「アヒルと鴨のコインロッカー」「ゴールデンスランバー」などで知られる伊坂幸太郎さんの青春小説が原作の映画「オー!ファーザー」(藤井道人監督)が公開中だ。父親と呼ぶべき存在が4人もいる高校生の由起夫が父親たちとともにとんでもない事件に巻き込まれ、奮闘する姿を描く。由起夫役を岡田将生さんが演じ、個性豊かな4人の“父親”には佐野史郎さん、河原雅彦さん、村上淳さん、宮川大輔さんが扮(ふん)している。由紀夫の“押しかけ彼女”の多恵子役を演じる忽那汐里さんに、主演の岡田さんの印象、父親が4人いるなど奇想天外な設定や長編初挑戦となった藤井監督のことなどを聞いた。
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今作の主人公・由起夫はごく普通の高校生だが、生まれた時から4人の父親がいるという奇妙な生活を送っている。この設定について「どういうことで4人になっているのかな」と疑問に感じた忽那さんは、「普通は4回違うふうに(家族を)形成したのかなと考えましたが……」と前置きし、「4人といっても誰がお父さんか分からないというのは決してないことですから面白いなと思いました」と話す。ちなみに忽那さんに4人も父親がいたら……「(父と息子の)男同士でこの家族はとても仲がいいですけど、もし娘に対して4人も父親なんて多分、すごい甘えっぱなしなのか、逆にみんなうるさいほど心配性で、ちょっとうっとうしくなってしまうのか、どっちかですよね」と笑う。
4人の父親は大学教授の悟を佐野さん、ギャンブラーの鷹を河原さん、元ホストの葵を村上さん、体育教師の勲を宮川さんが熱演。おのおのが違う魅力を持つ4人だが、忽那さんに直感的に好きな順位を付けてもらうと、「いとおしいなというのではなく性格的に面白いなと思うのは、鷹さん。ひょうきんな感じが周りを楽しませる」と忽那さん。続けて、「佐野さんの役はとても知的なので、勉強のみならず人間としても知識豊富で何か(人間として)勉強になるなと思います。あとは……宮川さん、ムラジュンさん(の順)ですかね」と笑顔で語る。
伊坂作品についてのイメージを、忽那さんは「特に映画化されたものについては全部、オチというか最後にどんでん返しのようなものがある作品で、『オー!ファーザー』もすべて謎だったものがだんだんと、最後はすべて解けていくんですけど、その世界観が独特だなと思います」と評する。自身が伊坂ワールドに参加することになり、「伊坂ファンの皆さんにとっては一人一人のキャラクターがすごく思い出深く大切なので、役は崩さず原作のようにはしたいと思いました。私の役は単純な設定で、性格もすごい明るくて年相応のいわば普通な感じの高校生。それ以上に作品が面白そうだなと思いました」と感じたという。
今作はコミカルで笑いあふれる序盤から、伏線が張りめぐらされ次第にサスペンスの様相を呈す中盤、そして伏線を回収しつつ感動もある結末へと向かっていく。サスペンスやコメディーといった多面性を持つが、「ちょっと不思議なにおいがするというか、全体を通して映像の質は結構暗めですが、その異様な雰囲気みたいものが不思議だなと思う」と持論を展開。好きなシーンとして由起夫たちの家でのシーンを挙げ、「事件に関して父親4人が必死に追っていきますが、家の中の息子と親がするふとした会話がいい。由起夫も高校生らしくないというかひねくれてなく、(父親が)4人もいて絶対ひねちゃうはずなのにとてもお父さんに対して真摯(しんし)。不思議だけど違和感があまりない日常のシーンがいいなと思いました」という。特にマージャンのシーンが好きだといい、「カメラワークの感じと、しーんとしている中でみんなの笑い声とか話し声が響き渡り、とても印象に残る」と話す。
自身が演じた由起夫の同級生・多恵子を「とにかく単純でおしゃべりですけど、嫌みがない分、何かこうちょっと切り離せない」イメージにしたといい、「由起夫は独特な良心的な性格もありますけど、(多恵子は)どこか憎たらしくはないので、そばにいてもちょっとうるさいぐらいですむ。だから事件についてもわざとらしく緊張しているのを隠そうとしてという計算的な“裏の裏”はしたくなく、今回の役は“単純”にしたいと思いました」と役作りに臨んだ。由起夫の魅力を「とにかくこの性格」と話し、「お人よしといえばお人よしですけど、それを貫いているというか、(物語のような環境では)単純にお父さんとも素直な姿勢で話をできないと思う。そして家族愛。(由起夫は)お父さんたちが好きで彼の生活の大きな一部ですから、友だちよりもお父さんなのではという感じが素直でいい」と由起夫のよさを語る。
