米アカデミー賞受賞作「アーティスト」(2011年)のミシェル・アザナビシウス監督が、企画を温めてきた映画「あの日の声を探して」が24日に公開された。戦争の犠牲になった人々が懸命に生き抜く姿を力強く描いた感動作だ。3月に作品のPRのために来日したアザナビシウス監督に、映画に込めた思いを聞いた。
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「この映画を通じて、悲劇的な状況に置かれた人間の姿を描きたかった」と切り出したアザナビシウス監督は、たたみかけるように「私たちは、(戦争や紛争の)ニュースや報道番組が流れるたびに、死者は5000人だとか1万人の難民が移動していると知らされます。しかしそれは数字の上のことで、当事者の存在は遠いままなのです」と指摘し、その距離を縮めるために、「フィクションという方法を通じて、子供たちがどのような日常を送り、あるいは難民とはどういう人々なのかを描きたいと思った」と話す。
映画の舞台は、ロシアに侵攻された1999年のチェチェン共和国だ。しかし、「特定の紛争に対して政治的なスピーチをしたかったったわけではない」とし、「悲劇的な状況に陥った人々に対する、恵まれた人々の無関心を糾弾するつもりもない」と胸の内を明かす。むしろ「恵まれた国にいたら無関心でいることは当たり前のこと」と理解を示し、だからこそ、そうした状況に置かれた人々の「役に立つことが何かできないか」との思いに突き動かされ今作を作ったという。
物語は、「複数の視点を持たせる」という監督の意図のもと、主に4人の視点で描いている。その4人とは、ロシア軍に両親を殺され、そのショックで声を失った9歳の少年ハジ(アブドゥル・カリム・ママツイエフ君)、彼と出会い、のちに大きな決断を下すことになる欧州連合(EU)職員のキャロル(ベレニス・ベジョさん)、ハジと生き別れた姉ライッサ(ズクラ・ドゥイシュビリさん)、そして、ロシア軍に入隊させられた19歳の青年コーリャ(マキシム・エメリヤノフさん)だ。物語は、ハジ、キャロル、ライッサのパートとコーリャのパートが別々に描かれていく。監督の言葉を借りるなら、彼らは「本来なら一生出会うことのなかった人々」だ。それを、「映画だからと無理やり出会わせてしまうのは作為的」と考え、シナリオを書きながら、今回のような展開を思いついたという。その交差のさせ方は戦争の残酷さを際立たせ、衝撃的だ。
今作は、フレッド・ジンネマン監督の「山河遥かなり」(1947年)からストーリーを借りている。「山河遥かなり」では、少年を探すのは母親だったが、今回は母親ではなく姉だ。設定を変えたのは、「母と息子だとありがち」だと思ったことと、ハジに同情を強めていくキャロルが下す“決断”が「より重たいものである」ことを表現したかったからだという。
キャロルを演じているのは、前作「アーティスト」でヒロインを演じ、アザナビシウス監督とは私生活ではパートナーのベジョさんだ。今作の製作中、ベジョさんは「一緒にドキュメンタリーを見たり、いろんな人に会ったり、随時かたわらにいてくれ」、監督が脚本を書く上で大いに力を貸してくれたという。
フィクションとはいえ、紛争地域で取材をする多くのジャーナリストから話を聞いた。そのとき感じたのは「彼らの多くが、自分はなんの役にも立っていないという無力感にとらわれていたことだ」と振り返る。そんな彼らの気持ちをすくいあげるように、「ジャーナリストもまた戦っている」こと、「彼ら一人一人の記事は小さいものかもしれないが、それが少しずつ重なっていくことで歴史がつづられていく」ことを強調し、「たとえ小さくても、その力はとても重要なものです」と力を込める。
アザナビシウス監督は、今作を「とても女性的な作品だ」と表現する。なぜなら、「前線に立って報道するジャーナリストや写真家、あるいは作家には女性が非常に多く、また、勇気ある女性たちが、NPO(非営利組織)やNGO(非政府組織)などで働いている」ことを取材中に実感したからだ。「そういった女性たちにスポットを当て、その仕事を正当に評価する。この映画は、そうした意味合いのある作品でもあるのです」と語った。映画は24日から全国で順次公開中。
<プロフィル>
1967年生まれ、フランス出身。テレビの監督でキャリアをスタートさせ、99年に映画監督デビュー。「OSS 117 私を愛したカフェオーレ」(2006年・日本未公開)がフランス国内でヒットし、続編「フレンチ大作戦 灼熱リオ、応答せよ」(09年・日本未公開)も手がける。2011年、監督、脚本、編集を手掛けた「アーティスト」が作品賞、監督賞はじめ米アカデミー賞5部門に輝いた。このインタビューの前日、東京・中野にあるマンガ専門の古書店「まんだらけ」を訪れ、「ウルトラマン」のフィギュアを買ったことを照れくさそうに明かした。なんでもウルトラマンのストーリーは知らないが、ウルトラマンのフィギュア自体は知っており、「ルックスに引かれる」という。
(取材・文・撮影/りんたいこ)
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