小野憲史のゲーム時評:「スーパーマリオ ラン」の可能性 スマホゲーム「ガチャ」課金の脱却なるか

スマートフォン用ゲーム「スーパーマリオ ラン」(iPhone版)
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スマートフォン用ゲーム「スーパーマリオ ラン」(iPhone版)

 超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、現在はゲーム開発と産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、任天堂のスマホゲーム「スーパーマリオ ラン」について語ります。

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 ゲーム業界最大の商戦期である年末商戦。ここでのヒットが来年度の指標となり、業界に影響を与える。今年も数々のヒットタイトルが登場したが、2016年12月16日に配信が始まった任天堂の初の本格的なスマホゲーム「スーパーマリオ ラン」が話題をさらった感がある。同社は昨年の12月21日、配信から4日間で全世界のダウンロード数が4000万件を超えたと発表した。

「スーパーマリオ ラン」は、無料でダウンロードでき、全24ステージのうち3ステージが無料でプレーできる。残りのステージを遊ぶには、一度だけ1200円を支払う必要がある。ゲームを無料で試した後に、気に入ればまるごと買うスタイルで、いわゆる「買い切り型」のビジネスモデルだ。現在はアイフォーン版のみだが、今後はアンドロイド版の投入も予定している。

 米調査会社のアップアニーは、有料利用者の割合は4%だと推測している。仮に「スーパーマリオ ラン」がアイフォーンとアンドロイドの両方で1億ダウンロードされ、利益率がアプリストアで標準的な70%だとすると、1200円の「スーパーマリオ ラン」は約34億円の売り上げということになる。パッケージゲームの収益が1本2000円だと仮定すると、約170万本分の利益に相当する。

 任天堂のビジネス規模感にしては迫力不足だが、「1億人のユーザーにマリオゲームを宣伝でき、ユーザーリストも得られる」と考えれば、ありだろう。ニンテンドーアカウントを登録して連携させる仕組みもあるから、ユーザーの囲い込みも図れる。同社は今春に新型家庭用ゲーム機「ニンテンドースイッチ」の発売も控えているから、ここで得られた情報はプロモーションにも活用できるだろう。

 だが「スーパーマリオ ラン」がもたらした真の影響は、「買い切り型」の販売方法でスマホゲームをヒットさせる余地があることを、可能性をゲーム業界に提示したことだろう。スマホゲームで主流の「基本プレー無料のアイテム課金モデル」では、「ガチャ」などの課金システムを組み込まざるを得ず、自由なアイデアが広がりにくい。そのため肝心の中身が偏りがちで、新規性が乏しくなるにもかかわらずに乏しいのだが、「ガチャ」に頼ったスマホゲームばかりが配信されている。

 また課金ユーザーを前提にする以上、子ども向けのスマホゲームを作っても、課金が見込みにくい。それなら、最初から、保護者が子供に安心して買い与えられるスマホゲームを配信する方が早いという考え方もできる。子供向けのスマホゲームのヒット作には、仮想空間でブロック遊びが楽しめる「マインクラフト:ポケットエディション」がある。

 世界のゲーム市場は家庭用ゲーム、PCゲーム、スマホゲームが約3分の1ずつで、日本は中でもスマホゲームの割合が高い。背景にあるのが、1人当たりの課金額がずば抜けている点で、それを支えているのが、「ガチャ」モデルによるゲームデザインだ。その結果、「ガチャ頼み」のスマホゲームがランキング上位を占め、その顔ぶれが変わらず、停滞感が続くという、皮肉な状況になっている。

 この状態が続くと、スマホゲーム全体が一気に飽きられる恐れもある。「スーパーマリオラン」のヒットと、それに続くタイトルの登場で、スマホゲームに広がりが出てくることを期待している。

 ◇プロフィル

 おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長をへて2000年からフリーのゲームジャーナリスト。08年に結婚して妻と猫3匹を支える主夫に“ジョブチェンジ”した。11~16年に国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表として活躍。退任後も事務局長として活動している。

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