超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、現在はゲーム開発と産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、オーストラリアのメルボルンで開かれたゲームイベントについて語ります。
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ハロウィーンを挟んだ11月の第1週、オーストラリア第2の都市メルボルンはゲーム関連のイベントが集中する。「メルボルン国際ゲームウィーク」の開催だ。今年は新たにVR(バーチャルリアリティー、仮想現実)関連のイベントが加わった。acmi(Australian Center for the Moving Image=オーストラリア映像博物館)で11月3日に開催された「ゲームチェンジャー:ACMI VRフェスティバル」で、平日にもかかわらず約5000人が訪れた。
イベントは、企画展として1日だけ開催され、VRヘッドセットのHTC Vive、Oculus Rift、Gear VRを用いた最新ゲームやデモ、開発中のゲームなどが15タイトル展示された。平日にもかかわらず、会場は学校の社会見学で訪れた子供たちから若者、お年寄りに至るまで幅広い層が見られ、VRコンテンツを体験した。セミナールームではVRコンテンツの開発や可能性などについて、地元の開発者や研究者による4本のパネルディスカッションが行われた。
acmiは1946年に設立されたビクトリア州立映像センターを前身に、2002年に設立された総合映像博物館だ。最大のポイントはテレビ・映画などと並んでゲームが重要な柱と位置づけている点にある。常設展には人気映画「マッドマックス」の撮影で用いられた自動車や、先住民アボリジニの記録映像などと並んで、80年代のクラシックゲームから最新のPCゲーム、さらには地元のゲーム会社による作品まで、さまざまなゲームが展示されている。
日本では、ゲームと映像はインタラクティブ(相互作用)性の有無で、異なるメディアと認識されることが多い。しかし公共教育部門長で本イベントの旗振り役をつとめたヘレン・シモンソンさんは「ゲームのインタラクティブ性は映画のSFX(特殊効果)のようなもの。どちらも映像体験をかき立てる触媒にすぎない。特にVRではゲームと映像が融合し、新しい映像体験を生み出しており、両者を分けることは困難になっている」と説明する。
もっとも開設当初はゲームに対するネガティブな見方もあった。しかし、これまで7万人が参加した子ども向けのゲームプログラミング体験会などを通して、徐々にそうした見方を払拭(ふっしょく)していったという。ゲームクリエーターによる講演会なども実施しており、2012年には元セガで3Dシューティング「Rez」などを手掛けた水口哲也さんも登場した。VR展に先立ち10月31日には教師を対象にしたパネルディスカッション「ゲーム教育サミット」も実施され、約200人が参加した。
こうした背景から「既存のゲーム文化やビジネスのあり方を決定的に変えるVRの展示会を、メルボルン国際ゲームウィークの期間中に実施することは自然な流れだった」とシモンソンさんは説明する。チーフ・エクスペリエンス・オフィサーのセバスチャン・チャンさんによると準備期間は約4カ月で、パネリストの人選も3週間で終わった。いずれも日本では考えられないスピードで、これだけの規模の展示を日本で行うには、準備に半年以上は必要だろう。
こうした活動の背景にあるのがメルボルンのゲーム産業における強固な産官学連携だ。会場には地元企業や大学が開発中の最新タイトルが並び、一般にむけて技術力をアピール。パネルディスカッションでも多彩な議論を繰り広げた。もっとも、オーストラリア国内でも、これほどの取り組みは珍しく、特にゲームの収集と展示を行っている点では、唯一の博物館だという。日本のゲームアーカイブにおいても、参考になる取り組みが多数ありそうだ。
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長をへて2000年からフリーのゲームジャーナリスト。08年に結婚して妻と猫3匹を支える主夫に“ジョブチェンジ”した。11~16年に国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表として活躍。退任後も事務局長として活動している。
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