テレビ質問状:「ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックス 50年の挑戦」スコセッシ制作

マーティン・スコセッシ監督 photo:Brigitte Lacombe
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マーティン・スコセッシ監督 photo:Brigitte Lacombe

 WOWOWは10月から毎週土曜午後1時に「WOWOWオリジナルドキュメンタリー」枠を設け、「ノンフィクションW」と「国際共同制作プロジェクト」の2番組を両輪に、国内外のさまざまなテーマを扱ったオリジナルのドキュメンタリー番組を放送する。12月13日に放送される「国際共同制作プロジェクト ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックス 50年の挑戦」を担当したWOWOWのロサンゼルス駐在員事務所の鷲尾賀代エグゼクティブプロデューサーに、番組の魅力を聞いた。

ウナギノボリ

 −−番組の概要と魅力は?

 1963年の創刊から米国の代表的な雑誌の一つで、欧米では知的層のほとんどが愛読しているといわれる文芸誌「ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックス」が扱う題材は、84歳になる編集者が興味を持つ題材で科学やアート、人権、政治、戦争など多岐にわたり、その共通点は内容が“真実”であること。創刊当初から一貫した“真実を発信する”という信念のため、多くの困難に直面し挑戦し続けて来た編集者の情熱と使命感にあふれた50年の歴史が描かれています。

 また、この雑誌の寄稿者たちも編集者と同じ姿勢で、自分自身の目で見て感じたことを他人の意見に左右されずに記事にする。彼らの信頼関係も見どころの一つです。

 −−今回のテーマを取り上げたきっかけと理由は?

 ベルリン映画祭に別の共同制作ドキュメンタリーのワールドプレミア上映に参加した時、マーティン・スコセッシ監督が、次回手がけるドキュメンタリーの制作プレゼンを行うと聞き、「まだ制作前のドキュメンタリーのためにわざわざスコセッシ監督がプレゼンに? これは特別な作品に違いない」と思い、帰りの飛行機の便を遅らせてプレゼンを拝聴しました。そして72歳のスコセッシ監督と、題材となる雑誌の84歳の編集者のエネルギッシュな情熱に魅せられ、この人たちと一緒に作品を作りたいと思ったのがきっかけです。

 −−制作中、一番に心掛けたことは?

 日本ではなじみのない雑誌であり、扱う事件や人物も一般的知名度はそれほどなかったので不安な部分はありました。欧米でも知的層以外にはそれほどなじみのない雑誌だということで、雑誌の歴史ドキュメンタリーというよりは、根底にある普遍的なメッセージ性を感じてもらえるように工夫したいという話を制作陣としました。また完成後も、少しでも間口を広げるために、スコセッシ監督から日本向けの解説映像を特別に撮影させていただいたり、日本語版ナレーションを渡辺謙さんに依頼したりと日本向けの工夫にもご協力いただきました。

 −−番組を作る上でうれしかったこと、逆に大変だったエピソードは?

 共同制作の相手が、長年憧れていたスコセッシ監督と彼が信頼を置く制作チームだということは、最初どこまで突っ込んで行けるのか不安な要素ではありました。

 しかし、彼らはクリエーティブ面で一流なだけでなく、人間性も一流で、とても温かくチームに迎え入れてくれ、プロデューサーのマーガレットとは何度メールや電話を交わしたか数え切れませんし、スコセッシ監督とともに共同監督を務めるデビッド(・テデスキさん)も「質問や疑問点があればいつでも電話して来ていいよ」と本編のみならず、日本向けの解説番組制作時の質問などにも快く対応してくれました。

 うれしかったことの一つとしては、カナダ・トロント映画祭でのプレミア上映でのこと。(米ケーブルテレビ局の)HBOがいつも世界向けのプレゼンなどで、「HBOのブランド構築に一番役立っていることは、一流のクリエーターや俳優たちがエミー賞や各映画祭でHBOへの感謝を壇上で述べてくれること。多額の広告料を支払うCM以上の効果を得られる」と言っていましたが、なんとスコセッシ監督がトロント映画祭の上映前のあいさつでWOWOWへの感謝を述べてくださいました。座席から落ちそうになるくらい驚きましたが、うれしい出来事でした。

 −−番組の見どころを教えてください。

 冒頭の脳神経学者のメッセージがすべてを象徴しています。「私たちの脳が、世の中の出来事を、直接伝達したり記録したりすることはない。私たちにとっての真実とは、語られた真実のみだ」。つまり語り継がれると、真相にかかわらずその内容が“真実”になっていくということ。そのため真実しか報道されるべきではないというジャーナリズムの神髄は、背筋をただしたくなる事実です。そして、先人の考えや思想を後世に残す“本”や“文章”の大切さ、知的興奮を覚えることの重要性が感じられる作品です。

 −−視聴者へ一言お願いします。

 彼らのこだわりである“真実を発信し続けること”というのは、孤独でとても勇気が必要なこと。時には抗議の手紙やメールが大量に送られて来るような局面もあるけれど、ジャーナリズムの基本姿勢を崩さないこの雑誌のドキュメンタリーを“今”制作したスコセッシ監督の現代への警鐘とも取れる強いメッセージを感じてもらいたいです。

 また、同時に、日本の視聴者の皆さんがさまざまなことに疑問を持ったり、考えたり、議論することのきっかけになればうれしいです。

 WOWOW ロサンゼルス駐在員事務所 エグゼクティブプロデューサー 鷲尾賀代

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