エディ・レッドメイン:「リリーのすべて」で主演 興味深い人物を演じるのは「自分の夢を超えた経験」

「リリーのすべて」について語った主演のエディ・レッドメインさん
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「リリーのすべて」について語った主演のエディ・レッドメインさん

 世界で初めて性別適合手術を受けたデンマーク人、リリー・エルベの実話に基づく映画「リリーのすべて」(トム・フーパー監督)が全国で公開中だ。リリーを演じたエディ・レッドメインさんが、作品のPRのためにこのほど来日。役作りや作品に懸ける思いを語った。

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 ◇GOサインに「うわ、どうしよう!」

 映画「リリーのすべて」は、1926年にリリーが、まだアイナー・べイナーという風景画家だった頃から話が始まる。アイナーには、ゲルダという肖像画家の妻がおり、結婚6年目の2人は幸せに暮らしていた。しかし、ゲルダに頼まれて女性モデルの代役を務めたことがきっかけで、アイナーは自分の中に潜んでいた“女性”の存在に気付く。一方、ゲルダは、夫の異変に戸惑いながらも、彼を理解しサポートしようとする。映画は、そういった2人の愛を描き出していく。

 レッドメインさんが、このリリーという役に出会ったのは、今作のトム・フーパー監督の前作「レ・ミゼラブル」(2012年)で、マリウス役を演じていたときだった。撮影現場でフーパー監督から渡された脚本を読み、「ぜひ演じたいですと言った」という。

 とはいえ当時、「リリーのすべて」は企画開発の段階で、製作のめどは立っていなかった。動き出したのは、レッドメインさんが、物理学者スティーブン・ホーキング博士を演じ、のちに米アカデミー賞主演男優賞に輝くことになる「博士と彼女のセオリー」(14年)が公開されたあと。フーパー監督が「エディの知名度も助けになって、作品がGOになったよ」と連絡を寄越したのだ。さすがにそのときは、「うわ、どうしよう!と思った(笑い)」と打ち明ける。

 ◇ウォシャウスキー監督からもヒアリング

 しかし生来、「怖がりなところがある」ものの、その恐怖心が、「自分を奮い立たせ、もっと頑張らなければと努力を重ねることにつながるタイプ」というレッドメインさんは、撮影に入るまでの数年間のうち1、2年を、多くのトランスジェンダーの女性たちに話を聞くことで、リサーチを重ねた。そうした中で、「トランスジェンダーのコミュニティーの方々にとって、リリーだけでなく、リリーとゲルダの物語が崇拝の対象になっていることが分かった」という。

 話を聞いた人の中には、「マトリックス」(1999年、03年)シリーズを手がけたことで知られるラナ・ウォシャウスキー監督もいた。レッドメインさんは、ウォシャウスキー姉弟が監督した「ジュピター」(15年)に出演している。「ちょうど、『ジュピター』を製作しているときだった。ラナがすごく情熱的に、『リリーはね……』と話してくれたんだ。それを聞いたとき、僕はとても大きな責任を担うんだと奮い立たされた」と語る。

 そういった過程を通して、「アイナーとして生きている時代から、どのようにリリーとして“あるがまま”の自分でいられるようになっていったのか、その一つ一つの段階を考えていく」という内面的な役作りをする一方で、外見的にもリリーになるための準備を進めていった。

 レッドメインさんをサポートしたのは、アレックス・レイノルズさんだ。レイノルズさんは「博士と彼女のセオリー」のときも、ホーキング博士の動きをコーチした人物。「最初は、(女性らしい動きを)コピーすることから始めた。だから、最初の頃のリリーの動きは、彼女自身がそのとき思う“女性らしい”動きであって、様式化されているというか、型にはまったようなところがある。メークも洋服も、ちょっとやり過ぎの感じだしね。でも、そこから自分自身を見つけていくことで、メークは抑え気味になっていくし、動きも、女性らしい、自然なものになっていくんだ。そういうことを意識しながら演じていった」と振り返る。

