ディズニーの劇場版アニメーションの最新作「ズートピア」(バイロン・ハワード監督、リッチ・ムーア監督)が23日に公開された。動物が人間のように暮らす大都会“ズートピア”を舞台に、ウサギ初の警察官になったジュディ・ホップスが、“詐欺師”のキツネ、ニック・ワイルドとともに、ズートピアを揺るがす大事件に挑むファンタジーアドベンチャーだ。映画の公開を前に来日した、今作のキャラクターの性格やストーリー作り、さらに脚本と共同監督を務めたジャレド・ブッシュさんとプロデューサーのクラーク・スペンサーさんに話を聞いた。
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――ヒロインに、より人間に近い犬や猫ではなく、ウサギをキャスティングしたのはなぜですか。
ブッシュ監督:いわゆる“家畜”は最初から外しました。というのも、ズートピアに人間は存在しないからです。キツネとウサギは、まず、どちらもほとんどの国に生息している。キツネは、とても順応性が高く、寒い土地から暖かい土地、また、都市圏や自然界にも住んでいる。そのキツネを天敵とするのがウサギ。その2人が仲よくなるという意外性が面白いと思ったのです。
スペンサーさん:サイズ感もありますね。ウサギは小さいですが、ジュディの夢は警察官になること。でも、ズートピアの警察を見回すと、サイやカバなど大きい動物ばかり。こんなに小さくて可愛い動物に、そんなことはきっと無理だろう、たくさんの困難があるだろうことは、見ているだけで分かります。だからこそ応援したくなる。警官になんてなれっこないという先入観を押しつけられている彼女が、「そうはならないわ!」と証明する物語としても、いいアイデアだと思いました。
――映画には、ネズミやキリンなど、大小さまざまな動物たちが登場しますが、あのサイズの縮尺率は現実に即したものですか。
ブッシュ監督:当初から、実物通りにいこうと決めていました。具体的にいうと、ネズミ95匹が積み上がるとキリンの高さになるんです。しゃべる動物が出てくる映画は、往々にして、小さかったら大きく、大きかったら小さくと、サイズをすり合わせるものですが、この映画ではそれをしていません。そうすることで、彼らを同じ画角に収めることは、なかなか難しいことでしたが、逆にそのことが、動物のサイズに合わせて、電車の違うドアが開いたり、キリンがジュースバーに行ったら、ジュースがパッと上にあがってシュートするように飲ませたりと、ズートピアという世界が、より面白い場所になりました。サイズが違う動物たちが共生するためには、どのようなことを考え、どのように工夫したんだろう、そういうことを考えながら作っていきました。
――ズートピアの景観がディズニーランドに似ていました。
スペンサーさん:中央にお城があって、その周囲にいろんなエリアがあるというのは、ディズニーランドを参考にしました。でもそれだけではなく、そのエリアがそこにある“信ぴょう性”を持たせたいと思いました。熱い“サハラ・スクエア”と、すごく冷たい“ツンドラ・タウン”が隣り合わせというのは果たして可能なのか? 実際に専門家の方に伺ったら、お金と給水装置さえあれば、エアコンをたくさん並べて大きな壁を作ることによって、冷気を排出しながら、サハラ側には排出された熱い空気を送り出すことは可能だといってもらえたのです。さらに、ツンドラ・タウンの隣に熱帯雨林の“レインフォレスト地区”を作ることは理にかなっている。なぜなら、溶けた雪が、滝や雨を生むからです。
――「ゴッドファーザー」(1972年)を思わせるシーンがありました。
ブッシュ監督:専門家に、一番ずる賢くて悪い動物は何かと聞いたら、トガリネズミだろうといわれました。トガリネズミは、群れを一つのバケツに入れ、少し時間がたつと、1匹が全員を食い尽くす、それぐらい恐ろしい動物なのです。ですから、それと「ゴッドファーザー」をくっつけようと思いました。僕は「ゴッドファーザー」のファンで、あのシーンのせりふとセットは、「ゴッドファーザー」を再現しています。
――日本映画で参考にしたものはありますか。
ブッシュ監督:多くのアニメーターがそうであるように、僕は宮崎駿さんの大ファンです。彼の素晴らしいところは、本当に驚くような物語やキャラクターを、大河ドラマのような壮大なスケールの中で描き、さらに、途方もないような想像力で描いているところです。そういうものを我々は目指しているし、今回も念頭に置いて作りました。
