樋口直哉さんの青春小説を映画化した「大人ドロップ」が公開中だ。思春期特有の言葉にできない不安や焦りを抱える4人の高校3年生が、大人へと変わろうともがく姿を描いた青春映画で、周囲が成長していくことに焦りを隠せない主人公・浅井由を池松壮亮さん、ヒロインの入江杏役を橋本愛さんが演じている。そのほか由の親友のハジメ役として前野朋哉さん、杏の親友のハル役に小林涼子さんが出演。「荒川アンダー ザ ブリッジ」(2012年)の飯塚健監督がメガホンをとった。大人の入口にいる若者たちを好演した池松さんと橋本さんに話を聞いた。
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橋本さんの初対面での印象を「思っていたよりいい子そうだなと思いました」と笑顔で切り出した池松さんは、「もっといい意味でとがっているのかなと思っていた。もちろん全部いい意味でいい子だなと思いました」と明かす。一方の橋本さんは出会いから時間がたってしまったためか、「(池松さんの第一印象は)あんまり覚えていない……」と申し訳なさそうな表情を見せるも、「でもすてきだなと思いました」とその印象を話す。
今作への出演を決めた理由について、池松さんは「すごくシンプルで、よく知っているプロデューサーからの話だったので何であろうがやろうと思っていました」と信頼を置く人物からの依頼だったことが大きいと語る。橋本さんは「久しぶりに映画のお話をいただいて、伊豆のロケということも聞き、『外の空気が吸いたいな』と思いました」と久しぶりの映画出演に気持ちが高ぶっていたそうで、そして「(『桐島、部活やめるってよ』=12年=での共演以来)久しぶりに前野さんにお会いできるのもうれしかったです」と笑顔を見せる。
今作は大人の入り口にいる高校生のモヤモヤとドキドキを見つめた群像劇が展開されていく。脚本を読んだ時の印象を橋本さんは「甘酸っぱいと思ったら、ほぼ甘いという(笑い)。そういう印象が大きかったですね」と話す。池松さんは「どうするかなという感じ」と初めて脚本を読んだとき戸惑ったことを告白し、「(物語にあるような高校生活は)あまり通っていないので。ただ、意味のないフラストレーションとかいろんなものを持ち込んで、それでいいのかなと思い、とりあえずやってみようという感じでした」と文字通りモヤモヤとドキドキを抱えて撮影に臨んだという。
周囲が成長していくことに対し思い悩む由と、幼なじみで由がどこか意識している杏。役柄について池松さんは「恋愛どうこうとかいう思い出はないし、すべてが共感できるかといったらそうではない」というが、「青春のいわゆるキラキラした部分だけではない部分も盛り込まれていたので、最初の段階でよりどころはありました」と打ち明ける。続けて「僕自身の青春時代もそこまではキラキラしていなかったし、内容は違えども恥ずかしいことや痛かったこととか、それ以上に楽しかったこととかたくさんありましたしね。普段なら見せなくていい部分とか、(通常の)映画として描かれない部分までちゃんとやろうとしているということはすごく共感できました」と自身の体験と照らし合わせて青春の泥くさい部分を表現することには共感を持ったという。
一方、橋本さんは「対抗意識で人を好きになる錯覚みたいなものが全然分からないから男性特有のものと決めつけることもできないし……。そういう意味ではすごく傍観してしまいました。結構、(役柄の)杏ちゃんに寄って(作品を)見ているところはあったので、そういえば私も手紙が好きだなとか、(親友の)ハルちゃんとの唯一の思い出についても自分にとっても唯一の思い出と同じものがあるなと思っていました」と語る。
杏の役作りをする上で男性から見た女の子の理想像を参考にしたという橋本さん。具体的には「監督とスタッフさんが青春について、そのころに何にグッときたなどいろいろ話し合ったみたい」と切り出し、「(話し合いで出たのが)大きいメガネとごつい腕時計、メガネを上げる仕草とかで、それを詰め込まれました」とほほえむ。
撮影は伊豆急沿線のロケが多く、さまざまな苦労などもあったと思われるが、池松さんは「2週間くらい僕は現地にずっと行きっぱなしだったので、それはすごくありがたかったですね。すごくいいところでしたし、東京でやるのとは全然違ったと思う」とロケならではの雰囲気が演技に好影響を与えたと話す。橋本さんも「いいところでした……。おすしを食べたかったですね」と振り返る。その理由を聞くと「池松さんと前野さんが2人で行った回転ずしがおいしかったと聞いたのですが、私は食べることができなかった……」とうらやましそうな表情を浮かべた。
