映画「ロード・オブ・ザ・リング」3部作(2001~03年)などの作品で知られるイライジャ・ウッドさんが製作も務めた主演映画「ゾンビスクール!」(ジョナサン・ミロ監督、カリー・マーニオン監督)が20日に全国で公開される(シネマサンシャイン池袋限定で13日から先行公開)。当初はプロデューサーのみを担当し、出演するつもりなどまったくなかったというウッドさん。拒み続けたものの、周囲の説得で出演することになったという。そこに至る経緯や、製作上のポイント、さらに、最近乗り出したプロデューサー業などについて、電話で聞いた。
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映画「ゾンビスクール!」は、米国で“不健康な加工食品”を象徴するメニューの一つ、「チキンナゲット」を食べた子供たちがゾンビ化し、教師たちを襲い始めるという、いわゆるゾンビ映画だ。教師たちは、我が身を守るために、かつては可愛かった教え子たちを退治せざるを得なくなるが、大人、しかも、本来、子供の味方であるはずの教師が子供を倒すなど、批判を浴びそうな内容だ。ところが、「怒られたりしたかって? その問いに対する答えはノーだよ」と、ウッドさんは軽やかに否定する。
その“裏ワザ”はこうだ。「僕らも、製作段階で、ある程度物議を醸すことは予想していたから、コメディーという形態をとることで“僕らの意図はそういうところにはないんです”ということを示すように心掛けたんだ」という。
具体的な暴力描写は第3幕から始まる。「ポイントは、教師たちに “そうする”よりほかに選択肢がない、ということなんだ。彼らはすでに子供たちの脳も分析し、“死んでいる”ことが明示されている。生き延びるためには“キッズゾンビ”たちを殺すしかない。そこをしっかりと見せることだった」と抜かりのなさをアピールする。
とはいえ、「怒られると思ったことはあった」とか。それは、今作が初めてお披露目された14年のサンダンス映画祭でのこと。年齢50~60代の女性客が質疑応答の際、手を挙げた。しかもその女性は教師。ウッドさんはじめスタッフのみんなは、「さすがに身構えた」という。ところがその女性は「『ただ一言、ありがとうと言いたいです』と言ったんだ(笑い)。彼女にしてみれば、生徒たちに対する長年の積もり積もった感情が、洗い流されたような気がしたんだろうね」と、その女教師の思いを推し量りながら、作品がもたらした効果を喜ぶ。
今作では、主演とプロデューサーの両方を兼ねているウッドさん。しかし、もともとはプロデューサーだけで、出演するつもりはなかったという。「絶対演じたくないと言っていたんだ。もともと、僕が製作会社『スペクタービジョン』を設立したのも、自分が演じられる作品を見つけるためではなく、大好きなホラー映画をサポートすることが目的だったからね」と話す。実際、今作の3年間の企画開発中は、「プロデューサーの立場を貫いていた」という。
ところが、キャスティングの段階で流れが変わってきた。脚本を担当し、出演もしている製作総指揮のリー・ワネルさんとイアン・ブレナンさん、そして、スペクタービジョンの共同設立者たちが、「まあ、イライジャがやるべきだよね……みたいになった」という。結局ウッドさんも「出演はできないと抵抗した」ものの、最後は押し切られ出演。しかも主人公を演じることになった。
しかし今となっては、「やってよかったと本当に思っている」と認める。サンダンス映画祭前の粗編集の段階で通しで見たときは、「自分自身でウケちゃったんだ。ホラー要素も効いていたと思うし、僕らが作りたかったイメージ通りの映画ができたと誇らしかった」と自信をのぞかせる。
「最高の経験だったし、僕にとって、こういうキャラクターも初めてだった」と、作家になる夢に破れ、ふらふらしているうちに臨時教師という職に就くことになった今回のクリント役を「コメディーの余地もあるキャラクターだったから、すごく楽しかった。それに、大好きなコメディアンたちと共演できたしね」と大満足の様子。
半面、「観客がどんな反応をするのかとナーバスになった初めての作品だったかもしれない」と打ち明ける。「サンダンスのような映画祭にやって来るホラーファンというのは、ホラーに限らず映画に対する造詣が深くて“読解力”があるからね。彼らの目にどう映るのか、ほんと、怖かったよ」と話す。ところが、ふたを開けてみれば前述の女性教師のように不安は杞憂(きゆう)に終わった。
12年に設立したスペクタービジョンでは、主にホラーに特化した作品をプロデュースしている。プロデューサーの魅力を、「自分たちが大好きなクリエーティブな脚本家や監督と仕事ができること」と話し、「決して、商業的な、分かりやすい作品を手掛けているわけではないけれど(笑い)、自分たちのアイデアやコンセプトを企画して、そういう方々と仕事ができるということは、すごくワクワクする」と語る。
そして、「これまで作られていないようなホラー映画、目新しい企画を探し出す」ことの苦労に触れ、「映画を1本作るのは本当に大変で、それは、製作規模の大小にかかわらず同じこと。幸い、ホラージャンルのいいところは、ある程度マーケットが安定していて、継続して作っていけるところだけれど、僕らにしてみれば、どの企画も新しい挑戦であり、製作までこぎ着けることは大変なんです」と本音を漏らしつつも、プロデューサー業へのさらなる意欲をのぞかせた。映画は13日からシネマサンシャイン池袋(東京都豊島区)で先行公開。20日から全国で公開。
<プロフィル>
1981年生まれ、米アイオワ州出身。89年「バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2」で子役デビュー。「わが心のボルチモア」(90年)、「8月のメモワール」(95年)、「ディープ・インパクト」「パラサイト」(共に98年)などを経て、「ロード・オブ・ザ・リング」3部作(2001、02、03年)で世界中にその名を広めた。他の出演作に「シン・シティ」「フーリガン」(共に05年)、「マニアック」(12年)、「グランドピアノ 狙われた黒鍵」(13年)、「ブラック・ハッカー」(14年)などがある。12年に映画制作会社スペクタービジョンを設立。「ザ・ヴァンパイア 残酷な牙を持つ少女」(14年)の製作総指揮を務めた。
(インタビュー・文:りんたいこ)
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