ブラッド・ピット:「フューリー」で指揮官演じ「父として子を育てる上で役に立つことを学んだ」

ブラッド・ピットさんの最新出演作「フューリー」 (C)Norman Licensing,LLC 2014
1 / 3
ブラッド・ピットさんの最新出演作「フューリー」 (C)Norman Licensing,LLC 2014

 ブラッド・ピットさんが製作総指揮と主演を務めた戦争映画「フューリー」(デビッド・エアー監督)が全国で公開中だ。映画は、1945年4月、第2次世界大戦末期のドイツを舞台に、最後の抵抗をする300人の精鋭部隊のドイツ軍に、“フューリー=激しい怒り”と名付けられた戦車で立ち向かった米軍兵士5人の必死の攻防を描いている。フューリーの指揮官“ウォーダディー”ことドン・コリアー指揮官を演じたピットさんに、今作について聞いた。

ウナギノボリ

 −−主演に加えてプロデュースも担当しています。それほど引かれたという脚本についてどう感じられたのですか?

 まずプロデュースについて、僕はそれほど重要な役割は果たしていないんだ。今回は演技に専念し、役作りに入魂する必要があったんだ。この映画はむごたらしさという土壌の中で人間性を見いだす話だ。自分では戦争は体験していないが、人間、経験を積むことで真実を見る目が養われるのではないかな。美化されない真実が大切であると感じるようになった。

 この映画が見る者に問いかけるのは、睡眠もとれず疲労困憊(ひろうこんぱい)した状態で、戦争の悲惨さに直面し、罪ない人や仲間が無残に殺されるのを目の当たりにしたとき、それが人間の心にどんな影響を及ぼすのか、そしてそれを人はどう生き延びるのか、ということなんだ。そこにはヒロイズムがあるのか。

 この映画では、戦車部隊というマイクロな世界が描かれる。大戦も終わりに近づいたころ、長年連れ添った5人だが1人の隊員を失い、新しい隊員が加入する。戦争も終盤で、経験のある隊員は見つからず新隊員は全く経験のない若者だった。この無垢(むく)な若者に、僕の役は父親的な気持ちから戦争のむごさを教え込もうとするんだ。荒々しく教え込むことで、他の隊員が危険にさらされることを阻止しようとするんだ。

 −−今回演じた“ウォーダディー”について、どういう人物だと考えましたか。

 乗組員たちの命を預かっている車長であり、責任者であり、戦車のオペレーション全般を見るし、また皆の士気を高めなければならない。また小隊の司令官でもあるので他の4両の戦車にも指令を出さなければならず、交戦する際のナビゲーションも戦略的に考えていかなくてはならない。敵との距離も図り、どこに脅威が潜むかも見定めなければならない。すべてが彼の判断に委ねられるんだ。だから隊員たちの信頼を勝ち得なければならないし、自分自身でも確信がなければならない。皆の生死は彼の判断一つに懸かってくるからね。

 −−今作のリアルな映像作りについてはどのように感じていますか。

 デビッド(エアー監督)のリアルへのこだわりは相当なものだ。お陰で素晴らしい経験になったよ。第2次大戦の退役軍人達にも会うことができ、彼らは今はもう90歳を過ぎているが、ノルマンディー上陸作戦やバルジの戦いの体験談を聞かせてくれた。頭の下がる思いだった。

 −−クランクイン前に行われたブートキャンプについて教えてください。

 1週間ほどブートキャンプへの参加を課せられた。1週間といっても、実際に訓練している兵士たちからしてみたらほんの一瞬だと思うし、僕らの体験は観光程度の優しさだったろう。それでも毎朝5時起床の本格的なトレーニングだった。フィジカルトレーニングを2時間、その後に講義、労働、障害物トレーニングなどが夕方まで続く。飯は冷たいし、雨の中で寝たり、夜中に起きて見張り役をやったりもした。とにかく全力投球だった。訓練は皆を追い込み、戦場がどんな感じだったのか少しでも実体験できるように組み立てられていたし、最悪の状況の中でも士気を奮い立たせるようにもできていて、なかなか面白かった。

 またチーム内で序列が作られ、皆が一丸となって苦難を乗り越えられるように仕組まれていた。苦難といっても本物の兵士たちが日々感じている苦難とは比べようもないだろうけれど。訓練のお陰で固い絆ができたし、心構えもでき、達成感も感じた。それがスクリーンににじみ出ていると思うよ。父親として子供を育てる上で役に立つことも多く学んだ。チームでもお互いの弱点も分かるようになったので、補完し合えるようになった。みんなが大好きになったよ。訓練を終えるころには、俳優といえどもタンク(戦車)を操縦できる5人になっていた。映画の保険会社は気が気でなかっただろうけどね。

 −−実際戦車を操縦してみて、戦車の乗組員についてどう感じましたか。

 戦車の乗組員は一つの機械として機能しなければならない。つまり乗組員たちはお互いの役割をちゃんと分かっていなくてはならず、一人がやられたら他の人がすぐに代わりを務められるようにしなければならない。ほんの小さな失敗でも全員にとって命取りなんだ。

 −−この作品は仲間との絆が丁寧に描かれています。

 そのへんが、この映画の誰にでも共感できる点じゃないかな。家族を持っている人なら誰でも共感できると思うよ。家族というのは、どこの家庭でも愛や絆や、不満や怒りや思いやり、協力、落胆、さまざまな要因で結ばれていると思うから。

 −−映画が完成した気持ちを。

 今作には満足している。理屈抜きで心に響く経験をした。こうして映画を公開することができてうれしい。労力をつぎ込んだ結果だからね。

 <プロフィル>

 1963年12月18日、米オクラホマ州出身。ハリウッドを代表する俳優。1987年ごろから映画やドラマに出演し始め、デビッド・フィンチャー監督「セブン」(95年)と「ファイトクラブ」(99年)でその演技が高い評価を受け、世界から注目される。その後、「スナッチ」(2000年)、ヒット作となった「Mr.&Mrs.スミス」(05年)などに出演し、人気を不動のものとした。11年にはカンヌ映画祭でパルムドールに輝いたテレンス・マリック監督「ツリー・オブ・ライフ」とベネット・ミラー監督「マネーボール」に出演し、演技が高い評価を受け、「マネーボール」では全米映画俳優組合賞、ゴールデン・グローブ賞、英国アカデミー賞、アカデミー賞の主演男優賞にノミネートされた。その他、これまでの受賞歴として、「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」(08年)、「12モンキーズ」(95年)でアカデミー賞男優賞にノミネートされ、「12モンキーズ」ではゴールデン・グローブ賞助演男優賞を受賞。「レジェンド・オブ・フォール/果てしなき想い」(94年)、「バベル」(06年)でもゴールデン・グローブ賞にノミネートされている。さらに、最近は俳優業にとどまらず製作にも活躍の幅を広げており、プロデューサーを務めた「それでも夜が明ける」(13年)は、第86回アカデミー賞作品賞をはじめ、数々の映画賞を総なめにした。

写真を見る全 3 枚

映画 最新記事