人気アイドルグループ「Hey!Say!JUMP」の中島裕翔さん主演の映画「ピンクとグレー」が9日に公開された。「62分後の衝撃」をうたう今作は、人気グループ「NEWS」の加藤シゲアキさんが2012年に発表した小説の映画化で、中島さん、菅田将暉さんのほか、夏帆さん、柳楽優弥さんらが出演している。メガホンをとったのは、映画「GO」(2001年)や「世界の中心で、愛をさけぶ」(04年)、「パレード」(10年)などの作品で知られる行定勲監督だ。行定監督に、作品に込めた思いや、中島さん、菅田さんについて聞いた。
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映画「ピンクとグレー」は、中島さん演じる人気俳優・白木蓮吾の死によって幕を開ける。遺体の第一発見者は、菅田さん扮(ふん)する親友の河田大貴。互いに「ごっち(蓮吾)」、「りばちゃん(大貴)」と呼び合う仲の2人は、11歳の頃に出会ってから、ずっと一緒だった。芸能界入りしたのも一緒。しかし、そこから2人の関係は崩れていく。蓮吾はスターダムを駆け上がり人気俳優に。大貴は芽が出ないままアルバイトで食いつなぐ日々。そんな中で蓮吾が死ぬ。ごっちはなぜ死んだのか……映画は、蓮吾の死によって一躍時の人となった大貴が、悩み苦しみながら、親友の死と折り合いを付けようとする姿を描く。
「ピンクとグレー」というタイトルから、多くの人は、ピンクな状況とグレーな状況の“対比”を想像する。62分を境にカラーがモノクロに変わる映像も、その想像を後押しする。しかし、「ピンクとグレーが一つになったときにこそ、この配色は生きる」と考えた行定監督は、対比よりむしろ、どちらかの色が「欠けたことによる影響」、つまり、人間の死によって、遺された人間がどう苦悩し、最後にその死とどう折り合いをつけていくのかが重要だったという。そのため、現在と過去を往来させながら進む、「むしろ映画っぽい構造」の原作を、共同で脚本を書いた蓬莱竜太さんとともに一度解体し、時系列通りに並べ直し、「それによってできた余白で、この小説に書かれている死生観みたいなものの決着を後半でつけよう」と考えた。
後半をモノクロにしたのも、親友、蓮吾を失った大貴の喪失感を表現したわけではない。「カラーでもよかった」とさえ言い切る。ただ、全編をカラーで通そうした場合、「カメラマンの心情からすると、前半を淡いトーンか何かにして、後半はコントラストを強くする。そういったトーンの変化で差をつけようとするはず」で、それでなくても日頃から「色による情報が多い」と感じている行定監督としては、それは避けたかった。ならばいっそモノクロにすれば、「人が生々しく見えるし、いろんなものが露呈されていく。観客は、その人たちの表情を注視するだろうから、余計なものにとらわれない」と思い、その結果、「気持ちとして人物に寄れる」と考えたのだ。
では、“寄られる”側の俳優にはどのような演出をしたのか。蓮吾役の中島さんと大貴役の菅田さんには「その場その場、瞬間瞬間を、とにかく楽しくやってもらえればいいよと雑談でヒントみたいなものを与えた」程度で、それに対して中島さんと菅田さんは「脚本を読んだときに芽生えた感情を、とにかくぶつければいいんですね、ということだけは分かってくれて、それを見て、僕も一緒に空気感みたいなものを探っていきました」と明かす。
そもそもこれは、芸能界に入った若者の話だ。「普段芸能界で生きている彼らにとっては、自分たちの日常とすごく重なっているのだと思う」とし、しかも「(原作者の)加藤君自身がアイドルで、自分の二面性をこの2人(蓮吾と大貴)に分け与えているという、ある種、彼自身のメタフィクション的な小説だから、演じた2人も(キャラクターの心情が)分かりやすかったような気はしますね」と推測する。
行定監督は菅田さんについて「現段階では、何か発想したこと、やりたいことが浮かんだときに、役として、それを即興で体現できる、衝動的に動くことで相手の受け答えが変わっていくことの面白さをつかみつつある俳優。だから、すごく勢いもあるし、最初の方のテイクの方が新鮮な感じがする」と評する。
