ソン・ガンホ:「孤独な王の人生と不肖の息子への愛情を感じながら…」 映画「王の運命」主演

映画「王の運命―歴史を変えた八日間―」について語ったソン・ガンホさん (C)2015 SHOWBOX AND TIGER PICTURES ALL RIGHTS RESERVED
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映画「王の運命―歴史を変えた八日間―」について語ったソン・ガンホさん (C)2015 SHOWBOX AND TIGER PICTURES ALL RIGHTS RESERVED

 韓国の国民的俳優ソン・ガンホさんが、初めての国王役で主演する「王の運命-歴史を変えた八日間-」(イ・ジュニク監督)が公開中だ。朝鮮王朝の悲劇的な父子の事件として知られる「米びつ事件(壬午士禍)」をベースに、現代にも通じる父と子のすれ違いを描いた時代劇。今年度の米アカデミー賞外国語映画賞で韓国代表となった作品。ソンさんは朝鮮第21代国王・英祖(ヨンジョ)を演じ、息子の世子(セジャ)役のユ・アインさんと激しい芝居合戦を繰り広げている。息子への複雑な愛情を迫力と哀切で演じたソンさんが、インタビューに応じた。

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 ◇史実に忠実。客観的な視点で描かれた作品

 舞台は18世紀の朝鮮王朝。映画は、国王の英祖が王子の世子を謀反の罪としたところから始まる。世子を米びつに閉じ込めた8日間を語りながら、息子との過去の日々から孫のイ・サンの代までの長い時間の中に、父と息子の愛憎を2人に焦点を当てながら浮かび上がらせていく。

 ソンさんが演じた英祖は、ドラマとなった第22代国王イ・サンの祖父であり、我が子を死に至らしめた残忍な父親として歴史に刻まれている。在位52年、名君としても名高い人物だ。本作では、君主としての威厳のみならず、父親としての苦悩も表現され、見る者を魅了する。

 「私が英祖を演じることができたのも、作品に主観的なものが一切なく、90%以上、史実に忠実だったからです」とソンさんは説明する。

 「作られり、加工されたりした人物ではなく、この作品は客観的な視点を持っていました。だから、白紙をそのまま渡されたような感覚で、自分で思うがままに描けました。監督から注文もなく、撮影も1回でオーケーというスタイルだったので、一度で全力を出さなければならなくて、すごく緊張しました。俳優に大事なのは監督のスタイルに適応することです」

 初の国王役に挑んだが、「王自体はまったく大変ではなく、特別な人物でもなく神様でもなく、先入観を払拭したときの快感が大きかった」とし、その言葉通り、息子によってかき乱される人間的な王の姿を迫力とともに演じている。

 英祖は、世子に立派な王になってほしいと勉学に励むよう育てる。しかし、世子は勉強嫌いで自由奔放。武芸や芸術が好きで、ことごとく父親に反発し、そんな息子に英祖は失望していく。「息子に対して完全にあきらめてしまったときのまなざしに注目してほしい」というソンさん。

 見どころを「劇中、最初の方ではいろいろと息子を怒っていた英祖が、最後の見切りをつける場面です。勉強をするはずだったのに、不在で酒を飲んで遊んでいるところを呼び出して、叱りつけます。そのときのまなざしは以前の英祖とはまるで違います」と語る。

 40~80代まで、一人の人間の長い人生を演じ切った。実年齢よりも上の年齢を演じることに重圧感があったという。

 ソンさんは「70~80代の老いた政治家としての人生、一方で息子を愛する父としての気持ちを、外見ではなく内面上、どう表情しようか考えました。声を枯らし、話すときの呼吸、声の張りなどを組み合わせて複合的に作り出せたと思います」と自信を見せる。

 ◇息子を立派な王にしたかった裏には王の孤独が

 父の理想通りに生きることができず、父から愛を受けられていないという思いで荒れていく世子に、英祖は「愚かな息子よ」とつぶやくしかない。「残忍な形で息子を死に至らしめたことは、現代では理解不可能」としながらも、「少なくとも感じることはできる」とソンさん。国を引っ張る君主としての自尊心、王の座という重圧感が、血縁を投げ出すほどの人物にしたのではないか、と考えた。

 ソンさんは「王は孤独です。地位を守るために隙(すき)を見せてはいけません。だから、息子により完璧で誰にもさげすまれない立派な王になってほしいと願ったのだと思います」と思いをはせる。

 父親としての苦悩と葛藤を、ソンさんが演じるからこそ、切実なほど伝わってくる。さらに、世子役のユ・アインさんが、父の愛を渇望する息子の姿を狂気とともに演じて、一層悲劇を深くしている。撮影現場ではあえて2人は会話を交わすこともなく、それがかえって楽だったという。

 ソンさんは「ユ・アインは非常に頭がよく、情熱を持っていました。作品を理解し、どう表現してどう呼吸を合わせないといけないのか、早くつかむことのできるセンスがありました。映画の中でも現場でも、お互いにあえて意思の疎通をさせなかったのですが、その方法がとてもよかったし、特別な作業のやり方だと思いました」と絶賛する。

 俳優の仕事を「毎回つらく、苦痛の伴う作業」と表現。たくさんのオファーが来る中、出演作をどう選んでいるのだろうか。

 「どのように伝えるのかという方式の問題だと思います。この映画の題材もこれまで数多くのドラマや映画で紹介されてきましたが、史実に忠実で、最も客観的で最もドライな方式で描かれていました。そこが私にとって魅力的に思えたのです」と明かす。

 次回作は、ソンさんの過去出演作「グッド・バッド・ウィアード」(2008年)のキム・ジウン監督の「密偵」となる。「あなたの初恋探します」(10年)などのコン・ユさんとの初共演となった。

 「密偵」について、「日本とは切っても切れない植民地時代の話ですが、この映画は政治的なものではなく、その時代を生きたさまざまな人物の話で、時代を見つめる多様な視線、さなざまな思いを持った人の話です」と紹介。

 また、今作について「『王の運命~』では300年前の王の時代で、実際にあった悲劇を描いています。韓国の歴史に存在した王室の話に接するいい機会になるでしょう。興味深く見ていただけると思いますので、期待してください」とメッセージを送った。

 「王の運命-歴史を変えた八日間-」はソンさん、ユさんのほか、ムン・グニョンさん、チョン・ヘジンさん、キム・ヘスクさん、ソ・ジソブさんらが出演。4日からシネマート新宿(東京都新宿区)ほかで全国順次公開。

 <プロフィル>

 1967年1月17日生まれ。「ソン・ガンホ映画にハズレなし」と言わしめる韓国映画界のトップ俳優。「シュリ」(99年)、「JSA」(2000年)、「殺人の追憶」(03年)、「グエムル-漢江の怪物-」(06年)、「シークレット・サンシャイン」(07年)、「観相師-かんそうし-」(13年)などに出演し、国内外の映画賞を数多く受賞。今年の米アカデミー賞審査委員に指名された。好きな日本映画は、「過去、現代たくさんある」中で、「些細な日常の中に大きな響きを与えてくれる」という是枝監督作がお気に入りだとか。

 (取材・文:キョーコ)

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