超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、現在はゲーム開発と産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、12~14日に米国で開催された世界最大級のゲーム展示会「エレクトロニック・エンタテインメント・エキスポ(E3)」について語ります。
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E3が米ロサンゼルスのコンベンションセンターで開催された。ゲーム機メーカーはそれぞれ独自の戦略を発表。商談会としての機能に加えて、一般ユーザー向けの無料エリア「E3 Live」を新設するなどの施策もみられた。しかし会場内は空きスペースが目立ち、E3の開催が踊り場にさしかかっていることを印象づけた。
ゲーム機メーカーのブースが並ぶウエストホールで、質・量ともに頭一つ抜き出ていたのがソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)だ。発売から3年目を迎えたPS4はソフトが成熟し、大作ソフトからインディー(独立系)ゲームまで幅広いラインアップが並んだ。中でも注目を集めたのが、銃型コントローラーを構えてプレーする、PSVR用の一人称視点シューティング「Farpoint」だ。ちなみに会場では、携帯ゲーム機「PSVita」のソフトは見られず、日本との違いが際だった。
マイクロソフトはゲーム機のサイズを40%に縮小した「XboxOneS」に加えて、4K映像出力にも本格的に対応する上位機種のゲーム機「プロジェクト・スコルピオ」を発表した。その一方でウィンドウズ10とXboxOneのクロスプラットフォーム戦略を推し進め、ゲーム機の販売台数にこだわらない姿勢も打ち出した。稲船敬二さんが手がける新作アクションゲーム「ReCore」にも長い行列ができ、注目度の高さを感じさせた。
任天堂は2017年内に発売予定のWiiU用ソフト「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」の試遊展示に絞り込んだ。また特設ステージではトークイベントとインターネット配信を連日開催した。「ゼルダの伝説」をじっくりと体験してもらうため、ブース内では人数制限を実施した。会期を通して長い行列ができていたが、展示の多様性は失われた。携帯ゲーム機のニンテンドー3DSのソフト展示もなかったのも特徴だった。
一方でサードパーティー中心のサウスホールではエレクトロニック・アーツ(EA)、アクティビジョン・ブリザードの大手2社が出展を取りやめた影響もあり、空きスペースが目立った。主催団体の米エンタテインメントソフトウェア協会(ESA)は会期中に7万人が参加し、うち「E3 Live」にも2万人が参加したと発表した。しかし、業界関係者の来場者は5万2200人から5万300人とわずかながら減少した。もともと商談会として発足したE3で、一般向けエリアを新設した時点で、ビジネス面の弱体化が進むのは流れだったのかもしれない。
ESAによると、アメリカの家庭用ゲーム市場は2014年の154億ドル(約1兆6900億円)から2015年の165億ドル(約1兆8100億円)に成長した。しかし、そのうちデジタル流通分(2015年)が112億ドル(約1兆2300億円)と7割近くになる。来年のE3は2017年6月13日から15日まで同会場で開催される。業界のショーケースとしての機能は健在だが、パッケージ流通向け商談会という従来の機能はさらに低下しそうで、曲がり角を迎えているといえそうだ。
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長をへて2000年からフリーのゲームジャーナリスト。08年に結婚し、妻と猫3匹を支える主夫に“ジョブチェンジ”した。11年から国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表に就任、12年に特定非営利活動(NPO)法人の認定を受け、本格的な活動に乗り出している。
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