さかなクン:「ファインディング・ドリー」海洋生物監修 タコのハンクの活躍を独自の視点で分析

劇場版アニメーション「ファインディング・ドリー」の日本語吹替版で海洋生物監修を務めたさかなクン
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劇場版アニメーション「ファインディング・ドリー」の日本語吹替版で海洋生物監修を務めたさかなクン

 ディズニー/ピクサー最新作「ファインディング・ドリー」(アンドリュー・スタントン監督)が全国で公開中だ。人間に捕まったカクレクマノミのニモを救出しようとするニモの父親のマーリンとナンヨウハギのドリーの冒険を描いた「ファインディング・ニモ」(2003年)の続編で、忘れんぼうのドリーが、ただ一つ忘れなかった家族を捜すために繰り広げる冒険の旅を描いている。日本語吹替版では、ドリーを室井滋さん、マーリンをお笑いコンビ「とんねるず」の木梨憲武さん、7本足の謎のタコ、ハンクを上川隆也さん、ドリーの過去を知るジンベエザメのデスティニーを中村アンさんらが声を担当した。日本語版の海洋生物監修を担当したさかなクンに話を聞いた。

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 ◇海洋生物への興味は小学校時代の友人の絵がきっかけ

 今作の日本語版海洋生物監修に抜てきされたときの心境を、さかなクンは「ギョギョギョッ!」とおなじみのフレーズで驚きを表現し、「卒倒しそうなほどのうれしさでした」と振り返る。監修内容については、「(映画に登場する)お魚や海の生物の名前を見せていただき、日本名があるものはそれを伝えたり、生態学的な動きや環境に違和感がないかなどを重点的に確認しました」と説明する。

 今作にはハンクというタコの新キャラクターが登場するが、「小学2年生のときにクラスメートがノートに何かを描いていると思って見たら、ノートから飛び出てきそうな迫力いっぱいのタコでした」と切り出し、「その友達がノートにタコを描いていなかったら、海の生き物やお魚に興味を持っていなかったかもしれません」と海洋生物に引かれたきっかけを明かす。

 そして、「タコを見るために、お魚屋さん、海、水族館など、タコのいるところに通いました」と振り返り、「タコちゃんに会うためにいろいろな場所へ行くと、お魚も一緒に暮らしているわけで、そうするといろんなお魚にも出合い、お魚も面白いと。元は友だちの一枚の絵からですが、お魚好きへとタコちゃんがつないでくれました」と身振り手振りを交えて楽しそうに語る。

 ◇自前の海洋生物図鑑を持ち出し熱弁

 タコへの思い入れが強いさかなクンだが、今作について「ハンクさんがいなかったら、ドリーちゃんの家族を捜す旅というのは成り立たないのでは」とハンクの存在の重要性を訴える。さらに、「ハンクさんは一見、強面(こわもて)のタコちゃんなのですが、ドリーちゃんは根っからの明るさでハンクさんと意気投合して、非常に面白い展開へとなっていくので、すごくワクワクします」と目を輝かせ、「ハンクさんはどこかにいるようなおじさんで、近所にいそうな雰囲気をしている」とハンクの魅力を語る。

 ハンクにはタコならではの生態も生かされているといい、「壁にくっつくと壁の色になるなど変幻自在に色を変えて、かつ、たくさんある足を器用に使っています」と特性を解説。続けて、「今作でもハンクさんは足を使っていろんなことを……あまり内容を言ってしまうとあれですけど……」とさかなクンは興奮を抑えつつ、「本当にタコはこういうことするんじゃないかなと思っちゃうくらい、自然な動きが世界観につながっています」と感心する。

 ほかのキャラクターのモチーフになっている魚についても、「ウミガメちゃんたちが海流に乗ってやって来たり、エイ先生たちの仲間たちがやって来てすごい流れが起きるとか、(各生物の特徴が)物語に合わせて描かれています」と解説する。

