アニメジャパン:5年目で見えた独自性 SNS拡散と好相性に

今年で5周年を迎えたアニメジャパンの“らしさ”とは何なのでしょうか。
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今年で5周年を迎えたアニメジャパンの“らしさ”とは何なのでしょうか。

 国内最大級のアニメ展示会「AnimeJapan(アニメジャパン) 2018」が4日間で過去最多となる約15万2000人の来場者を集め、盛況のうちに終了した。今年で5年目となった人気イベントとしてアニメファンの間で定着したが、「コミックマーケット(コミケ)」の企業ブースなどとの違いのなさを指摘する声もある。放送中の全アニメを視聴し、アニメジャパンにも参加している“オタレント”の小新井涼さんが、アニメジャパンの“らしさ”を分析する。

ウナギノボリ

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 3月22日から25日にかけて、今年もアニメジャパンが開催されました。アニメジャパンとは、以前行われていた東京国際アニメフェア(TAF)とアニメコンテンツエキスポ(ACE)が統合してできた日本最大級のアニメイベントです。毎年この時期に東京ビッグサイトで開催され、アニメに関連した企業が出展し、各ブースで展示や物販、ライブやコスプレ、セミナーなどが行われました。

 ところがこのアニメジャパン、こうしてみるとその内容はコミケの企業ブースやゲームショウなどと重複している部分が少なくありません。そうした類似イベントとの違いやこのイベントにしかない独自性というのは、実のところ一体どこにあるのでしょうか。今年で5周年を迎えたアニメジャパンの“らしさ”とは何なのか、実際に体験してきた会場の様子から探ってみたいと思います。

 一般向け開催日の2日間を通して常に人だかりができていたのは、人気作品のグッズを扱う物販や声優さんらが登壇するブースイベントで、そこは例年通りの傾向でした。これまでも指摘されてきたことですが、アニメジャパンは物販やブースイベントといった“コミケ企業ブースの拡大版”のような側面がまだまだ根強いようです。

 今年はそれに加えて、人気バーチャルYouTuberのグッズを扱うブースや、「Fate/Grand Order(FGO)」の体験型コーナーといった、どちらかといえばゲームショウやニコニコ超会議寄りのジャンルが盛り上がっていたのも印象的でした。キャッチコピーに「アニメのすべてが、ここにある。」と掲げてはいますが、こうしてみると、やはりこの5年間では、類似イベントとの差別化はそこまでできなかったかのように思えてしまいます。

 しかしその一方で、会場を見渡してみると気になる新しい傾向もありました。それは「SNSを活用した出展ブースの急増」です。中でも多かったのは「公式アカウントのフォロー」や、「ブースを撮影してSNSにハッシュタグ付きで投稿」といった条件を満たすことで、クリアファイルなどのノベルティーグッズが無料でもらえるという取り組みでした。これまでそういったノベルティーは何もせずとも無料でもらえていたため、そうした作業は一見とても面倒で、作品のPRにも向かないように思えます。しかしこれが意外と好評で、わざわざ実行する人がほとんどだったのです。元々ブースを写真に撮ってSNSにあげる人は多かったため、参加者にとっては案外抵抗も少なかったのでしょう。むしろそうしたひと手間でさえ、体験型イベントとはいかないまでも、ちょっとしたクエスト感覚で楽しまれていたのかもしれません。人が集まって何かをやっているとつい気になってしまうのか、そうした取り組みを行う出展ブースの周りには、常に結構な人だかりと活気が生まれていたのも、とても印象的でした。

 こうした新たな傾向や来場者の様子を通して、今年のアニメジャパンには、5年目にして獲得したひとつの独自性のようなものを感じました。それは“会場内で完結しないアニメの総合展示会”というあり方です。会場内で作品をPRするのも当然大事ですが、今回のSNSを活用した取り組みは、そこでの情報をいかに会場外へ拡散させるかに重きを置いているのかが、感じられるものでした。来場者以外にも情報を伝えるのはどのイベントでももちろん重要視されますが、ここまで積極的な情報拡散の促進は、既にヒットした作品がメインとなるコミケや、新作の体験プレーが主目的となりがちなゲームショウといった他の類似イベントでもなかなか見られません。こうした取り組みは、SNSとの親和性やファン同士の繋がりが強いアニメファンには特に効果的だったようで、実際にSNS上ではファンによる写真や情報が、常に発信、共有、拡散され続けてもいました。会場内では物販やブースイベントへの集客が一番目立っていましたが、その一方で、本来の主旨である「アニメの情報発信」は、SNSを通してしっかりと会場外にまで行われていたのではないのでしょうか。

 TAFやACEでは時代的にも不可能だったこれらの現象は、まさにアニメジャパンの独自性でもあるといえるでしょう。誕生から5年目にして見えたアニメジャパン“らしさ”とは、こうした“会場内で完結しないアニメの総合展示会”というあり方ではないかと私は思います。

 ◇プロフィル

 こあらい・りょう=埼玉県生まれ、明治大学情報コミュニケーション学部卒。明治大学大学院情報コミュニケーション研究科で、修士論文「ネットワークとしての〈アニメ〉」で修士学位を取得。ニコニコ生放送「岩崎夏海のハックルテレビ」などに出演する傍ら、毎週約100本(再放送含む)の全アニメを視聴して、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続中。「埼玉県アニメの聖地化プロジェクト会議」のアドバイザーなども務めており、現在は北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程に在籍し、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。

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