女優の満島ひかりさんが主演で黒柳徹子さんのエッセーが原作のドラマ「トットてれび」(NHK総合)で、歌舞伎俳優の中村獅童さんが渥美清さん役で出演している。「話をすると、こみ上げて来る」というほど渥美さんへの思い入れがある獅童さんに、渥美さんに関するエピソードやテレビドラマへの思いなどを聞いた。
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ドラマは、黒柳さんのエッセー「トットひとり」「トットチャンネル」が原作。黒柳さんが未来からやってくる“百歳の徹子”役で出演するほか、ミムラさんが向田邦子さん、岸本加世子さんが沢村貞子さん、吉田鋼太郎さんが森繁久彌さん、関ジャニ∞の錦戸亮さんが坂本九さんを演じ、小泉今日子さんが語りを務める。テレビ放送が始まった1953年にNHKの専属テレビ女優第1号となって以来、テレビと共に人生を歩み続ける黒柳さんと、森繁さん、渥美さん、坂本さん、向田さんらとの交流や友情を描いている。獅童さんは、はじめは徹子とぶつかるが、のちに「お嬢さん」「兄ちゃん」と呼び合う仲となる渥美さんを演じている。
「渥美さんのことになると(感情が)高まる」「理屈じゃない。ただ話をするだけでこみ上げて来る」と、渥美さんに対して並々ならぬ思い入れがある獅童さん。それだけに、渥美さんを演じるのは「やっぱり怖い」といい、オファーを受けたときは「『できない』って言った。おそれ多くもあり、『渥美さんが好きすぎて、できない』と思って」と断ったことを明かす。ただ、「テレビというメディアを使ってみんなで遊ぶ」という方針に心が動いた。最初は、「“ものまねショー”になったら一番ダメなドラマ。だから最初の本読みでは、僕も、満島(ひかり)さんも、ミムラさんも、みんな迷っていた」と明かすが、「自分たちの持っている今の力で、どこまで見ている人たちに納得していただけるだけのことができるだろう、と。そこに向かっていくときに、俺一人じゃないんだ、と思った」と心の動きを説明する。
「時代の象徴として、渥美さんはいつもいらっしゃった」と獅童さんは話す。直接会ったことはなかったが、思わぬ場所で見かけたことがあった。まだ獅童さんが若いころ、歌舞伎座の舞台でずっと座っている役で出演していたとき、客席にプライベートで来ていた渥美さんが「目線の先にいらした」。渥美さんはそのとき、チノパンに白いシャツという都会風の装いで、あの「寅さん」とは別人の姿がそこにあった。獅童さんは「誰も知らない渥美さんの顔を見ちゃった、とうれしかった。周りの人はほとんど気づいてないぐらいなじんでいらっしゃいましたが、光り輝いてた」と当時の印象を目を輝かせながら語る。
そういった“渥美さん像”は役作りにも生かされた。「僕が一方的に歌舞伎座の舞台から見ていた渥美さんの姿が焼き付いている。そのときの服装から、普段こうだったのかなって想像しながら。しゃべったこともないけれど、一方的に見た渥美さん(から役)を想像した」と語る。「僕たちの世代は『徹子の部屋』と『ザ・ベストテン』のようなスターになられてからの時代しか知らない。苦労しているときの渥美さんや徹子さんを誰も知らないじゃないですか。そこを想像して作るのが役者の仕事ですよね」と獅童さん。「渥美さんってもしかしたらこういう人だったの、と思わせるのが僕らの仕事だから。そこ(裏側の苦労)を想像して説得力を持たせて、それが役者の醍醐味(だいごみ)」と語る。
渥美さんと徹子の関係は、“戦友”という解釈で獅童さんは役に臨んでいる。「男女の仲を超える瞬間っていうのはやっぱあるんだろうな、と思う。同士であり、戦友でもあり……時代を戦い抜いたという。友情とか、男女とか、そんな言葉じゃ片付けられない関係。もしかしたら恋心もあったんじゃないかなという解釈で僕は芝居している」と説明する。
インターネットが発達し、テレビ以外の娯楽が増えた現代。テレビが人びとにとって“夢”だった昭和の時代から、大きな変換点を迎えているが、獅童さんはドラマにどのような思いを抱いているのだろうか。獅童さんは「人びとが芸能に夢を求めなくなった」と指摘し、「それがいいも悪いも、認めなきゃいけない」と語る。「(昭和は)やっぱりテレビとか映画、音楽に夢を求めた時代だったんじゃないかな。(自分も)ニュースもプロレスも歌も、いいことも悪いことも、ぜんぶテレビで覚えたからね」としつつ、今は「昔に比べてダメになったもんね、テレビ」と手厳しい。だからこそ「こんな夢みたいなドラマというのは今の時代に挑戦しているなと思う」と獅童さんはたたえる。
そういった時代の移り変わりは、主戦場の歌舞伎の世界でも肌で感じている。4月に行われた「ニコニコ動画」の大規模イベント「ニコニコ超会議」ではバーチャル・シンガーの初音ミクと“共演”して新作歌舞伎「今昔饗宴千本桜(はなくらべせんぼんざくら)」を初上演した。「歌舞伎を見たことない人たちの前でやったときに、初音ミクさんのファンの人たちのエネルギーを目の当たりにして、時代は変わったんだなと思った」としみじみ語る。「変わったことを真摯(しんし)に受け止めないと、やっぱりダメだと思う。時代に媚(こ)びるわけじゃないけれど、認識はしないといけない」と思いを明かす。
「ただ、普遍的なものもある」と獅童さんは続ける。今回のNHKのドラマもその一つだ。「やっぱりNHKのドラマは戦っているなと思うし、戦うことが僕らの仕事かもしれない。歌舞伎という伝統がある中で、NHKという伝統がある中で、どれだけの可能性があるんだろうって……」と獅童さん。「テレビが一番燃えていた時代のことを(題材に)、テレビの世界で思いっきり遊びましょう、と監督に言われたときに、肩の荷が下りた」と胸中を明かし、「テレビがダメになったっていわれている時代だけれども、でも、僕らはそこに立たせてもらう人間だから。死ぬまで面白いものを追い求めると思います」と力強く語った。
土曜ドラマ「トットてれび」はNHK総合で毎週土曜午後8時15分から放送。連続7回。
<プロフィル>
なかむら・しどう。1972年生まれ、東京都出身。8歳で歌舞伎座にて初舞台。2002年映画「ピンポン」で一躍注目を集める。以降歌舞伎のみならず、テレビドラマはNHK大河ドラマ「毛利元就」(97年)や「武蔵MUSASHI」(03年)、「新選組!」(04年)、「八重の桜」(13年)、映画は、「男たちの大和/YAMATO」(05年)、「硫黄島からの手紙」(06年)など出演多数。出演した映画「日本で一番悪い奴ら」が6月25日、「デスノートLight up the NEW world」が10月29日公開予定。
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