長崎を舞台に、原爆後に生き残った母親と亡霊となった息子の物語を、吉永小百合さんと人気グループ「嵐」の二宮和也さんの共演で描く「母と暮せば」(山田洋次監督)が、12日から公開される。広島の原爆をテーマに描かれた戯曲「父と暮せば」を書いた作家・井上ひさしさんがタイトルだけ書き遺していた幻の作品に、戦後70年の今年、山田監督が命を吹き込んだ。親子の温かさとファンタジックな描写の中に、原爆の傷跡を鋭く見つめ出す。
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1945年8月9日。長崎に原子爆弾が落とされる。その3年後のある日、助産師の伸子(吉永さん)の元に、原爆で亡くなった息子の浩二(二宮さん)が亡霊となって現れる。その日、墓前で息子のことをあきらめようと思っていた伸子だったが、ときどき現れる浩二のことを心待ちにするようになる。浩二も母と思い出話をするのが楽しくて仕方がない。心残りは恋人の町子(黒木華さん)のこと。町子の幸せを願う伸子だったが、浩二は複雑な気持ちだった……という展開。
光と爆風を感じるほどの衝撃の後、家族のドラマがほのぼのと展開されていく。日常を断絶してしまう戦争の悲劇が力強く伝わってくる。冒頭、仲のいい母と息子の姿があり、3年後には母が一人で暮らしている。亡霊となった息子は、母にしか見えないらしい。親子は思い出話に花を咲かせる。いつしか見ているこちらも、伸子と同じように息子の登場を心待ちにしてしまう。吉永さんと二宮さんの芝居は、せりふの掛け合いも息がピッタリ合っていて、まるで舞台を見ているかのように楽しい。先生の思い出、恋人への思い……医学生だった浩二の口から楽しかった出来事が語られ、青春を謳歌(おうか)していたであろう姿が生き生きと感じられる。しかし、浩二はこの世にいない。夢や希望、未来もあった者が亡くなったこと、大勢の人の死が重くのしかかってくる。
それと同時に、母と恋人の町子からは残された者の負い目と、生きていることへのつらさが語られる。お互い相手のことを思いやっている姿が温かいからこそ、「戦争は人間が計画した悲劇」というせりふが心に突き刺さってくる。しかし、この映画は湿っぽい映画ではない。闇物資を調達する面白いおじさん、子供たちの歌声……人間のたくましさにも胸を打たれる。音楽は「ラスト・エンペラー」(1988年)などを手掛けた坂本龍一さん。ラストの長崎市民による合唱は圧巻だ。丸の内ピカデリー(東京都千代田区)ほかで12日から公開。(キョーコ/フリーライター)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。私の“人生の師匠”水木しげる先生がお亡くなりになり、しょんぼり。
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