人気作家の宮部みゆきさんが執筆に9年をかけたというミステリー巨編「ソロモンの偽証」が、2部構成で映画化され、7日に「前篇・事件」が公開された(「後篇・裁判」は4月11日から公開)。男子中学生が謎の転落死を遂げ、大人たちが保身に走る中、死亡した男子生徒の元クラスメートたちは「校内裁判」によって真実を解き明かそうとする。3冊に及ぶ長大な原作を、映画化にあたってどのように削ぎ落していったのか。33人の生徒たちは、1万人の候補者の中からどのように選ばれたのか。成島出(なるしま・いずる)監督に聞いた。
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−−原作は3冊に及ぶ超長編。登場人物も多く、それぞれにエピソードがあります。それをどのようにして削ぎ落としていったのでしょう。
シナリオは、前後編の2部作をまとめて作りましたが、固まるまでに1年ぐらいかかりました。まず、主人公を誰にするかに時間がかかりました。原作では、大人になって学校に戻って来るのは藤野涼子(藤野涼子さん)ではないですし、柏木卓也(望月歩さん)の死体を発見するのも涼子ではありません。卓也が涼子をあそこまで追い詰めるというのも原作にはなかったことです。でも、裁判を言い出すのは涼子。そこから涼子を主人公にすると決めて、彼女と直接関係ある出来事を残し、彼女の感情が乗らない、いわゆる“事件”だけになってしまうものは省いていきました。
−−涼子以外の生徒が主人公になっていた可能性もあったのですね。
そうです。ひょっとしたら(涼子と死体を発見する)野田健一(前田航基さん)が主人公の映画になっていたかもしれません。ただ、僕は、この映画は(浅井)松子(富田望生さん)と卓也の話だと思ったので、この2人に誰が一番影響を受けるかというところから絞っていき、最終的に藤野涼子になったのです。
−−原作では、優等生として描かれている涼子が、映画では卓也から“偽善者”呼ばわりされるなど弱い面が見えました。
小説では地の文に細かい心情を書けるけれど、映画だとそうはいかない。映画でストーリーのプロットだけを追うと、涼子はただのスーパー中学生になってしまう。ですから映画では、特に前半の涼子は、泣き虫の弱い女の子で、だから周りの友達が力を貸すことによって裁判ができるという形にしたのです。
−−涼子役に藤野さん、卓也と友人だった他校の生徒、神原和彦役に板垣瑞生さんを選んだ理由を教えてください。
僕の中では、応募者1万人の中でこの2人しかいなかった。ですがこの2人を決めたときは、助監督を含め全員に反対されました。演技がまったくできなかったからです。引かれたのは、やっぱり目ですね。あとは声かな。子役からやってきた子はたくさんいましたが、藤野さんと板垣くんは、まだ殻を破ってなかった。というか本当にド素人でした(笑い)。ただ、殻の中にはいるんだけれど、資質がこの2人にはあった。それは本当にギャンブルでしたよ。選んで、1カ月やってみて、この2人が伸びなかったら、製作を中止して、また来年キャンペーンを張ろうと思っていましたから。
−−他の人で撮ることは考えなかったのですか。
僕は、そういう保険をかけるのは嫌だった。というのは、これは宮部さんが9年かけて書いた小説。それほどの小説なのです。その映画を、本当に素人で、すべてオーディションで選んでやるとなると1年で決まらない場合もあるでしょうから(映画化権を)2年お渡ししますと宮部さんが言ってくださったんです。ですから、藤野さんと板垣君が伸び切れなかったら、1回全部中断して、来年もう1度仕切り直すと僕は腹を決めていたんです。(今回製作に当たった配給会社の)松竹で2度と映画を撮れなくなってもね(笑い)。
−−生徒たちの演技指導に半年くらいかけたと聞きました。