そんな由起夫役を演じた岡田さんの印象を、忽那さんは「本当にいろんなものを一生懸命に回してくれていました」と切り出し、「(撮影が)すごいタイトでしたし、もしかしたら岡田さんはすごく大変だったと思いますが、ご本人がすごい楽しそうにやっていたので、見ていて一緒について行こうと思いますよね」と感謝の言葉を述べる。メインキャストに男性陣が多い現場だったが、「和気あいあいとしていて、男性陣は本当に仲がよさそうでした。お芝居をしていて皆さん楽しそうで、だからこそマージャンのシーンとかも雰囲気が生きたと思います」と振り返る。印象に残っていることは「冒頭の『どうも由起夫の父です』という紹介のところ」と多恵子と4人の父親が遭遇する場面を挙げ、「最初の方に紹介みたいなのがありすごく印象的でしたけど、意外と大変でした」ともらす。
由起夫と多恵子が会話しているところに鷹が現れ、その後、ほかの3人も次々に集まってくるというシーン。「(4人が集まってくるのは)本当にタイミングを合わせてやっているので、鷹さんが自転車で来てちょうどせりふが終わる時に後ろから引きで歩いていた悟さんが着き、みんなが着くとなる。佐野さんが映画を100本も経験すると『歩数も大体感覚で分かる』とおっしゃっていて印象的でした」と佐野さんの体験談に驚かされたという。
メガホンをとった藤井監督は今作が長編デビューとなるが、「監督はお会いすると、とても柔らかくて、ちょっと声が小さくすごくおとなしそうな方で、とにかく映画が好きで仕方がないという印象。初長編で緊張されていたと思いますが、監督となった瞬間には目の色が違いました」と忽那さんは監督の印象を語る。「単純に(年齢が)近いので、感覚的なもので、壁を一つ乗り越えなくちゃいけないというのはない。年上の監督だと構えてしまう部分もありますが藤井監督は年齢が近いので自分も変な構えをする必要がなく、自分も落ち着いて物事を考えて意見を一緒に言い合ったりできました」とほぼ同世代の監督との現場から刺激を受けたという。
藤井監督の長編デビュー作に出演し「すごく光栄なこと。これから楽しみな監督ですし、監督がどんどん作品を撮っていき、多くの人たちに知られていくときに、初めての作品を見返してくださる方とかがいたりというのも光栄ですね」と笑顔を見せる忽那さん。今作の魅力を「伊坂さんの原作でもありますし、若い藤井監督の初めての長編作品で斬新なコメディーサスペンス。由起夫とお父さんたちのかけ合いがとにかく可愛く、絶対楽しんでいただけると思うので、ぜひ劇場までお越しいただければと思います」と笑顔でアピールした。最後に、4人の父親のような言ってはいけない秘密を知ったらどうするかを質問すると、「なかなか言えないですよね。自分の目で見て一緒にともに時間を体験したからいいですけど、ただ言葉として4人の父親がいるといっても変な誤解しか与えないので、私も言わないと思います」と話して再び笑った。映画は全国で公開中。
<プロフィル>
1992年12月22日生まれ、オーストラリア出身。2006年に「第11回全日本国民的美少女コンテスト」審査員特別賞を受賞。07年にドラマ「3年B組金八先生」(TBS系)で帰国生徒の役を演じ女優デビューを果たす。09年には「守護天使」のヒロイン役で映画デビュー。以後、ドラマ「家政婦のミタ」(日本テレビ系)や映画「BECK」(10年)など数々の話題作やヒット作に出演し、現在は4月から放送中のドラマ「ビター・ブラッド」(フジテレビ系)に出演。13年度の日本アカデミー賞では新人俳優賞を受賞した。
(インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)
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