだった。その変わり身の早さには舌を巻いたが、それこそが、ムーアさんやクーガンさんといった名優たちを相手に堂々と渡り合って演技ができるゆえんなのだろう。そんなオナタちゃんが胸キュンの演技を見せる今作。シーゲル監督の「幼い少女に感情移入してもらえたらうれしい」との思いは、きっと観客に届くことだろう。映画は1月31日から全国で公開中。

 <スコット・マクギー監督&デビッド・シーゲル監督のプロフィル>

 マクギー監督は米カリフォルニア州生まれ。シーゲル監督は米ニューヨーク州生まれ。1990年に初めて2人で短編映画を撮り、以来一緒に活動している。93年、長編デビュー作「Suture」(日本未公開)がサンダンス映画祭で絶賛される。ほかの作品に「ディープ・エンド」(2001年・日本未公開)、「綴り字のシーズン」(05年)、「ハーフ・デイズ」(09年)がある。

 <オナタ・アプリールちゃんのプロフィル>

 2005年、米ペンシルベニア州生まれ。4歳ごろから母であり演技コーチのバレンタインさんが娘のために作ったウェブ用映像作品で演技をするようになる。テレビシリーズ「LAW&ORDER:性犯罪特捜班」(10年)や映画「THE HISTORY OF FUTURE FOLK」(12年・日本未公開)、「ALMOST FAMILY」(13年・日本未公開)などに出演。祖母は日本人で「おばあちゃんは昔、鎌倉に住んでいた」という。

 (インタビュー・文・撮影:りんたいこ)

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