 ◇役作りの“極意”とは

 撮影は、多くの作品がそうであるように、スケジュールの都合で“順撮り”はできなかった。それどころか、「午前はリリー、午後はアイナーとしてのリリー、なんていう日もあった」という。それでも、リリーとアイナーを混乱することなく演じなければならなかった。

 アイナー時代のリリーが、ゲルダから「舞踏会には違う役で行ったら」と提案されたとき、アイナーが顔を赤らめる場面が印象的だ。そう指摘すると、「おそらくその瞬間、リリーは、本来の自分になれるかもしれないという興奮で、体が高揚してしまったんじゃないかな」とまるで自分のことのように表現する。それもすべて、レッドメインさんが、リリーという役に入り込んでいるからにほかならない。

 そんな自身の役作りの“極意”について、「『博士と彼女のセオリー』のときは、肉体面の準備がより大きかったけれど、今回は、リリーを演じることが、とにかくうれしいという気持ちだった。そして、どの段階のリリーでも演じられるように準備をするしかない」としながら、「そうすれば、(ゲルダ役の)アリシア(・ビキャンデルさん)のような素晴らしい女優と共演するシーンでは、今どの段階だったっけ?と考えずに、そのときのリリーにぱっとアクセスして、考えずに演じられるんです。そこまでの準備をする。それが、演じる上でのポイントなのかもしれないな」と、ゲルダ役で米アカデミー賞助演女優賞を受けたビキャンデルさんとの共演シーンについて語る。

 ◇「トライし続けることが大切」

 欧米では、日本よりも前に封切られている今作だが、作品を見たトランスジェンダーのコミュニティーの人たちからは、「とてもポジティブなフィードバックをいただいた」とありがたがる。「確かに、リリーとゲルダの物語は、いろんな形で描くことはできる。この『リリーのすべて』は、僕達のバージョンだけれど、力を尽くして作ったものに、そういったフィードバックをいただけるのはとてもうれしいこと」と笑顔を見せる。

 今回の来日に同伴した妻のハンナ・ハグショーさんとは14年に結婚した。結婚によって、新しい自分を「いつも発見している」というレッドメインさんは、「どんな人生体験でも、何か新しいことは見つかるもので、今回の作品を撮っていることでも見つけることができた」と話す。今後、どのような役を演じてみたいかという問いに、「役をいただけるだけでも幸運なことだと思う」と答え、「小さいときは、演じることが楽しいという時代だけれど、それが仕事として成立するというのはすごいことだし、僕にとっては、リリーやホーキング博士のような興味深い人物を演じられるということだけでも、自分の夢を超えた経験なんです」としみじみと語る。

 その上で、「もしかしたら今後、誰が見ても、『エディ大丈夫か!?』と思われるような大失敗をスクリーン上でしでかすかもしれない(笑い)。だけれども、トライし続けることが大切なわけで、これからも演技をするという努力を重ねるしかないと思っています」と演技に真摯(しんし)に取り組んでいく姿勢を見せた。映画は18日から全国で公開中。

 <プロフィル>

 1982年生まれ、英ロンドン出身。イートン・カレッジで学び、ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジで美術史を専攻する。少年時代から演技のレッスンを始め、2002年、舞台「十二夜」で本格的にデビュー。2009年の「Red」のロンドン公演でオリビエ賞、米ブロードウエー公演でトニー賞を受賞した。その一方、05年には、トム・フーパー監督が演出したテレビ映画「エリザベス1世~愛と陰謀の王宮~」に出演。06年、「ザ・デンジャラス・マインド」(日本未公開)で映画デビュー。「レ・ミゼラブル」(12年)で再びフーパー監督と組み、その後、「博士と彼女のセオリー」(14年)の物理学者スティーブン・ホーキング博士役で米アカデミー賞主演男優賞に輝いた。そのほかの映画出演作に「グッド・シェパード」(06年)、「エリザベス:ゴールデン・エイジ」「美しすぎる母」(ともに07年)、「マリリン 7日間の恋」(11年)、「ジュピター」(15年)などがある。

 (インタビュー・文・撮影/りんたいこ)

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