大畑大介さん:元ラグビー日本代表が仏リーグの五郎丸選手にエール 「猛者を倒してレギュラーに」

インタビューに応じた大畑大介さん=WOWOW提供
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インタビューに応じた大畑大介さん=WOWOW提供

 元ラグビー日本代表で、2011年に現役を引退し、現在、解説や指導者として活動している大畑大介さん。20日から開催されるフランスのラグビープロリーグ「TOP14」を前に、大畑さんに、同リーグのクラブ「クレルモン・オーヴェルニュ」での経験や、「RCトゥーロン」に移籍したラグビー日本代表の五郎丸歩選手について聞いた。

ウナギノボリ

 TOP14は、RCトゥーロン、クレルモン・オーヴェルニュ、モンペリエなど全14チームが所属するラグビー世界最高峰のプロリーグの一つ。上位6チームに、ヨーロピアンラグビーチャンピオンズカップの出場権が与えられる。

 --2002年にクレルモン・オーヴェルニュに移籍しましたが、フランスでプレーしようと思った理由は。

 1999年のワールドカップで1勝もできず悔しい思いをして、次の2003年のワールドカップは、自分のラグビー選手としてのピークになると考えていました。だから、この4年間を有意義に使おう、環境を変えようと思いました。それで、オーストラリアに行ったのですが、1年を通してラグビーがしたかった。もちろん、プロのチームでやりたいというのもありましたね。

 今みたいに、日本人選手が海外に行く環境が整っていなかったので、自分で探して、知人に連絡してもらったりして、まず「練習に行かせてほしい」とお願いしたんです。人気チームだったクレルモンは、タイヤメーカーのミシュランの本拠地ですが、小さな街でした。だからラグビーに対する熱をすごく感じました。ファンの声援もすごかったですが、その分調子が悪いと厳しかったですね。

 --フランスに行って大変な思いはしましたか。

 僕は自ら新しい環境を求めてフランスに行きました。そういったものに適応できなければ行くべきでないと思っていたので、その点では苦労したことはありません。オーストラリアにいたこともあって、数少ないコミュニケーションでもやっていけると分かっていましたし、文化が違うのも当然だと思っていました。

 ただ、当時はなかなかビザの関係もあってプロ契約ができず、試合に出られなくて「しんどいな」と思ったことはあります。それでも、いい経験でした。日本にいた時はポジションが確約されていたので、ケガじゃなければレギュラーで試合に出られていました。それが簡単に試合に出られなくなって、また新しいモチベーションが出てきましたね。

 --具体的にどんな経験がプラスになりましたか。

 自分はずっとラグビーをやってきたので、スキルとか、そういう部分では、なかったです。ただ、今もそうですが、クレルモンは強豪なので、フランス代表選手も多く在籍してチームのレベルが高かった。そういう環境でやりたかったので、練習一つで張りを感じましたね。

 若い時の僕は、プレーの出来に幅がある選手でした。だけど、フランスに行けば僕のことを知らない状況に置かれます。常に高い水準で気持ちを作って、ラグビーを100%やらないといけない環境でした。

 周りは当たり前ですが、みんなプロ、つまりラグビーで飯を食っているという緊張感がありました。常にセレクションされているみたいな感じだったので、精神的にも幅が出なくなり、その後のプレーの安定につながったんじゃないでしょうか。そういうところも楽しかったですね。

 --実際に肌で感じたフランスラグビーの特徴は。

 一言で言うと、純粋に激しいラグビーです。選手の気性も荒いし、練習の時もテンションが高く、よい時、悪い時の波が激しく、気持ちを前面に押し出していました。フィジカルも強いですが、熱くなってしまって、相手を引っ張ったり、足を出したり、言ってみれば少しダーティーなことを練習の時からやっていましたね。

 --改めて経験を振り返ってみて、どう感じますか。

 やはり、フランスに行ってよかった。当時はなかなか日本のラグビーが評価されていなかったので、自分が日本代表を背負っているということを改めて感じることができました。だから日本に戻ってきて、さらに日本代表に対する意識も高くなったし、自分が選手として必要とされることに喜びを感じるようになりましたね。

