戦前カナダに実在した日系人野球チーム「バンクーバー朝日軍」を題材にした、俳優の妻夫木聡さん主演の映画「バンクーバーの朝日」(石井裕也監督)が20日に公開される。バンクーバー朝日軍は、1914~41年にカナダのバンクーバーで活動した日系カナダ移民の2世を中心とした野球チームのこと。2003年にはカナダの移民社会や野球文化への功績が認められ、カナダ野球殿堂入りを果たした。映画では差別や貧困と戦いながら、日系移民に誇りと勇気を与えた朝日軍の活躍を描いている。カナダ人チームに対して、力ではなく技術で立ち向かっていく爽快感があり、朝日軍メンバーを演じる亀梨和也さんや上地雄輔さんら野球経験者による本格的な試合のシーンには思わず手に汗握る。
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1900年代初頭、多くの日本人が期待に胸をふくらませ、新天地であるカナダへと渡った。しかし、移民たちを待っていたのは彼らに対する差別に過酷な肉体労働、貧困といった厳しい現実だった。毎日を耐え忍ぶ中、製材所で働くレジー笠原(妻夫木さん)やケイ北本(勝地涼さん)、漁業に従事するロイ永西(亀梨さん)らは野球チーム「バンクーバー朝日」を結成するが、体格で上回る白人チームに負け続けていた。ある日、レジーは偶然起こった出来事をきっかけに、バントと盗塁を駆使するプレーを思いつき……というストーリー。
今作は、表向きは野球チームを題材とした映画だが、試合シーンがそれほど多いわけでもなく、朝日軍がバントを中心とした攻撃を仕掛けるため、野球の花形であるホームランなどのシーンもなく派手さに欠ける感は否めない。しかし、そこにこそ今作に込められたテーマや思いなどが見え隠れする。昭和初期の戦争が続く重苦しい時代の空気と、希望が見えにくく閉塞(へいそく)感に包まれた移民2世の若者らの姿が、現代日本とも重なって見え、胸に訴えかけてくる。野球経験のあるキャストはもちろん、本格的な野球経験がなかったという妻夫木さんも含め、一切の吹き替えなしで展開する試合シーンはリアリティーにあふれ、懸命さが伝わってきてすがすがしい。舞台となる時代背景的には爽やかさとはほど遠いのだが、鑑賞後には心地よい感動の余韻に浸れる。日本人街のセットが緻密に作り上げられており、必見だ、TOHOシネマズ日劇(東京都千代田区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
<プロフィル>
えんどう・まさき=アニメやマンガ、音楽にゲームなど、ジャンルを問わず活動するフリーの編集者・ライター。イラストレーターやフォトショップはもちろん、インタビュー、撮影もオーケーと、どこへでも行き、なんでもこなす、吉川晃司さんをこよなく愛する自称“業界の便利屋”。
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