不機嫌なママにメルシィ!:ギョーム・ガリエンヌに聞く「典型的なアイデンティティー探しの話」

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 フランスで300万人動員のヒットを飛ばし、2014年度セザール賞で主演男優賞を含めて5部門で受賞したコメディー作「不機嫌なママにメルシィ!」が27日に公開された。日本で公開中の映画「イヴ・サンローラン」で、イヴの実在のパートナー役を演じたギョーム・ガリエンヌさんが、自身の半生を基にした舞台劇を初監督作として映画化。ガリエンヌさんが少年時代から現在までを自身で演じ分けただけでなく、女装で「ママ」にも扮(ふん)して“ママとボク”の一人二役をこなしているのも話題だ。母親に女の子のように育てられた“ボク”が、自分のセクシュアリティーを探索する旅路を描く物語。このほど来日したガリエンヌさんは、「ユニークな語り口だけど、典型的なアイデンティティー探しの話です」とほほえむ。

ウナギノボリ

 ◇ママに憧れてマネをしていたのが俳優としての原点

 ガリエンヌさんは2005年、フランスの国立劇団コメディー・フランセーズの正団員になり、舞台や映画で活躍してきた。本国で人気テレビ番組のホスト役をつとめ、06年には、日本の能の舞台(龍生会主催)に立つため来日もした。今作では、主演・脚本・監督の三役をこなす才能豊かな俳優だ。

 映画は、裕福な家庭の男兄弟の末っ子で、母親に女の子のように育てられて、自分を女の子だと思い込むギョーム(ガリエンヌさん)が、自分の生き方を決めるまでの自伝的な物語を描いている。

 「エレガントなママに憧れて、その振る舞いをまねていたんです。それが僕の役者としての原点。これは、一人の役者が誕生するストーリーでもあるんです」とガリエンヌさん。

 原題は「Les garcons et Guillaume a table!(男の子たちとギョーム、ご飯ですよ!)」だ。「女の子が欲しかった」という母親の願いから、子ども時代は上の兄弟と区別されてこう呼ばれていたという。そのため、自分が特別な存在として見られていると意識したのだとか。

 しかし、男らしいパパ(アンドレ・マルコンさん)から強制的に男子校に入れられてしまうギョーム少年。いじめにあったり、転校先の英国の学校で男子生徒に失恋をしたり……。ガリエンヌさんいわく「悲痛なユーモア」に包まれた自分探しの物語は、自身のセクシュアリティーを試す奇妙なチャレンジが大真面目に語られ、どこか滑稽(こっけい)だ。本国でヒットを飛ばした理由については、「映画に誠実さがあったからかな」と分析する。

 「語り口はユニークだけど、これは典型的なアイデンティティー探しの話。個人的な物語ですが、母親との関係も複雑で、思春期の子どもの悩みを描いているユニバーサルな話です。社会から貼られているレッテルや自分への先入観に苦しんでいる人が多いから共感してもらえたのかもしれません」

 ◇「イヴ・サンローラン」では「喪」の気分を出した

 ギョーム少年のお手本となるママは、きちんとした身なりで常に冷静。感情を露わにしない。上品でとてもチャーミングだが、強烈な個性も感じさせる。そんな母を自ら演じ、全編に「母親が大好き!」という思いが伝わってくるが、インタビュー中も母親に話が及ぶと、それはそれは優しい笑顔で語り出した。

 「母のことが大好きなんです。彼女に笑わされて、ホロッとさせられる。母は本当は慎み深くて、とても悩んでいるんだ。そしていつも小さなことで文句ばかり言ってるのに、ブルジョワジーの羞恥心(しゅうちしん)が邪魔して、大切なことは口にできないんです(笑い)」

 劇中、最愛の母親からゲイと間違われていたエピソードも飛び出すが、ガリエンヌさんは母親に反発したことはなかったのだろうか。「反抗期はいつだったかなあ? 父が亡くなった時だった? いや、妻と結婚した時かな? もっと前にもあったような……」と明確に思い出せないほど、反抗期を過ごさなかったご様子。

 公開中の映画「イヴ・サンローラン」では、イヴを陰ながら支えるパートナー役として出演中。今作とはまるで別人を演じている。

 「全く違いますよね。『イヴ・サンローラン』でピエール・ベルジェを演じたときは、視線も声の出し方も自然に低くなります(と言いながらガリエンヌさんが演じて見せる)。実在の人物だったし、イヴがいなくて寂しい気分、“喪”の気分を体現しなくてはならなかったからです」

 芝居の原動力は、「完璧にいい仕事をしたい」という気持ちだとか。しかし、「失敗も努力した結果。学びや経験になっている」とも語る。そんなギョームさんが表現において大事にしていることとは……。

 「僕は役の人物の中にあるエネルギーを感じて、スポンジのように吸収していくんです。でも、どんなに吸収しても、そのスポンジが自分自身であることが大事。現場では監督、共演者からの気の流れをキャッチしながら、シーンを作っていきます。僕の愛読書は谷崎潤一郎の『陰翳礼讃(いんえいらいさん)』。役のキャラクターも、役者同士もコントラストが強いほどいい。そこにエネルギーが生まれるからです。今作では素晴らしい共演者と僕とのコントラストもうまく活用できたと思っています」

 出演はガリエンヌさん、マルコンさんのほか、フランソワーズ・ファビアンさん、レダ・カテブさん、ダイアン・クルーガーさんら。27日から新宿武蔵野館(東京都新宿区)ほか全国で順次公開。

 <プロフィル>

 1972年2月8日生まれ。フランス出身。4人兄弟の三男として育つ。2005年から、コメディー・フランセーズの正規団員として数々の舞台に立つ。今作のオリジナル舞台劇でモリエール賞を獲得。フランスを代表するダンサー、シルビー・ギエムさんや、ピアニストのアレクサンドル・タローさんや、日本有数の能楽師・九世観世銕之丞さんらと親交がある。おもな映画出演作に、「タンゴ・レッスン」(97年)、「花咲ける騎士道」(03年)、「モンテーニュ通りのカフェ」(06年)、「マリー・アントワネット」(06年)、「オーケストラ!」(09年)などがある。

 (インタビュー・文・撮影:キョーコ)

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