 --今シーズンからRCトゥーロンに加入した五郎丸選手については。

 僕らの時代は、ワールドカップが選手として一つの区切りという感じでしたが、去年のワールドカップが終わって、今、日本人選手には海外でプレーするという新しいモチベーションができたのではないでしょうか。すごくうらやましいし、ありがたいことですよね。

 RCトゥーロンは世界のトップ選手が集まるチームで、そのメンバーに入ることは大きなステータスです。そういう意味では、五郎丸選手は、選手として一定の評価を得て、ヨーロッパのトップレベルのチームという環境でプレーできる初めての日本人とも言えると思います。

 五郎丸選手の活躍が日本人選手の評価につながっていくと思いますし、彼に続く選手も出てくると思うので、いいパフォーマンスをして、次の世代のモチベーションを上げてほしいと思う。さらにラグビーだけじゃなくて、日本のスポーツ選手全体の可能性を上げてくれればうれしいですね!

 --五郎丸選手にアドバイスをするとしたら。

 僕がいた時のクレルモンには、WTB(ウイングスリークオーターバック)のオレリアン・ルージュリー選手をはじめ、バックスのほとんどがフランス代表選手というくらいのハイレベルでした。そんな選手たちと毎日練習でぶつかれる、こんな素晴らしい環境はなかったですね。
  
 だから、五郎丸選手が加入するRCトゥーロンも同じだと思います。今や、オールブラックス(ニュージーランド代表)やワラビーズ(オーストラリア代表)の選手も多く在籍し、そこからハイレベルな選手が試合に出る。

 五郎丸選手が日本にいた時は、当然のように試合に出られたのが、またポジションを取りに行かなければならない環境なので、新たなモチベーションになるのではないでしょうか。純粋にラグビーに集中できると思います。普段の練習でもタフな戦いを感じられる環境にいるので、猛者を倒してレギュラーになってほしいですね。

 --五郎丸選手が「TOP14」で活躍するためのポイントは。

 FB(フルバック)に求められるものが南半球と違うので、北半球の方が五郎丸選手のスピードが生かせると思います。また、気候の面もありますが、キッキングゲームが増えることも彼にとって向いていると思っています。試合数も多いので、カップ戦を含めて出場機会も増えるのではないでしょうか。

 --五郎丸選手と同じポジションにはウェールズ代表のリー・ハーフペニー選手というライバルの存在があります。

 ハーフペニー選手は体が大きくないですが、アグレッシブで、キック、ラン、ハイボールのキャッチ、それにディフェンスもいけるし、FBとしての総合点の高い選手です。五郎丸選手のライバルではありますが、日本の子供たちに見てほしいし、僕自身もウイングとして一緒にやってみたいと思うFBの一人です。

 一方で五郎丸選手のFBとしての長所は安定感だと思います。後ろで構えながらプレーしてチームの信頼を勝ち得ることが必要です。一つのビッグプレーで黙らせるような選手ではないですが、キッキングや、相手のキックに対して後ろを取られないポジショニング、そして何と言ってもプレースキックの得点力があります。

 少し時間はかかるかもしれないですが、そういうことを積み重ねてベースを作っていけばいい。日本にいた時と違って追いかける立場なので、プレッシャーを感じず、チャレンジできる余白があります。普段はクールな五郎丸選手ですが、フランスに行って熱くなれば、魅力も上がるし、より選手として幅も広がると思います。


 *……WOWOWでは日本代表の五郎丸選手が移籍した「RCトゥーロン」のカードを中心に毎節2試合、プレーオフは全5試合、年間57試合を、2017年6月のファイナルまで放送する予定。

 放送は、第1節「ボルドー・べグルvsラシン92」がWOWOWプライムで20日深夜3時30分から生中継。第1節「バイヨンヌ対RCトゥーロン」がWOWOWライブで21日深夜1時から生中継。第2節「ポー対RCトゥーロン」が27日午後9時30分、「モンペリエ対クレルモン・オーヴェルニュ」が28日午後11時からWOWOWライブで生中継。第3節「RCトゥーロン対ブリーヴ」が9月3日深夜3時30分から、第3節「ラシン92対トゥールーズ」が同4日深夜3時45分からWOWOWプライムで生中継。

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