100年に一人の声を持つ韓国人テノール歌手を襲った悲劇と日本人の音楽プロデューサーとの絆を描いた日韓合作映画「ザ・テノール 真実の物語」(キム・サンマン監督)が、11日から公開される。ともに俳優だけでなく監督としての顔も持つユ・ジテさんと伊勢谷友介さんが共演。オペラの名曲をちりばめた聴き応え十分の作品に仕上がっている。2010年の前作「ミッドナイトFM」でユさんを起用したキム監督がメガホンをとった。
ウナギノボリ
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テノール歌手ベー・チェチョル(ユさん)は、「リリコ・スピント」に分類される繊細で力強い歌声を持ち、オペラの本場、欧州公演で大喝采(かっさい)を浴びた。私生活では妻ユニ(チャ・イェリョンさん)と一人息子に囲まれ、幸せな日々を送っている。チェチョルの声にほれ込んだ日本人の音楽プロデューサー、沢田幸司(伊勢谷さん)は、日本のオペラ公演に招聘(しょうへい)すべく、路上で直談判する。チェチョルの日本公演も成功を収め、沢田の会社の新人でオペラに無知だった美咲(北乃きいさん)もその歌声に心を動かされる。打ち上げ会の夜、沢田はチェチョルと深く絆を結ぶ。しかし、チェチョルは欧州で練習中に突然意識を失って倒れ、甲状腺がんを宣告される。さらに手術によって声が出なくなってしまうという事態に陥る……という実話に基づいたストーリー。
冒頭、オペラの華やかな舞台を裏から丁寧に見せていく。豪華絢爛(けんらん)な舞台上でチェチョルが喝采を浴びる姿を、さまざまなショットで映し出し、成功に酔いしれている姿がまぶしく見える。この輝きから一転、声を失って奈落の底に落とされたときの衝撃は、オペラの感動をチェチョルと一緒に味わったあとだからこそ、とてつもなく大きい感じる。絶望……その一言しかない。生命線を断たれた芸術家の焦りと苦悩を、ユさんが大熱演。人生の激動の渦にいる日々を、舞台のようなメリハリの利いた演出で見せる。チェチョルさん本人の全盛期の歌声で吹き替えられた歌唱シーン「誰も寝てはならぬ」(プッチーニ「トゥーランドット」から)に酔いしれる。ユさんは発声、呼吸、姿勢など細かく指導を受けたという。音楽プロデューサーとの国境を越えた男の友情と妻の献身的な支え、そして日本の医療技術が一人の芸術家を守った。諦めない強さは、周囲の人々の応援があってこそ最強になるのだと思い知らされる。東劇(東京都中央区)ほかで11日から公開。(キョーコ/フリーライター)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。最近心が震えた映画は、メキシコの女性監督クラウディア・サントリュスのデビュー作「マルタのことづけ」(18日公開)。
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