ダーク・プレイス:シャーリーズ・セロン主演「この役を引き受けたのは勇気がある」 監督に聞く 

「ダーク・プレイス」を撮影中のジル・パケ・ブランネール監督 (C)2014 DAMSELFISH HOLDINGS.LLC ALL RIGHTS RESERVED.
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「ダーク・プレイス」を撮影中のジル・パケ・ブランネール監督 (C)2014 DAMSELFISH HOLDINGS.LLC ALL RIGHTS RESERVED.

 シャーリーズ・セロンさんが主演とプロデューサーを務めた映画「ダーク・プレイス」が全国で公開中だ。映画「ゴーン・ガール」(2014年)の原作者による小説の映画化で、家族を殺された主人公が、事件発生から28年たった今、再びその忌まわしい事件に向き合うことになるミステリー作だ。メガホンをとった、ユダヤ人迫害事件にまつわる映画「サラの鍵」(10年)を撮ったフランス人のジル・パケ・ブランネール監督に電話で話を聞いた。

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 ◇セロンは「とてもユニークで面白い女性」

 事件は、米カンザス州の田舎町で起きた。母と2人の姉が殺され、当時8歳だった三女リビーの目撃証言から、中学生だった兄が犯人として逮捕された。以来、心に傷を抱えたまま成長したリビーは、28年後、自ら事件の真相に迫っていく。成長したリビーをセロンさんが演じている。

 ブランネール監督によると、セロンさんとは米国の同じエージェントに所属しており、事務所を通じて脚本をセロンさんに送ったところ、それを気に入り、出演を決めてくれたという。「この役を引き受けたセロンは勇気があるよ。自分の殻に閉じこもり、いつも不機嫌で、それ以外の感情を見せない役だからね」と、セロンさんをたたえる。その上で「セロンは、何かをやり遂げようとする意志がとても強く、仕事に対する倫理観をしっかり持っている。スター然と振る舞うこともなく、とてもユニークで面白い女性だ」と評する。

 ◇観客が共感したくなくなるようなキャラクター

 「“闇”から抜け出るまでは、観客が共感したくなくなるような、とっつきにくいキャラクターにしたかった」と説明するリビー像は、セロンさんと話し合って決めたという。その言葉通り、リビーは定職に就かず、周囲からの支援金を当てにするその日暮らしで、服装には無頓着。終始ふてくされたような表情を浮かべ、同情こそすれ、共感し難いキャラクターだ。

 だからこそ、彼女が終盤で見せる、ささやかな笑顔には価値がある。「リビーは暗い過去を背負っており、怒りも持っている。その上また、つらい過去ともう1度向き合わねばならなかった。でも、自分の中にいる“悪魔”と向き合うことで、やっと明るい面を見ることができた。あの笑顔は、彼女の苦労が報われ、希望が生まれたことの証しなんだ」とブランネール監督は解説する。

 ちなみに、セロンさん自身がティーンエイジャーの頃に体験した悲劇(父親の暴力から家族を守るために、母親が父親を射殺。母親はのちに正当防衛が認められた)が、2人の間で話題に上ることはなかったという。それを前置きしながら、ブランネール監督は「セロンもリビー同様、幼い頃にトラウマを抱えていた。そういう過去のない人よりは、リビーの心情をより深く理解していたのかもしれない」とその心情を慮った。

 ◇「ゴーン・ガール」の影響

 原作は、米国の作家ギリアン・フリンさんが09年に発表した小説「冥闇(めいあん)」だ。フリンさんは、その後、デビッド・フィンチャー監督が映画化した「ゴーン・ガール」(14年)の原作となる同名小説を書き上げたが、ブランネール監督は「ゴーン・ガール」の成功によって、今作に対する周囲の期待値が上がったことを認めつつ、「企画の立ち上がりは、こちらの方がずっと先。あちらは大作だが、こちらは小規模なインディペンデント作品。製作規模も作品のトーンも違う」と公開が前後したことによる今作への影響を否定する。

 脚本は自らが書いた。前作「サラの鍵」のときは、原作にはないバイオリニストを登場させ、自身の祖父に哀悼の意をささげるなどしたが、今回は、大きな変更は加えなかった。むしろ、文庫本にして約600ページもの膨大な小説の「どの部分を削るかに頭を悩ませた」と語る。今作の上映時間は113分。「尺が短いとキャラクターを掘り下げるより、あらすじを追うことの方が重要になってしまう。上映時間があと30分長ければ、もっと盛り込めたが、残念なことにその30分が伸ばせなかった。実のところ、キャラクターは、もう少し掘り下げたかった」と正直な気持ちを打ち明ける。

 それでも今作には、主人公以外に、印象的なキャラクターが複数登場する。その一人が、リビーの兄ベンの28年前の恋人ディオンドラ。演じるのは、クロエ・グレース・モレッツさんだ。モレッツさんについて、ブランネール監督は「クロエは彼女と同年代の女優の中では、最高の女優の一人だ」と言い切る。そして、「映画経験が豊富だし、(現在19歳という)若さにもかかわらず、すでにベテラン女優の風格がある。彼女はとてもチャレンジ精神にあふれた女優で、一緒に仕事をするのは楽しいし、起用するのがベストだと思った」とキャスティングの理由を語った。

 日本映画や日本のアニメーションは、「クロサワ(黒澤明監督)の作品といったクラシックなものや、『AKIRA』ぐらいしか知らないが、すごくいいと思っている」と話すブランネール監督。最後に日本の観客に向けて、「『サラの鍵』のときは、東京国際映画祭に呼んでくださり、とてもよくしていただきました。私のファンだという方がいらっしゃることもうれしいことです。皆さんは、映画を見る目が肥えていらっしゃる。ですから、この作品は、ダークで痛みのある内容ですが、ぜひ楽しんでいただきたいです。また近いうちに、新作を携えてそちらに行けたらいいと思っています」とメッセージを送った。。映画は全国で公開中。

 <プロフィル>

 1974年生まれ、仏パリ出身。日本未公開作「美しい妹」(2001年)で監督デビュー。「マルセイユ・ヴァイス」(03年)ではアクションコメディーに挑戦。その続編「クラッシュ・ブレイク」(07年、未公開)も手がける。ほかに「UV-プールサイド-」(07年、未公開)、「ザ・ウォール」(09年、未公開)がある。共同脚本も担当した「サラの鍵」は、2010年開催の第23回東京国際映画祭で最優秀監督賞と観客賞を受賞した。

 (文・構成/りんたいこ)

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