ロケが多かったため共演者とともに過ごす時間も多かったようだが、池松さんは「前野さんが虫が嫌いで、僕が寝ていて夜中にパッと起きたら(前野さんが)立っていて『何しているの』と聞いたら、こっちを見ずに『池松くん、虫がいる』と。結構デカい虫とにらみ合いをしていました(笑い)。寝ないつもりだったらしいです。代わりに退治してあげました」と前野さんとのエピソードを披露する。
思春期は人間関係や環境の中で自分が何を考えているか、何をしたいか分からないという悩みもあり、映画でもテーマの一つとして描かれる。自分が何をしたいか分からないという経験があるかと聞くと、「今もありますし、あの時もすごくあった。先の分からないフラストレーションをずっと抱えていた気がします」と池松さん。フラストレーションのぶつけ先は?と水を向けると「分からないですし、ぶつけていたのかすら分からない。でもなかったらなかったで今どうしていいか分からないですし、ある意味そこが原動力になっている部分もある。特に高校時代は意味のない怒りみたいな何かモヤモヤも含め、理由が分からないものがたくさんあった気がします」と当時の心境を振り返る。
同じ質問に対し、橋本さんは「私はあまり記憶にないですね。分からないというときもちゃんと考えたら意外と本音にたどり着いたりして、結構明確かもしれないです」と池松さんとは対照的な答え。冷静な一面もあるのかと思いきや、「(冷静)というよりはすごく分かりやすいんだと思います(笑い)。分かりやすく単純だから『こうだからこうだろうな』と(すんなり納得してしまうと)いうのが多いです」と自己分析をする。
今作では手紙が印象深いアイテムとして登場するが、2人は物心ついたときから携帯電話が身の回りに存在していた世代だ。手紙にまつわる思い出を聞くと、橋本さんは「好きな作家さんとかから手紙をもらったり、文通していると、一度もお会いしたことないし、顔も分からないし、携帯電話の番号も知らないという上で文通しているところがあって、そういう意味では(手紙は)“最終手段”みたいなところもある」といい、続けて「何時間もかけて一枚を完成させたりとか、どうしても丁寧に書こうという気持ちが出ますね。手紙はもらってうれしいというのが一番です」と愛着をみせる。池松さんも「やっぱり手紙をもらったときはうれしかったな。手紙っていいな、すてきなものだなというのは今もありますね」と語る。
初めて熱中したポップカルチャーは2人とも映画だといい、池松さんは「ゴジラが好きで3~4歳のころに初めて映画館で見た作品も『ゴジラ』」だったという。橋本さんは「私は『天空の城ラピュタ』かな。ジブリのDVD……ではなくてビデオテープがまだ家に残っていて、その中でも一番『ラピュタ』ばかり見ていました」とか。
最後に2人に改めて「大人ドロップ」の見どころを聞くと、橋本さんは「自分が傍観して作品を見ていたというのもあり、その中でお客さんはすごく心に引っかかってほしいなという思いが芽ばえて、一番は“恥ずかしがってほしいな”というのが大きいです。それぞれもどかしいとか切ないとか、なんでもいいのですけど一瞬でも引っかかってグッとなっちゃったら、映画がすごく意味があったなと思います」と話した。池松さんは、橋本さんの発言を聞き、「まさに(橋本さんが)言っている通りです。本当に引っかかってほしい。(橋本さんの発言を僕との)連名にしておいてください」とちゃめっ気たっぷりに笑った。映画は全国で公開中。
<池松壮亮さんプロフィル>
1990年7月9日生まれ、福岡県出身。2000年に10歳で劇団四季ミュージカル「ライオンキング」のヤングシンバ役でデビュー。「ラスト・サムライ」(03年)で映画デビューを果たし、第30回サターン・若手俳優賞にノミネートされる。おもな映画出演作は「鉄人28号」(05年)、「ダイブ!!」(08年)、「いけちゃんとぼく」(09年)、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(11年)など。ドラマは「15歳の志願兵」(NHK)やNHK連続テレビ小説「梅ちゃん先生」、「Q10」(日本テレビ系)などに出演。今年は映画「春を背負って」などの公開を控える
<橋本愛さんプロフィル>
1996年1月12日生まれ、熊本県出身。モデル活動する一方で女優としても「告白」(2010年)に出演。以降は数々の映画やドラマ、CMに出演し、12年公開の「ツナグ」「桐島、部活やめるってよ」などの演技が評価され、第86回キネマ旬報 ベスト・テン新人女優賞、第36回日本アカデミー賞新人俳優賞などを受賞。13年はNHK連続テレビ小説「あまちゃん」で主人公の親友・足立ユイ役として出演し脚光を浴びる。14年は映画「リトル・フォレスト」「寄生獣」などの公開を控える。
(インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)
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