三池崇史監督がメガホンをとり、俳優の市原隼人さんが主演を務めた映画「極道大戦争」が20日に公開された。伝説のヤクザの正体がバンパイアで、かみつかれた人間はヤクザ化してしまうという異色の世界を舞台にしたオリジナル作品で、ヤクザ・バンパイアとなった主人公がたどる運命が描かれる。三池監督と、主人公の影山亜喜良を演じた市原さんに、7年ぶりに監督と主演として再会した印象や撮影現場の様子について聞いた。
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かまれた人間がヤクザ化するという設定と、型破りなストーリーが特徴の今作だが、「これから出るであろう作品も、過去の作品も含めて、すべての作品が“過去”になるような新たなジャンルなのではと思いました」と市原さんは映画の印象を語る。それを聞いていた三池監督は「何にぶつけているのかは分からないけれど、方向も分からず思いっきりデカめの石を筋肉が切れてもいいと思うつもりで闇に向かって全力で投げたという、ある種の快感がある」と今作を取り巻く雰囲気を説明。続けて「そういう快感が本当はエンターテインメントに必要なものなのではという感覚はあるけれど、なかなか今は闇に向かってものを投げる人は歓迎されないみたい」と自虐的に語り、笑う。
突き抜けた感のある物語は「本当に今どき珍しいと思いますが、飲み屋のむだ話が企画のスタート(笑い)」と三池監督は明かし、「『かまれたらヤクザになる』とか『みんなヤクザになったら困る』とか話していて、なんかそれも面白そうだと」と盛り上がったという。その結果、ヤクザ・バンパイアや謎のキャラクター・KAERUくんが登場するなど自由奔放な映画が誕生。市原さんは「カエルやカッパが出てくるけれど、やっていることは繊細な感情から大胆なところと振り幅がある」と力を込め、「いろんな角度から見られる作品で、お客さまの見方もそれ相応にたくさん出てくる作品だと思う」と自信をのぞかせる。
三池監督と市原さんのコンビは「神様のパズル」(2008年)以来。7年ぶりの顔合わせに、三池監督は「とんがっているところは相変わらずで、それがより細くではなく太くとんがっている感じ。その角度は変わらないと思う」と市原さんを評する。さらに「役者という仕事はいろんな要素があってワイルドな生き方」と考える三池監督は、「何かをあきらめなければいけない部分もあると思うが、まったくあきらめないというか、自分らしく『俺はこうなんだ』という強いものを持っているところは7年前からもあり、相変わらずカッコいい」と称える。
一方、市原さんは「同じものを作ったとしても、一度全部ぶち壊して違う方向からまた作り上げる趣向を持っている人で、職人という言葉が似合う」と三池監督を評し、「三池監督という常にぶれない軸があって、ほかの現場よりも職人気質を感じる」と三池組について語る。そして「三池さんには生半可なものを見せたくないと思える人柄」が要因だといい、そのため「職人としてその看板をみんなが背負って現場に立っている」と説明する。「みんな自由にそっぽを向いて、やりたいことをやっているように見えるのですが、気付くと絶対的な三池監督という存在に向いていて、そのために一回そっぽを向き、自分の中で考えた上で投げかけていくような現場」と自身の考えを語った。
市原さんは今作で強烈なアクションシーンをいくつもこなしており、思い出深いシーンにも「ヤヤン(・ルヒアン)さんとのアクションは楽しかった」という。「息遣いや最初のモーションなどを確認し合って現場に入るけれど、三池さんの現場は“生もの”」と切り出し、「前のシーンがこう撮れたから、その先がどんどん変わっていって、その中でのアクションもすごく面白い」と市原さんは目を輝かせる。「アクション以外も全部そうですが、次がどう来るか分からない現場は楽しかった」と振り返り、「小さい頃、あそこに行っちゃだめと言われているところに毎日行っているような感覚がして、好きでした」とほほ笑む。
アクションについて三池監督は「ヤヤンさんのアクションを撮っているのではない」と意外なひと言を発し、「武術をやって『ザ・レイド』という作品でアクション俳優として脚光を浴びた人間そのものの魅力」が撮りたいのだと主張し、「ヤヤン・ルヒアンを見せて、アクションを見せるものではない」と言い切る。だからこそ「オタクっぽく登場して任侠(にんきょう)っぽく終わる」のだと三池監督は力を込める。
