小野憲史のゲーム時評:コロナ禍におけるゲーム業界のセキュリティー

 超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、カプコンが受けたサイバー攻撃を機に注目を集めているコロナ禍におけるゲーム業界のセキュリティーの現状について語ります。

ウナギノボリ

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 カプコンが「RAGNA LOCKER(ラグナロッカー)」を名乗る集団からサイバー攻撃を受け、内部情報がインターネット上に流出した問題が、業界を震撼させている。卑劣な犯罪行為で、決して許すことはできない。

 その一方で本事件を対岸の火事のように捉えている企業やユーザーも多いのではないだろうか。しかし、今やセキュリティーに関する意識や対策は、企業活動に留まるものではなく、家庭や一般ユーザーを含めたものになっていることを、正しく理解する必要がある。

 キーワードはゲーム機のインターネット対応だ。これにより多くのユーザーが自分のネットワークIDを有することになった。そして、これを起点としたサイバー攻撃が急増している。

 直近では本年4月に任天堂から合計16万件の個人情報が不正ログインにより流出した件が記憶に新しい。ゲームソフトなどをインターネット上で購入する際に使う「ニンテンドーネットワークID」が起点だ。これを受けて任天堂は、ニンテンドーネットワークIDを経由してニンテンドーアカウントにログインする機能を廃止するなどの対策に追い込まれた。

 また、スマートフォンがコンピュータウイルスに感染し、外部から不正に操られるリスクも高まっている。大量の端末から特定のサーバにアクセスを集中させ、機能不全に陥らせる、DDoS攻撃と呼ばれる行為が目的とされる。2019年8月にはAndroid端末向けの不正アプリが出回り、14万台もの端末が感染する事件が発生している。

 こうした問題に拍車をかけているのが、コロナ禍によるテレワークの推進だ。

 ゲーム開発がPCで完結するスマートフォンと異なり、専用の開発機材が必要になる家庭用ゲームやアーケードゲーム開発は、テレワークに対応しづらい面があった。しかし、4月の緊急事態宣言を受けて各社のテレワーク移行が加速。12月にスクウェア・エニックスがテレワーク中心の勤務体系に移行したことで、業界で定着する可能性がある。

 もっとも、近年のゲームは国内外で数多くの企業が連携して開発する例が一般的だ。こうした中でリスク管理を進めるには、各社が足並みを揃える必要がある。

そのうえ、テレワークの推進により家庭や個人レベルで対策を進める必要が出てきた。今やゲーム開発者には絵がうまい、プログラムが秀逸といった直接的なスキルだけでなく、セキュリティーに関する知見も、併せて求められるようになってきているのだ。

 ただし、セキュリティーは単に高めるだけが肝要ではない。コロナ禍による巣ごもり推進といっても、生活のために完全に外出しないわけにはいかない。同じようにサイバー攻撃の被害に遭わないために、インターネットを完全に遮断してゲーム開発を行うことは不可能だ。

 コロナがある生活が日常化する一方で、サイバー攻撃のある生活もまた、日常化している。セキュリティ企業大手のアカマイ・テクノロジーズは2019年7月から2020年6月の間に観測されたDDoS攻撃の約8割がゲーム業界を標的とするもので、全業界で突出して多いと警鐘を鳴らしている。ゲーム愛好家の一人として、セキュリティーに関する意識を高めていきたい。

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 おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーランスで活躍。2011からNPO法人国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)の中核メンバー、2020年から東京国際工科専門職大学講師として人材育成に尽力している。

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