女優の朝倉あきさんの主演映画「四月の永い夢」(中川龍太郎監督)が12日から公開される。3年前に恋人を亡くした主人公、滝本初海が、その喪失感から解放されていく姿を描くヒューマン作だ。実は、中川監督は、高畑勲監督の「かぐや姫の物語」(2013年)を見て、朝倉さんに白羽の矢を立てたという。朝倉さんに、中川監督から出演オファーが来たときの気持ちや、演じる際に心掛けたこと、また、中川監督との“縁を取り持った”高畑監督との思い出などを聞いた。
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中川監督は、かつて親友を亡くしているという。当時、何を見ても動かされなかった心が、唯一反応したのが、「かぐや姫の物語」と、かぐや姫の声優を務めた朝倉さんの声だった。今回の初海役をオファーされたとき朝倉さんは、「本当にありがたいなと思いました。呼んでいただけるのは光栄でした」と感謝する。
「普段は結構おしゃべりで、ばーっとしゃべるタイプ」だという朝倉さん。今回、口数の少ない初海を演じるにあたり、中川監督からは、「声のトーンを落とし、ぼそぼそしゃべってください」と指示された。具体的に難しかったシーンはないものの「(感情を)抑えているキャラクターなので、感情を表すシーンや、ちょっと本音が見えるシーンでは、その調節が難しくて、監督に導いていただきました」と打ち明ける。
06年に東宝シンデレラオーディションに応募し、それがきっかけで芸能界入りした。「歓喜の歌」(08年)でスクリーンデビューし、以来、「とめはねっ!鈴里高校書道部」(10年)でのドラマ初主演、NHK連続テレビ小説「てっぱん」(10年)や「下町ロケット」(15年)、大河ドラマ「おんな城主 直虎」(17年)など、数々の作品に出演してきた。ただ、女優業はもともと「興味がある仕事ではなかった」という。
オーディションを受けたのも、「人に勧められた」から。しかし、そのオーディションが、朝倉さんにはとても新鮮に映った。「同世代の子たちがとても生き生きと自分のことを表している様子に、尊敬に近いくらいの感動を覚えて、これをずっと見ていたいというか、自分もそういうふうになりたいという気持ちに、多分、そこからなっていったのだと思います」と振り返る。
その後、さまざまな作品に出演していく中で、徐々に女優をやっていく心が固まっていったが、そうさせたのは「作品というより人との出会い」だったという。「共演する方もそうですけど、10代のころは、同じくらいの年の共演者さんとご一緒することも多かったですし、ご一緒するのがこの人でよかったなということを思うことが多かった」と話す。
その出会いの中には、4月に急逝した高畑監督もいた。朝倉さんは、高畑監督の遺作となった劇場版アニメ「かぐや姫の物語」で、かぐや姫の声を担当した。朝倉さんに対して「とても優しかった」という高畑監督からは、「技術的な知識として導いていただくことがすごく多かった」という。
「当時、私は理解が追いつかないことがたくさんありました。演出の時は、ここは楽しそうにとか、もっと明るくとか、そういうことをおっしゃられていました。あとは、高畑さんは、いろんな作品をご覧になっていて、その知識がものすごくあるので、それを例えに出されて演出されることが多かったです」と思い返す。その一方で、演出中のやりとりより、むしろ印象に残っているのは、高畑さんと交わした何気ない会話だという。
「私があまりにも知らな過ぎるので、木々の名前を教えていただいたりしました。『かぐや姫の物語』の劇中歌を私が歌ったのですが、それは高畑さんが作曲されたものでした。高畑さんは、音楽に関してプロ並みに詳しいんです。その『わらべ唄』の作曲の仕方を教えていただいたり、そういうやりとりが印象に残っています」としみじみ語る。
14年春に、以前所属していた事務所との契約が終了し、15年までの約1年間、芸能活動を休止した。“休暇”に入る前は、「特に何かを決めていたわけではなく、女優を続けようかどうかもはっきりしていませんでした。休憩期間が欲しかったので、この先どうするかということは決めずに、とにかく休憩しようということだけを考えていました」と当時の心境を語る。その言葉通り、休みの間は「事務のアルバイトをしたり、初海のようにぼんやり過ごしたり」していたという。
今後は、「とにかくいろんな俳優さんや監督さんはじめ、この仕事をしていなければ出会わないであろう人たちと、1人でも多く接していきたいですね。自分としてはまだ、お芝居をするということがどういうことか分かっていないですし、お芝居の自分なりのやり方を見つけられているわけではないので。自分が表現したいと思っていることをうまく表せる方法を探っていくために、いろんな作品と出合っていきたいと思っています」と真摯(しんし)に語る。
理想とする女優像は「皆さんそれぞれ全然違いますから」と特にいないそうだが、好きな女優として挙げたのは、美村里江(旧芸名ミムラ)さんと石田ゆり子さん。10年後の自分を想像してもらうと、「デビューして10年になりますが、当時も、今、こういうふうになると想像できていなかったと思うので、特にこうなりたいというのは持っていないです。今あることに集中してやっていきたいと思っています」と堅実な人柄をのぞかせた。
<プロフィル>
あさくら・あき 1991年9月23日生まれ、神奈川県出身。2006年の東宝シンデレラオーディションに応募し、ファイナリストになったことをきっかけに芸能界入り。08年「歓喜の歌」で映画デビュー。テレビドラマ主演作「とめはねっ!鈴里高校書道部」(10年)を経て、NHK連続テレビ小説「てっぱん」(10年)や、「下町ロケット」(15年)、NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」(17年)など多数出演。映画では「神様のカルテ」(11年)、「横道世之介」(13年)、高畑勲監督の遺作となった劇場版アニメ「かぐや姫の物語」(13年)では、ヒロインの声を担当。舞台やラジオでも活躍している。映画「BLOOD-CLUB DOLLS」が18年秋公開予定。
(取材・文・撮影/りんたいこ)
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