ブラッド・ピットさんが製作総指揮と主演を務めた戦争映画「フューリー」(デビッド・エアー監督)が28日に全国で公開された。第2次世界大戦末期のドイツを舞台に、最後の抵抗を繰り広げるドイツ軍に、“フューリー=激しい怒り”と名付けられた戦車で立ち向かった米軍兵士5人の必死の攻防を描く。ピットさんがフューリーの指揮官“ウォーダディ”ことドン・コリアー軍曹を演じ、彼の下に送り込まれた新兵ノーマンを、「パーシー・ジャクソン」(10年、13年)シリーズなどの作品で知られるローガン・ラーマンさんが演じている。ピットさんとともに登場した来日会見の際、今作を「自分にとって特別な作品になった」と話していたラーマンさんに、改めて今作について聞いた。
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「本当に挑戦しがいのある役でした。僕のような若い俳優の場合、同じような役を繰り返し与えられがちですが、今回は新しい分野だったし、心底やりたいと思いました」と、ノーマン役について語るラーマンさん。
ラーマンさんは、2000年の「パトリオット」でメル・ギブソンさんの息子役を演じスクリーンデビューを果たした。それ以来、「パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々」(10年)をはじめとするヒット作にコンスタントに出演してきた。「年齢を重ねて複雑な役が来るようになった」と本人が言う通り、12年には「ウォールフラワー」で心に闇を抱える青年を、「ノア 約束の舟」(14年)ではノアに反発する次男を演じた。
そして今回演じたノーマンは、タイピストの訓練しか受けておらず、戦闘経験は一切ない18歳の新兵だ。にもかかわらず戦闘で部下を亡くしたウォーダディのチームに送り込まれ、わけが分からぬままフューリーに乗り込むことになる。映画は、フューリーと5人の兵士たちのわずか1日の出来事を描くが、想像を絶する体験を経て、ノーマンは精神的に変化を遂げていく。
役作りのためにラーマンさんは、ピットさんとほかのメンバー3人(シャイア・ラブーフさん、マイケル・ペーニャさん、ジョン・バーンサルさん)とともに、撮影前に4カ月間のトレーニングをこなし、その後“仕上げ”として6日間のブートキャンプに参加し、当時の兵士たちの過酷さを疑似体験した。ブートキャンプでは「戦車での寝泊まりや野宿」はもとより、ほかにも「5人が互いにサポートし合わなければ達成できないようなタスク」をこなしたという。
例えばそのタスクには「水が入った二つの樽を、地面に付けることなく、自転車2台とロープを使って300ヤード(274.32メートル)離れたところに10分間で、しかも樽の水は一滴もこぼさずに運べ」というものもあった。「まったくどうやっていいか分からない難題を吹っかけられるんです。いろいろ考えるんだけど、結局できない。でも、その後には、フィールドを何周も回って来いとか、寝ている間にベッドをひっくり返されたりとか、そういう罰が待っているんです」と当時のことを苦笑交じりに振り返る。
しかし、そういった体験が「5人が完全にファミリーのようになれたし、自分が演じたキャラクターの視点や考え方が理解できるようになった」と演技に役立ったことを認め、さらに日常生活においても「それまでも自分のことは忍耐強い人間だと思っていましたが、より忍耐強くなったし、精神面でも強くなったと感じます」と、総じて「すごく有益なものだった」と手応えを感じたという。
ラーマンさんが最も心動かされた場面として挙げたのは、ノーマンがウォーダディにドイツ兵を殺すよう命じられるところで「演じるのも見るのも、とてもつらい場面でした」としみじみと語る。その言葉通り今作は、戦争映画だけに残酷な場面もあり、だからこそ平和のありがたみや命の尊さが伝わって来る。
「僕は、文明的でリベラルな理想的な環境で育ちました。でも世界に目を向けると、常に争いごとがあり、暴力がある。僕自身、それはとても不自然なことだと思うけれど、それが人間の歴史なんですよね……」としばし考え込み、「兵士に(戦争や人間の残酷さを問う)同じ質問をしても、おそらく彼らもうまく説明できないと思う。彼らにとってそれは職務。なぜこれをやっているのかと自問してしまうと戦えなくなってしまう。人が人を殺すということ自体が不自然なこと。だから、何も質問せず職務をこなす兵士こそが、有能な兵士ということになるのだと思う」と言葉を選びながら兵士の気持ちを代弁した。
日本でも戦争体験者が減ってきている中、この作品が若者にもたらす影響力は大きい。ラーマンさんは今作を見ることで、「戦う人たちに対する尊敬の念が、きっと増すと思います。彼らがどういうものを見て、どういう体験をしているのかを理解できるし、実際に体験できます」と話し、その上で「戦争というものによって、どれだけ人が精神的にも肉体的にもダメージを受け、そしてそれが人間の魂にどのような影響を及ぼすかを知ることができると思います」と若い世代へ向けてメッセージを送る。
今年22歳になり、前回「三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船」(11年)で来日したときよりも顔つきが精悍(せいかん)になり、インタビューの受け答えも力強くなった。そんなラーマンさんに憧れの俳優を聞くと、迷わずピットさんの名前を挙げ、「彼にはずっと憧れてきました」と明かす。そしてピットさんについて、「彼(ピットさん)は先輩風を吹かせたり、あれこれいうタイプではありません。謙虚で心が広い俳優」と評し、ピットさんからいわれた、「これからもよいフィルムメーカーと組み、そういう人たちとの作業を大事にしていけ」というアドバイスは胸に深く刻まれたという。そして、「彼のように幅広い役を演じられる俳優になりたい」と前向きに語った。映画は28日から全国で公開中。
<プロフィル>
1992年、米カリフォルニア州出身。2000年「パトリオット」でスクリーンデビュー。以降、「サンキュー、ボーイズ」(01年)、「バタフライ・エフェクト」(04年)、「3時10分、決断のとき」(07年)などに子役として出演し、「パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々」(10年)、「パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々:魔の海」(13年)で主演を務める。ほかの出演作に「三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船」(11年)、「ウォールフラワー」(12年)、「ノア 約束の舟」(14年)などがある。
(取材・文/りんたいこ)
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