神浦組の組長・神浦を演じるリリー・フランキーさんもまた、「リリーさんにしてもそうで、暴れるのも見て見たい」と三池監督は考えたが、実は「本人も内心暴れたかったみたい(笑い)」と暴露。「(リリーさん本人は暴れる演技は)できないと思うと言ってましたが、できてしまうし、映画は何でもできると。そういうのを楽しんでもらえればいい」と自信たっぷりに語る。
市原さんは、脚本を読んだ段階では「どんな現場で、どんなテンションになって、どんな雰囲気の作品になるのか想像できなかった」と話すが、影山を演じる上で「基本は大義というものに尽くすということに懸けて、ぶれずにいく」と決意。「(ほかの登場人物の)キャラクターが濃くてテーマパークみたいだから、それぞれの人とどんなからみができるか」に期待していたことを打ち明ける。さらに、「まっ直ぐなだけでもつまらないので、どんどん揺れていきたくて、いろんなキャラクターを突いていければいい」と演技プランを考えていたという。
三池監督にとって市原さん演じる影山は「自分の理想というか、自分と正反対にいるもの」と評し、「影山がカタギを見るまなざし」が特別なものだと表現する。特に「事務所に連れて来られた学校の先生がおじぎをしながら出て行くのを、ふっと見たときのまなざし」のシーンに思い入れがあると語り、「優しさというよりも哀れみ、逆にいえば『そういう生き方は大変だな』と同情しているけれど、それを強要したり、人に教えたりはしない」と持論を展開。「影山から見ると自分(三池監督自身)もそう見えると思うから、編集などで(影山の表情を)見るたびに背筋が伸びて、もうちょっと頑張ってみますという感じになる」としみじみと語る。
自身の映画には「自分の映画というよりも、原作やオリジナルの台本を作った人」の考えを尊重するといい、「例えば原作があれば、そこからイメージできるもの、オリジナルであれば脚本からリスペクトする」と三池監督。「オリジナルであれば台本に導き出されそして出会うものだと思う」といい、主演としての市原さんに対して、「どこの瞬間をどう切り取っても、我々の視界に入っていてもいなくても、現場にいるときは、市原隼人としてまったくぶれない」と評する。「何十人にもいる中で一番集中しているし、真剣に生きないと一瞬一瞬がもったいないという迫力がある」と現場での姿勢を称える。
その発言を聞いていた市原さんは、「職人になりたい」と応じ、「芝居で会話がしたいし、現場の中で遊んでいたい」と自身のスタンスを説明。「それが画に映るかどうかは分からないけれど、1週間、アメだけで生きてみるとか、1週間しゃべらないで生きてみるとか、役者は自分遊びの延長だと思う」と持論を語り、「どんどん違う方向から現場に入ってみたい」と今後に思いをはせる。
すると三池監督は、「我々はややもすると実績に寄りかかってしまったり、ある程度のポジションに行くと椅子がある」と切り出し、「何を見ようとしているのかは分からないけど、市原隼人は椅子があってもその椅子の上に立つ」と表現。「だからスタッフも含め真剣度が増して映画を加速させる。この映画がこうなってしまったのは僕のせいじゃない(笑い)」と冗談交じりに語った。映画は20日から全国で公開。
<三池崇史監督のプロフィル>
1960年8月24日、大阪府八尾市出身。1991年に「突風!ミニパト隊」で監督デビューし、「新宿黒社会チャイナ・マフィア戦争」(95年)が劇場公開映画の初監督作となる。以降、さまざまなジャンルを手がけ、日本のみならず海外でも多くの支持を集めている。最近の主な作品として、「悪の教典」(2012年)、「藁の楯 わらのたて」(13年)、「土竜の唄 潜入捜査官 REIJI」「神さまの言うとおり」(14年)、「風に立つライオン」(15年)など。
<市原隼人さんのプロフィル>
1987年2月6日、神奈川県出身。 2001年「リリイ・シュシュのすべて」で映画主演デビューし、「偶然にも最悪な少年」(03年)で日本アカデミー賞新人賞を受賞。その後も、数多くの映画をはじめテレビドラマなどに出演。14年には初めて監督し主演したショートフィルム「Butterfly」が、「第16回ショートショート フィルムフェスティバル&アジア」で話題賞を受賞。「極道大戦争」が公開された6月20日には、4年ぶりとなる写真集「G 市原隼人」とショートフィルム「Butterfly」のDVDが発売された。
(インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)
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