ラノベ質問状:「カーマリー地方教会特務課の事件簿」 ネット小説を発掘 緻密な世界観が魅力

橘早月さん作、中嶋敦子さんイラストの「カーマリー地方教会特務課の事件簿」1巻
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橘早月さん作、中嶋敦子さんイラストの「カーマリー地方教会特務課の事件簿」1巻

 話題のライトノベルの魅力を担当編集者が語る「ラノベ質問状」。今回は「カーマリー地方教会特務課の事件簿」(橘早月さん作、中嶋敦子さんイラスト)です。ぽにきゃんBOOKSの井上弘美さんに作品の魅力を聞きました。

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 −−この作品の魅力は?

 数年前に著者がネット小説で発表していた作品で、簡単に言うと“異世界中世ファンタジーもの”で、レストラニクス聖教国・カーマリーという地方都市の教会で日々巻き起こる数々の難事件を特務課の面々が解決していくお話です。

 内容は一見細かな設定があって難しく思えるのですが、橘早月のシリアス&コメディーのバランスのとれた手法が、読みやすさ=世界観の分かりやすさにつながっており、読み始めるとするすると読めてしまうマジックのような感覚が不思議と心地よく、「面白かった!」で終わる爽快感を感じられると思います。それでいてストーリー自体は一本筋の通った骨太さも味わえる、読み応え十分な内容となっています。

 イラストはアニメ「逮捕しちゃうぞ」や「薄桜鬼」シリーズ(古くは「らんま1/2」も)のキャラクターデザインや作画監督など、数々の大作を手掛ける人気アニメーター・中嶋敦子さんに描いていただきました。特に中嶋さんの画風はアニメファンの間でも非常に人気が高く、ほかに追随を許さない美麗な作画でも知られていますので、小説と合わせてこの美しいイラストにも注目いただければと思います。

 −−作品が生まれたきっかけは?

 ネット小説で話題となった当時、こういった中世ファンタジーものが多く書かれていたこともあって、かなり話題になっておりました。ある作家さんからのご紹介で、橘さんと知り合う機会を得て、拝読したところ、あまりのクオリティーの高さに「出版されてないなんて!」と驚きました。そこから一気に出版化へ動き出しました。弊社で本当に絶好のタイミングで「ぽにきゃんBOOKS」というライトノベルを創刊することになりまして、「これは!」と思い、ノベルとして復活させていただきました。

 −−作家さんとイラストレーターさんはどんな方でしょうか?

 橘さんはとてもまじめで、優しい方です。こちらからの無理難題にも真摯(しんし)に対応いただけるので、編集者としてはとても楽をさせていただいています(笑い)。とはいえ、作品の細部に至るこだわりがすごいので、あれだけ緻密(ちみつ)な世界観やキャラクターを構築できるのかなと思います。

 イラストは、アニメのキャラクターデザインで有名な中嶋敦子さんにお願いしました。私がこの作品を読んだとき、お話をより際だたせるためには、一般にライトノベルに描かれているようなイラストではなく、きちんとこのお話の世界観や厚みが伝わる方でないと、と思ったときに真っ先に浮かんだのがアニメを生業(なりわい)とする中嶋さんでした。

 中嶋さんには以前仕事でお会いしたことがあったのですが、「カーマリー」の本文をお渡しして読んでいただき、単刀直入に「ぜひイラストを描いてください!」とお願いしました(笑い)。彼女も作品を読んでとっても気に入ってくださって、快くというか、毎回ノリノリで描いていただきました。著者の橘さんも中嶋さんのイラストはすごく気に入ってくださっているようです。

 −−編集者として、この作品にかかわって興奮すること、逆に大変なことについてそれぞれ教えてください。

 すでに作品としてはあったものなので、橘さんには若干の修正をお願いしただけで内容はほとんど当時と変えていません。そういう意味での大変さは今回はありませんでした。

 橘さんには追加で書店特典のショートストーリーを書いていただいたり、細かなキャラの相関図を作る際にもかなり協力していただいています。何よりもレスポンスが速い! 編集者にとって一番の幸せです(笑い)。

 イラストは絵を入れるシーンもこちらでチョイスさせていただけたので、中嶋さんと一緒に「ここのシーンはこんな感じがいいんじゃないか」とか、中嶋さんから「このシーンのこのキャラをぜひ描きたい」とおっしゃっていただいたりして、2人で毎回楽しく想像しながら決めていきました。そして、イメージ通りのイラストが上がってきたときの上がるテンションったらなかったです! 実は中嶋さんは、今どきのデジタルな手法は一切使わず、すべて手描きで、その水彩で描かれた生原画は本当に素晴らしい!!の一言。紙面に描かれたイラストを受け取る瞬間は毎回手が震えました!! イラストをいただいた帰りは、10枚の挿絵とカラーイラストを抱えて一目散に会社に帰りました。

 −−今後の展開は?

 実はこの後の続編などもありますが、今のところ発売に関してはまだはっきりとした予定はしておりません。まずは、今、出ています第1部のお話をできるだけ皆さんに読んでいただけたらと思っております。ですが、せっかく中嶋さんにイラストを描いていただいたということもありまして(実はキャラクターの非常に細かな設定も作っています……)いろいろなコンテンツへの可能性を秘めていると思います。ぜひ、ご期待いただければと!

 −−最後に読者へ一言お願いします。

 1巻のカバーイラストは実は主人公ではなく、その上司だったりするのですが、男性読者諸氏にはあのドSチックな眼差しが恐れ多い方もいらっしゃるかもしれません。ですが、勇気をもって読んでいただければきっと、あの緻密な設定や物語の世界観はゼッタイ気に入っていただけると思います。女性読者の方は主人公のジークフリート(名前はアレですが……)をぜひ応援していただければきっとかなり楽しく読んでいただけると思います。前出の中嶋さんの生原画が見られる原画展示とサイン会もあります。生原画が見られる機会はめったにありませんし、著者とイラストレーター2人そろったサイン会もめったにありませんので、この機会にぜひこの作品に触れていただけるとうれしいです。

ポニーキャニオン 第2映像事業本部 第2映像制作部 井上弘美

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