そうですね。ほぼ4カ月くらいワークショップをやりました。例えば、今日はバスジャックをやります。神原君と涼子が組んで犯人役、松子と(三宅)樹里(石井杏奈さん)が組んで被害者の役。卓也と井上(康夫)君(西村成忠さん)が助かる役です。どうやったらどう助かるかをやってください、と。そういうことを延々、毎日いろんな課題でやらせるんです。その中で、演技のうまいへたではなく素質を見て、200人くらいから100人、そこから50人にと絞っていき、最後に33人を決めました。
−−ということは、オーディションのときからすでにトレーニングは始まっていて、最後に決まったと同時に、だいたい演技は出来上がっていたのですね。
いや、全然(笑い)。役を決めるまでがそれで、そこからクランクインまでの2カ月間は、今度はただひたすら徹底的にシナリオを読み込んでリハーサルをするということを、毎日放課後に繰り返しやりました。
−−「前篇」で印象に残っているシーンを教えてください。
やっぱり、雪のシーンにすごく苦労しました。これに関しては撮影班と美術班に感謝なんですけど、一昨年の12月から撮影態勢を組んで、ようやく(昨年の)2月に東京で20センチの雪が降った。それを実景で撮っておいて、映画の冒頭でお天気お姉さんが歩いてくるところと、線路脇を歩くところ、あれはすべて本物の雪で、ブルーバックで足が沈むように歩いたのを合成しているんです。本物の雪じゃないとうそ臭くなるので。
−−卓也の死体を見つける場面で、雪の中に倒れているのは望月さん本人ですか?
もちろんです。普通ああいう場合、映画ではデスマスクを使うんですが、僕がどうしても本人でやりたいと言って(笑い)。ですから、望月君を塩の中に埋めて、彼も目をカーッと開けて頑張ってくれました。そうそう、彼の目の中に雪がふーっと落ちて溶ける画があるんですが、そのへんもいろいろ技を使いました。
−−「前篇」と「後篇」の見どころを教えてください。
「前篇」は題名が「事件」で割とショッキングなこともあるし、どのキャラクターがなんなのかがまだ謎の中ですが、「後篇」はみんなが救われてくるんです。裁判をやることで真実が分かってきて、真実が分かれば分かるほど、分かった人たちが救われてくる。それがこの原作のすごいところで、だからこそ映画化したかったのです。
−−原作と同じ展開ですか?
形はそうですが、結構脚色した感じになっています。ですからこの映画は、僕にとってはハッピーエンド。この子たちが裁判をやり切ったときに見えてくるのは、生きていくことというか、その感動。映画を見終えて、重い、ウーンという感じにはならない。(「後篇」が)U2の曲「ウィズ・オア・ウィズアウト・ユー」で終わるのは、まさにそういうことで、たぶん「後篇」は「前篇」からは想像がつかない内容になっていると思います。
−−みなさんにお聞きしているのですが、成島監督が初めてはまったポップカルチャーを教えてください。
人形劇の「ひょっこりひょうたん島」(1964~69年)かな。「ひょっこりひょうたん島」は割と僕の作風の原点になっていて、あのテーマ曲とU2の曲ってちょっと似ているんです。前に進む感じが。ですから、「ソロモンの偽証」も「ひょっこりひょうたん島」なんです。この子たちの冒険を描くという意味では。
<プロフィル>
なるしま・いずる 1961年生まれ、山梨県出身。故・相米慎二監督や平山秀幸監督らの作品で助監督を務め、「油断大敵」(2003年)で監督デビュー。「フライ、ダディ、フライ」(05年)、「ミッドナイト イーグル」(07年)、「孤高のメス」(10年)、「聯合艦隊司令長官 山本五十六」「八日目の蝉」(ともに11年)、「草原の椅子」(13年)などを監督。最近の作品に「ふしぎな岬の物語」(14年)。また、脚本を担当した作品に「T.R.Y.トライ」(02年)、「るにん」(04年)、「クライマーズ・ハイ」(08年)、「脳男」(13年)などがある。
(取材・文・撮影/りんたいこ)
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