映画「少女」:本田翼&山本美月が女子高生役で新境地 三島有紀子監督に聞く

映画「少女」について語った三島有紀子監督
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映画「少女」について語った三島有紀子監督

 湊かなえさんのベストセラー小説を「繕い裁つ人」(2015年)などを手がけた三島有紀子監督が映画化した「少女」が、10月8日から公開される。「死にたい」「死ぬ瞬間を見たい」という思いを持ち、闇を抱えた2人の女子高生の友情を、「アオハライド」(14年)の本田翼さんと「貞子vs伽椰子」(16年)の山本美月さんが演じている。「2人の少女がお互いに光となっていたことにどう気づいていくかを見てほしい」と話す三島監督に聞いた。

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 ◇「死」のイメージを水のトンネルでつなげた

 「17歳がキラキラしていなくて、それぞれが闇を抱えているところと、キャラクターの面白さがありましたね」と原作を読んだ感想を語る三島監督。湊さんの作品について「毒の部分が魅力です」と言い、「告白」(10年)、「白ゆき姫殺人事件」(14年)など多数の映画化作品のすべてを見たという。しかし、他の作品を意識することは一切なく、「自分が17歳の頃、どうだったかを全開にしながら、物語にある友情を軸に据えて作っていきました」と話す。

 ヒロインの由紀(本田さん)と敦子(山本さん)は、幼なじみで同じ高校に通う同級生。クラスメートからいじめを受ける敦子を助けられない由紀は、敦子への思いを小説にしたためて完成させる。だが、ある日、小説の原稿を盗まれてしまい、2人は別々の夏休みを過ごすことになる……。

 「17歳は、生きづらい時期。友達関係がままならなくなることもあります。由紀と敦子は相手にどう接したらいいのか、自分の気持ちをどう伝えたらいいのか分からないでいます。お互いが光となっていることにどう気づいていくのか。その関係を大事に描いていきました」と三島監督は語る。

 劇中、2人が互いに隠し事をしていることが分かる。由紀には元教師で認知症の祖母がいて、幼い頃の出来事によって、由紀は密かに祖母の死を願っている。敦子は剣道の大会で痛めた足が治っているのに、治っていないふりをしている。2人の頭の中を「死にたい」という願望がかすめる。そして、友人の遺体を見たという転校生の話をきっかけに、由紀は「人の死ぬ瞬間が見てみたい」と思うに至る。彼女たちの心の闇が、原作にはないお嬢様学校という設定と、「水」を使った映画ならではの描写によって一層引き出されることになった。

 三島監督は「厳しい規律と伝統のあるお嬢様学校の中に描くことで、より息苦しさが出せたと思います。といっても、私も女子高出身で、私自身は楽しく過ごしましたが(笑い)。また、死に近いもののイメージとして、私は水の映像が思い浮かぶんですよ。息苦しいからこそ、もっと息苦しいものを求めてしまうことってあると思うんです。由紀が洗面器の水に顔をつけるところから、祖母の死を願うシーンへとつながっていきます。また、男子高生に『誰かが死ぬところを見たい』と由紀が告白するのは海辺です。死のイメージを水のトンネルでつなげていったのです」と作品のイメージについて説明する。

 ◇本田翼&山本美月が新しい扉を開けるよう演出した

 「由紀がどんな人なのか分からないまま進んでいくところが、サスペンスになっている」と三島監督。読書好きでミステリアスな由紀役を本田さん、元剣道部員の敦子役を山本さんが演じている。これまでの役柄とは異なる2人の新たな表情が、三島監督によって引き出されている。思春期の少女の無邪気さと残酷さを繊細に演じた2人に、「とてもいい表情が撮れた」と満足そうな笑顔で答える三島監督。

 2人については「本人たちが持っている新鮮な要素、新しい扉を開けたいという思いで、2人を観察しながら演出していきました。本田さんは感覚が鋭い女優。『アオハライド』での笑顔を完全に封印してもらいました。彼女の動きを見てから“無理難題”を仕向けることによって、化学反応が起こせたと思います。山本さんには、彼女の持つ真面目な部分を引き出しながら、切なさやはかなさを出してもらい、原作とは少し違うキャラクターにしました」と三島監督は語る。

 後半の2人の芝居のハイライトになるシーンは、緊張感のある絶妙なものになった。そこは、子供時代の仲が良かったころの由紀と敦子のシーンと呼応している。

 「本当に大切なシーンとなりました。朝1時半に出発して、山の上で朝日を浴びることを狙って撮りました。2人にプレッシャーをかけながら、尻をたたきつつ、彼女たちの心の中から生まれる芝居、感情を大事にしながら作りました」と撮影秘話を語る。

 さらに、原作にある「遺言」を使った演出にも注目だ。2人のヒロインを含めた女子高生たちが、学校の舞台上で読み上げる演劇風に作り上げ、三島監督のオリジナリティーが光るシーンとなっている。なるほど、女子高生というのは、常に“女子高生”を演じているもの。彼女たちが遺書を読み上げることで、一人の少女の思いが一般化される。「これは誰かの話ではなく、少女全員の話。誰が死んでもおかしくないし、特別な話ではないということです」と三島監督は説明する。そして「年代性別を問わず、まさに生きづらさを感じている人たちに見てほしい」とメッセージを送った。

 出演は本田さん、山本さんのほか、真剣佑さん、佐藤玲さん、お笑いコンビ「アンジャッシュ」の児嶋一哉さん、「SMAP」の稲垣吾郎さん、白川和子さんら。10月8日公開。

 <プロフィル>

 大阪市出身。神戸女学院大学卒業後、NHKに入局。「NHKスペシャル」「トップランナー」などに携わる。11年間在職し、独立。「刺青~匂ひ月のごとく~」(09年)で監督デビュー。これまで手がけた作品に「しあわせのパン」(12年)、「ぶどうのなみだ」(14年)、「繕い裁つ人」(15年)などがある。

 (インタビュー・文・撮影:キョーコ)

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