 インタビュー中、魚について分かりやすく説明するため、さかなクンがいつも持ち歩いているという自前の海洋生物の図鑑を持ち出し、「ドリーちゃんやニモちゃんが暮らしているサンゴ礁には複雑なお魚の暮らしの関係があったり、まだまだ習性が面白いお魚がいっぱいいます」と具体例を示しながら力説。そして、「(今作のシリーズが)第3弾、第4弾、第ギョ(5)弾と、どんどん続いていただきたいなと心待ちにしています」と熱い思いを語る。

 ◇深い知識を得た今も「むしろもっと知りたい」

 誰もが一目置くほど海洋生物に関する知識を持つさかなクンだが、「勉強するというよりも見ているだけでも面白いですし、お魚を見ていると『なんでこんな形をしているんだろう』とか『何を食べているんだろう』『どういう泳ぎ方をしているんだろう』と、いろんな疑問が湧いてきて本物を見てみたいと思う」と飽くなき探究心を見せる。

 魚への探究心の源について、「お魚の種類だけでも世界で約3万種、日本だけでも4200種以上いるので、調べても調べても覚えきれないほど多い」と切り出し、「知れば知るほど面白いし、楽しいし、おいしい。お魚が身を持ってたくさんの感動を教えてくれるので、感動をいただいたからには恩返しをしなければ」と考えているという。そして「小さな頃は自分で見て可愛いとか、お魚の感動は自己満足だったけど、感動が大きすぎて、あるとき爆発しそうになって倒れちゃうかも」という事態に陥り、「お魚の素晴らしさは伝えないともったいないし、みんなで見て喜んで感動して共有しなければと思っています」と力を込める。

 続けて、「ニモちゃんやドリーちゃんの世界でうれしいのは、(モデルとなった)本物(の魚など)が実在していること」と言い、「実物が見たいと思えば海に行ったり、水族館にレッツギョーしたり、お魚屋さんに行ってみたり、映像を見たりするとか、お魚に興味を持ったら探す手段がいくらでもあります」と実際の魚を楽しむ面白さを語る。

 さらに「お魚は見るだけではなく触れる喜びもあります」と続け、「お魚を釣り上げると、歯ぎしりしたり、浮き袋をおなかの中で震わせたり、実はいろんな音を出しています」という。「見て、聞いて、触れて、かいで、味わって、まさに“ギョ感(五感)”でお魚の感動をいろんな手段でゲットできるというのがうれしい」と笑顔を見せ、「子供の頃から一度も飽きることなく、むしろもっともっと知りたいし調べたい!」と魚への深い愛情を示す。

 そして、「(魚を通じて)知り合った漁師さんやお魚屋さん、釣り人、飼育員さん、街で声をかけてくれるお魚が大好きなちびっことか、年の差や国境を超えて、お魚が人の輪をどんどん大きくしてくれます」と喜びを語る。

 そんなさかなクンの今作における一推しは「タコちゃんが大好きなので、ハンクさんは大注目!」と話すも、「どのキャラクターも素晴らしく、中でもアシカちゃんがユーモラスなキャラクターとして登場していい味を出している」と他のキャラクターも気になっている様子。「近所にこういう子やおじさんがいたな、あのお姉さんに似ているなとかいう要素があって、それがまた親しみやすい」と笑顔を見せ、「だけど動きなどは(魚の生態を)崩しすぎていないのが素晴らしい」と絶賛した。映画は全国で公開中。

 <プロフィル>

 東京都出身。東京海洋大学名誉博士、客員准教授。2010年には絶滅したと思われていたクニマスの生息確認に貢献。海洋に関する普及・啓発活動の功績が認められて「海洋立国推進功労者」として内閣総理大臣賞を受賞。魚の豊富な知識があり、テレビやラジオなどで活躍するほか、魚の情報や正しい知識、おいしい食べ方や環境問題について全国各地で講演を行っている。

 (インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)

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