放課後カルテ
第10話(最終話) これからも健康でいてほしい
12月21日(土)放送分
俳優の中山優馬さん主演のWOWOWの連続ドラマ「連続ドラマW 北斗-ある殺人者の回心-」が放送中だ。ドラマは、作家の石田衣良さんが2012年に「デビュー15周年の結論」として発表し、第8回中央公論文芸賞を受賞した小説「北斗 ある殺人者の回心」が原作。それを「脳男」(13年)や「グラスホッパー」(15年)で知られる瀧本智行監督が映像化した。殺人犯として勾留されている20歳の北斗は「僕を死刑にしてください」と国選弁護人の高井(松尾スズキさん)に訴える。北斗は少年時代に両親から激しい虐待を受けて愛に飢えていたが、養護施設で里親となる綾子(宮本信子さん)と出会い、心の闇から解放され、生まれ変わっていく。だが、数奇な運命に翻弄(ほんろう)され、殺人者になってしまう……という内容だ。過酷な撮影現場について、また見どころなどについて中山さん、石田さん、瀧本監督に話を聞いた。
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――映像化の感想は?
石田さん:正直、こんなに大変なのに手を挙げてくださって大丈夫かなというのはありましたね。実はいくつか映像化の話も来ていたんですけれど、この作品は大変すぎるという感じで、暗いし重いということで止まっていたりしたので、瀧本監督がこれほどほれ込んでくれて、大丈夫なのかなというのが、そのときの(率直な)感想です。
瀧本監督:暗くてつらい話なんですけれど、暗くてつらいのをそのままぶつけたいという。実はこの企画、WOWOWさんで2回落とされて、4年間かかってますから。プロデューサーが執念で粘ってくれて成立したということもあったので。一昨年、僕が暇で、ずっとお待たせしているし、他からも(この原作で映像化の話が)来ているらしいよという話を聞かされて、これはいかんと思って。企画が通らなくても石田さんに僕がやりたかったのはこういうシナリオですと渡したいと思って、先にシナリオを書いたんですよ。そこまで言うならもう(映像化して)いいんじゃないの、みたいな感じで(笑い)。
僕自身、小説を呼んだときに圧倒されたんですよね。僕は小説を読むときにだいたい寝ながら読むんですけれど、この作品は途中でこれはあかんと思って机に行って一気読みしたんですね。それで、ちょっと放心したような、数日引きずるような、そんな僕が受けた印象をそのまま観客に全5話、すべて見終わったときにそういう印象を持ってもらえたらなという。技を使おうと思わず、全部とっぱらって、真っ向勝負で。
――中山さんはオファーが来たときはどう思いました?
中山さん:絶対にやりたいと思いました。(その理由は)こんなに深い役どころをできるのは一生に一度のことだなと思ったので、すごくびびってましたけど、絶対に勝ち取りたいと思いました。
――お二人は中山さんに決まったことを聞いてどう思いましたか。
石田さん:僕は正直、よく存じ上げていなかったんですが、5話分を見て感心しました。硬質感ですかね。硬いガラスというか、何かの結晶のような真剣さというか、硬質な感じがしました。なのでその部分に関しては北斗という人物に重なる部分があったかなと思います。どうしても(中山さんが所属するジャニーズ)事務所の関係で、アイドルとして見られてしまうのは仕方ないところがあると思うんですけれど、男性の視聴者、大人の人はぜひ才能のある、力のある役者さんとして見てあげてほしいですね。特に最初から最後まで見ていると役に成り切ってどんどん顔つきが変わっていく。ああいうのを見せられると役者さんってすごいなと思いますね。ボクは正直言って、書いている間は体重は変わらなかったので(笑い)。
――監督はジャニーズ事務所の他の方も主演で作品を撮られていますけれども。
瀧本監督:僕は(生田)斗真と山田(涼介)君とで今回3人目ですけれどもね。共通しているのは愚直さですね。本当に山田君なんてああいう容姿だし、まさにアイドル活動最前線にいる人なんだけど、実際に付き合うと、くそ真面目で本当にひたむきに作品に取り組む。そういう姿勢は伝統なのかもしれませんね。事務所の中だけでもすさまじい競争にさらされているから、1本の仕事に対してきちんと向き合わないと生き残っていけないというような、そういう空気が流れているんじゃないですかね。本当に真面目ですよ。
――監督が中山さんに決めた決め手は?
瀧本監督:オーディションで2回会ったんですけれど、だいたい最初に分かるんですよね。すっと入ってきた瞬間にこの子かなみたいな感じがあって。役者って一番大切なのは目の力だと思うんですけれど、そういう目をしているなと。あとは、どうやって中学生から23歳までの長いスパンの話をやれるかなと。こういうふうにやるのではとか。(実際にどうなるか)そういうことを考えながらオーディションのときは実は見ていましたけれど。
――そのお話を聞いて中山さんはいかがですか。
中山さん:本当にうれしいです。この役をやらせてもらうと聞いたときは、さらっと聞かされたんですよ、マネジャーに。明日のスケジュールか何かと一緒に、「北斗」決まりましたって。そこからぶるぶると身震いがしてくる感覚を覚えました。
瀧本監督:オーディションのときに中山さんは台本を自分でバインダーにとめていたんですよ。一応、全部を読んでこいと言ってあって。(脚)本は5話まで全部読んだ上で、最後の法廷の長ぜりふを言うというのが最終オーディションだったんです。そのときにファイルがバラバラバラとなって、それを冷静に、マイペースにとじ直して、度胸のある人だなと思って。
中山さん:緊張が隠しきれなくて、手元がおぼつかなくて。
――中山さんが、絶対に勝ち取りたいと思った理由は?
