テレビ質問状:ノンフィクションW「135人のオーケストラ」 福島の音楽教育プログラムを追う

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 WOWOWは、毎週金曜午後10時に「ノンフィクションW」枠を設け、オリジナルのドキュメンタリー番組を放送中だ。この枠では、見る人を新しい世界へと誘うフルハイビジョンの“ノンフィクションエンターテインメント”番組をWOWOWプライムで毎週、テーマを変えて放送している。3月14日に放送される「135人のオーケストラ~福島に響け!ぼくたちのメロディ」を担当したWOWOW制作部の富樫佳織プロデューサーに、番組の魅力を聞いた。

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 −−番組の概要と魅力は?

 2011年3月11日。あれから3年。2013年4月から福島県相馬市でスタートした、子供たちのための音楽教育プログラム「エル・システマ」を追いました。「エル・システマ」は南米ベネズエラで生まれた“音楽を通した社会活動”といわれています。経済不況、家庭環境や犯罪、非行で苦しむ子供たちが、教室で楽器演奏を学び、ユースオーケストラで演奏することによって、協調性や自立心を生み出してきました。

 昨年4月にスタートした福島県相馬市の音楽教室も、同年12月のクリスマスコンサートで地元の人たちを前に見事な演奏を披露しました。そのオーケストラに参加した子供たちは、タイトルの通り「135人」です。オーケストラに参加した多くの子供は、楽器未経験者です。子供たちが音楽によって、何を見いだし、どう変わっていったのかを、青島ディレクターは半年以上にわたって丹念に取材してくれました。福島に暮らす人々の日常、今の福島を伝える番組です。

 −−今回のテーマを取り上げたきっかけと理由は?

 日本で初めて「エル・システマ」という音楽プログラムが福島県相馬市でスタートしたことを東北新社さんのディレクター、プロデューサーから伺い、「音楽の力」を追うドキュメンタリーを作りたいと思いました。また、WOWOWが2011年3月11日の東日本大震災を受けて掲げた「エンターテインメントにできること。」というメッセージを伝える企画だとも思いました。

 東北新社さんのチームとは、昨年も被災地に暮らす人たちを取材したドキュメンタリーを制作し、その経験から、チームとして番組を通して東北を見つめ続け、伝えていきたいという思いを共有していた背景もあります。

 ただし、東北に暮らす人々に取材を通して触れる度に、本当にテレビ番組で取材をすることが皆さんのためになっているのか。私たちの番組で、人を傷つけたり、悲しませたりすることがあるのではないかという葛藤が常にあります。

 −−制作中、一番に心がけたことは?

 今回は子供たちの取材だったこともあり、彼らの日常に寄り添い、ちょっとだけその日常の中に場所を作ってもらって入れてもらう、というスタンスを大事にしました。

 震災の話も、インタビューとしてあえて聞かなくてもいいと考えていましたし、初期のミーティングでチームとしてその方向性、心の持ち方を共有しました。取材の過程で、皆さんの会話や言葉の中で出てくることを真摯(しんし)に受け止めようという気持ちをスタッフで常に意識しながら撮影を続けました。

 −−番組を作る上でうれしかったこと、逆に大変だったエピソードは?

 このままの言葉で使っていただいていいのですが、「うれしい」とか「大変」という言葉で何かを語ることすら、東北を取材して、その場所に生きる人々と接すると、躊躇(ちゅうちょ)するのが現実です。福島で暮らす皆さんの日常、今の気持ちをまっすぐに伝えていきたいと思いますし、それができたらいいなと、思うだけです。

 子供たち、一人一人が強く、生き生きしているのを見ると幸せな気持ちになります。昨年4月に初めて弦楽器に触った子供が、年末のコンサートまでに驚くほどの上達を見せてくれたことにも感動しました。淡々とした子供たちの日常の中に、音楽が確実に生きていること。音楽とともに生きることが、人の気持ちを変えていくことを、相馬市の子供たちから教えてもらえたと思います。

 現在オフラインを続けていますが、正解が見つからないですね。正解、というか伝えたいことはスタッフの中にあり、議論をして前に進んでいますが、それが本当に正解なのか、誰かを悲しませるのではないかという気持ちが常にあります。

 −−番組の見どころを教えてください。

 子供たちが音楽によって、静かに、でも確実に変わっていく姿です。

 −−視聴者へ一言お願いします。

 番組を作ること、取材することについて、悩みながら進んでいます。取材を受けてくれた子供たち、お母さんやお父さん、音楽教師の皆さんの「今」を真摯に伝えることがすべてかなと考えています。

 WOWOW 制作部 プロデューサー 富樫佳織

 共同製作:プロデューサー 斎藤充崇(東北新社)、ディレクター 青島太郎(東北新社)

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