――キャラクターの中に、実際の人間をモデルにしたものはありますか。
ブッシュ監督:脚本を書いていると、往々にしてキャラクターの一部を実際の人をベースに書くことはあります。僕自身、米メリーランド州の片田舎で生まれて、ずっと、ハリウッドに出て映画を作りたいと思っていました。周囲からは無理だろうといわれましたが、どうしてもあきらめきれず、ハリウッドに行ったら行ったで、現実は厳しかった。いろんな壁にぶち当たり、その壁を乗り越えながら、自分自身が成長しなければならないことを学びました。ですからジュディには、僕自身が投影されているといえます。でも、ほかの人も、彼女の姿には共鳴し、共感してもらえると思います。
スペンサーさん:動物のリサーチに1年以上かけましたが、とても興味深かったのは、動物に性格があるということでした。例えば、スイギュウは“許す”ということをしない動物なんだそうです。また、ナマケモノは、動作はゆっくりしているけれど、その分エネルギーをためているから、ここ一番というときは瞬発力を発揮する。あるいは、キツネはずる賢さを身に着けているとか、サバンナにいるヌーは、あまり頭がよくないとか(笑い)、そういうズートピアにいる、いろんな動物の性格を本物そのままに描いているので、いろんな方が、自分自身だったり、あの人っぽいなと感じてもらえると思います。
――ご自身をキャラクターに当てはめると、どれになりますか。
スペンサーさん:ジュディでしょうか。常にモチベーションをチームに与えて最高の仕事をしてもらうのがプロデューサーの仕事だと思っています。5年間の製作中、大変な瞬間はたくさんありましたが、自分のおそれや心配を一切見せず、「できるんだ」とみんなに伝えました。ジュディの楽観的でポジティブな姿勢は、そういったプロデューサーとしての自分に近く、とても共感できます。
ブッシュ監督:僕が一番自分に似ていると思ったのは、(ポップスターの)ガゼルです。なぜなら僕は、素晴らしいダンサーだからです(笑い)。
――最後に、映画の中に“隠れミッキー”がいるそうですが……。
ブッシュ監督:複数います。アニメーターたちがどんどん加えていくので、あとでこういうのもいたと、どんどん増えていくんです(笑い)。(ズートピア警察署の受付担当のチーター)クロウハウザーをよく見てもらうと、もしかしたらですが、斑点のひとつがミッキーの顔になっているような……チェックしてみてください。
*……日本語版では主人公のウサギのジュディ・ホップスの声を女優の上戸彩さんが担当し、お笑いコンビ「サバンナ」の高橋茂雄さんも声優を務めている。また、女性ダンス・ボーカルグループ「E-girls」や女性4人組ユニット「Dream」のメンバーとして活躍するDream Amiさんが日本語版主題歌「トライ・エヴリシング」を歌い、声優としてズートピアのポップスター・ガゼルの吹き替えも担当している。
<ジャレド・ブッシュ監督のプロフィル>
1974年、米国出身。ハーバード大学で歴史学を学び、数々のテレビシリーズで脚本を手掛けた。2011年、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ入社。現在は、スタジオの脚本家として活躍中。これまでに手掛けたテレビシリーズに 「All of Us」(2003~07年)や、リアリティショー「Who Wants to Marry My Dad?」(03~04年)、ディズニー・テレビジョン・アニメーションのアニメ・シリーズ「Penn Zero:Part‐Time Hero」(14~15年)などがある。「ベイマックス」(14年)では、クリエーティブ面の統括を担当し、今作「ズートピア」で監督デビューを飾った。
<クラーク・スペンサーさんのプロフィル>
1963年、米国出身。ハーバード大学で歴史学の学士号を、同大の大学院で経営学修士号を修得。90年、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ入社。その後20年以上にわたり、スタジオの幹部として財務、運営、映画製作までさまざまな役割を担う。これまでプロデュースした作品に「リロ&スティッチ」(2002年)、「ルイスと未来泥棒」(07年)、「ボルト」(08年)、「シュガー・ラッシュ」(12年)がある。
(インタビュー・文・撮影/りんたいこ)
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