一方の中島さんは「芸歴は長いんですけど、映画は今回初めてだったから、たぶん菅田君を見ていて、こんなに自由にやっていいんだとだんだん分かっていった」という印象を受けたようだ。そして、「普通だと、どちらかが強ければ弱い方は飲み込まれたりもするんですが、彼はまったく(菅田さんに)飲み込まれない。冷静だし、しなやかだしね。だから菅田君もすごくやりやすかったと思うし、受け止めて返していく中島君の術(すべ)が、テイクを重ねるごとにどんどんよくなっていった」と振り返る。
その上で「何がよかったかって、2人の間に本当の友情が芽生えたこと。若い俳優たちが自分とは違う才能を互いに見いだし、リスペクトし合えることは一番望ましい」と、今回の撮影現場が、中島さんと菅田さんにとって、理想的な環境になったことに満足気な表情を見せた。
ところで、蓮吾の死を、観客はどうとらえるのか。肯定できる人もいれば、肯定できない人もいるだろう。それに対し、行定監督は「語弊があるかもしれないけれど、肯定していないですけれど肯定できるようになったというか……」と慎重に言葉を選びながら、「死を選ぶ若者がいたとして、じゃあ、生きろということのエゴというのも、片やあるわけです。だって、(その人は)死を選んだんですよね。遺された人間たちは死んだ人間に対して、『理由もなく死んだ』というでしょう。いや、理由あるんですよ、絶対に。それを考えつかないから、“理由なき死”みたいなことをいう。それはエゴなんじゃないかと思い始めたんです……」と、年齢を重ねたことで変わりつつある自身の思いを吐露する。
そして、身近に死を選んだ人がいる知人から「(亡くなった人の気持ちが)ずっと分からなかったけれど、この映画を見たとき、遺された人間が、“そうだよ”といわれているような気がして自分が楽になった。たぶん、(この映画を見た)たくさんの人が楽になるんじゃないですか」といわれ、そのとき、行定監督自身、「ああ、そうなんだよね。僕もそういう気分だ」と感じたことを打ち明ける。
その上で原作を振り返り、「僕はあの小説をまったく感傷的に読めなかった。話としても、構造としてもよく分かった。だからむしろ可能性があるなと、自分に新しい感情を覚えさせてくれたんです。たぶん、(原作者の)加藤君は、ものすごく感傷的に、感情を込めて、一人の死というものを書いていると思います。でも僕はまったく感傷的にならなかった。むしろ肯定できた。潔く死ぬ。死を選んだことに対する決着のつけかたというのは美しくも見えたというのがあって、そこが実は、この映画には語られているはずなんです」と語った。映画は9日からTOHOシネマズ新宿(東京都新宿区)ほか全国で公開。
<プロフィル>
1968年生まれ、熊本県出身。助監督として林海象監督や岩井俊二監督の作品に参加し経験を積む。監督第1作の「ひまわり」(2000年)で第5回釜山国際映画祭の国際批評家連盟賞を受賞。「GO」(01年)が日本アカデミー賞最優秀監督賞をはじめ国内外50の賞に輝く。「世界の中心で、愛をさけぶ」(04年)では、興行収入85億円を記録し、その年の実写映画1位を記録。「パレード」(10年)で第60回ベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞受賞。ほかの監督作に「北の零年」(05年)、「春の雪」(05年)「遠くの空に消えた」(07年)、「クローズド・ノート」(07年)、「今度は愛妻家」(10年)、「円卓―こっこ、ひと夏のイマジン」(14年)、「真夜中の五分前」(14年)などがある。初めてはまったポップカルチャーは、1971年製作の「ゴジラ対ヘドラ」。生まれて初めて見た映画で、「やたら怖かった」という。
(インタビュー・文・撮影:りんたいこ)
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