中山さん:それはやっぱり、この作品を読ませていただいて、命の重さ尊さ、愛情がどれだけ深くて、大切なものかという、人間の深みにある部分がすごくリアルに描かれていることに、こういう作品に役者として出演したいという思いが強かったんです。経験も全然ないですし、武器もないので、小細工が通用することはないですし、すべてをなげうって挑もうということしかなかった。(身震いしたのは)自分に背負いきれるのかという怖さもあるし、周りの方のすごさも怖いし、何ていうか、生きているなという感じでした。
――撮影中の中山さんは?
瀧本監督:作品をやっていく中で成長がすごくよく分かるのと、間に5日間くらい開いたので、その前から徐々に痩せてきてはいたんですけれど、そこでひげも伸ばして、そこから逮捕された警察の留置所というドラマの冒頭のカットを撮影しました。物語の時制順に撮っているんですけれども、そこで一回開けて、とりあえず痩せてひげを伸ばしてきてと言ったら、そこでオーラ背負って再び現れてきましたね。追い込んできていたんだなあという感じはしました。
――減量はどのくらいしたんですか。
中山さん:3週間くらいで12キロ弱。食べない、飲まない、できるだけ動いて。あとはサウナで落として、あと細胞が壊れていくというイメージトレーニングで。食べ物の匂いをかいでおなかをすかせる。まひしてくるのでおなかが空いている方が減りがいいです。
――監督も一緒に痩せられたとか。
瀧本監督:僕は14キロ痩せました。メタボなので医者から痩せろと言われていて、ちょうどよかったので、(中山さんと)競っていたんですけれど、僕は途中で離脱しました。途中で「もう無理だ」って。
――減量など役作りは日常生活に支障をきたすレベルだったとか。
瀧本監督:(中山さんが)近所にうまい定食屋があるから、クランクアップしたらそこに行きたいんだってずっと言っていたんですけれど、実際に行ってみたらそのお店がなかった。まぼろしを見ていたらしいです。
中山さん:体重が落ちないとき、夜中に動かないとと思って歩いていたら(定食屋を)見つけたんですよ、中にすごくたくさん人がいて、繁盛していた。で、(周囲の)みんなにずっと(行きたいと)言っていたんです。夢なのか何なのか分からないんですけれど、食べに行こうと思ったときには見つからなくて、建物がなくて、そのへんを3回くらい往復したんですけれど。
瀧本監督:最後の2、3日寝ていないんですよ。一応、(役の)北斗君もきっと終盤のこの状況なら寝られないよね、きっと、と言って。
――石田さんは現場に行かれたことは?
石田さん:ちらっと見に行きましたけれど。中山さんは今よりはるかに痩せていた。頬もくぼんで。小説の世界とは全く違ってみんなで一緒に物を作っていく感じ気合の入り方がいいですね。
――クランクアップのときは感慨深かったのでは。
瀧本監督:法廷シーンがエンドロールで、そして誰もいなくなったっていうのがクランクアップのカットだったんですけれど、「終わりました」って言ったら(中山さんが)泣くかなと思ったら全然ふわっとしていたんですよ(笑い)。
その次の日にポスター撮りをして、彼は犬を飼っていて、ずっと犬と離れて暮らしていたんだよね。気が緩んじゃうからって実家に預けていたんですって。それを渡す役を命じられて、「はい」って渡したら号泣するんですよ。「なんでやねん、今かい!」って(笑い)。
石田さん:そのシーン、特典映像ほしいよね。ファンにはたまらないですね。
中山さん:なんでこのタイミングやねんという感じなんですけれど。クランクアップのときはいろいろやることがあって。引っ越しをして部屋に何も置いていなかったので、とりあえず冷蔵庫を手配しないととか。携帯を切っていたので再開したり、ガス代を払わないと(と考えたり)とか。撮影中は監督にお借りした「炎628」というソ連の映画なんですけれど。エグい、重い映画をパソコンで見て現場に行くという毎日だったので。
――中山さんはとくに大変だったというシーンは?
中山さん:全部覚えていますけれど、撮影の終盤の法廷のシーンかな。北斗のすべてをさらされる場所なんですけれど、撮影現場も、たくさんの人がいて、法廷に入っていくときにすごく見られているなという。北斗がさらされているということとリンクしてきて、法廷に入ることが一つ目の苦しいことでもありましたね。
――このドラマでどんなことを感じてもらいたいですか。
石田さん:僕はもう本当にシンプルで、人を殺す殺人者をモンスターには描かないということですね。普通の人間は素晴らしいこともできますけれど、人を殺してしまうような最低のこともできる。その普通の人間が持っている可能性とか謎を、この北斗という男の子を通して感じてもらえればそれでいいんですけれど。そのあと結果として死刑になるならないはそれぞれの人の考えでいいと思うし、一応ああいう形で(小説は)結論は付けましたけれど、そこは本当はどちらでもいいかなとも思います。
瀧本監督:好きな原作って映像化をやっちゃいけないと思うんですよ。今回も原作を読んで、やっぱり安易に映像化なんてしちゃだめなんだという葛藤があった中で、やっぱりやりたいなと決め手になったのは法廷のシーンなんですね。法廷劇というのをずっとやりたくて。以前、1カ月間ほど裁判の傍聴をしていまして、その中で本当に“魂の劇”というような裁判を傍聴したことがあるので。
今作の最終回は8、9割が法廷のシーンなんですよね。そんなドラマって多分ないんですよ。そんな中で(最終回の)1話丸々法廷をやりたいんだというのがあって、そこまでとにかくお客さんにたどり着いてもらいたいなというのがあったんですよ。そこにたどり着いてもらったら何か感じてもらえるのでは。とにかく法廷シーンを見てほしいです。
*……「連続ドラマW 北斗-ある殺人者の回心-」は、WOWOWプライムで毎週土曜午後10時から放送。全5話。
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