小野憲史のゲーム時評:eスポーツ“バブル”の様相も 企業は志高い理念を

「東京ゲームショウ2017」で開催されたeスポーツイベントの様子
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「東京ゲームショウ2017」で開催されたeスポーツイベントの様子

 超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、eスポーツの現状とその考え方について語ります。

ウナギノボリ

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 eスポーツは、世界で既に3億人以上のファンが存在し、2022年には23億ドル(約2300億円)に達する(ファミ通調べ)予測があるものの、これまで日本では一般的知名度がゼロに等しかった。eスポーツは、テレビゲームの対戦プレーをスポーツ競技として捉えるもの。日本と海外の市場規模の違いは、法律や文化の違いによるものが大きい。

 だが2022年に中国・杭州でのアジア競技大会で、eスポーツが公式メダル種目に認定されたことで風向きが急速に変わってきた。2017年には業界団体の日本eスポーツ連合(岡村秀樹会長)が発足。2018年5月26・27日には、8月に開催されるジャカルタ大会に向けて、ゲームの日本代表選手の選考会が開催された。2019年茨城国体でもeスポーツ大会開催が決定するなど、少しずつではあるが理解度も進んでいる。

 民間企業の鼻息も荒い。3月には吉本興業がeスポーツ事業に参入を発表。5月にはJリーグ初のeスポーツ大会「明治安田生命eJ.LEAGUE」で決勝戦が開かれた。12月にはサイゲームスがスマートフォンゲーム「シャドウバース」で、優勝賞金100万ドル(約1億1000万円)の大会も実施する予定だ。eスポーツを巡って“バブル”の様相も出てきた。

 ただ、eスポーツが注目されている今だからこそ、「eスポーツは本当にスポーツなのか」という問題について、改めて考えてみても良いだろう。

 「スポーツには世界を良くする力がある」。南アフリカ共和国で黒人初の大統領になったネルソン・マンデラの言葉だ。マンデラはアパルトヘイトで傷ついた社会の統合に、1995年に地元開催されたラグビーW杯を活用。「白人のスポーツ」だったラグビーを支援し、南ア代表もこの声に応えて、初出場で初優勝を果たした。2018年平昌冬季五輪で韓国と北朝鮮の統一チームが誕生したのも記憶に新しい。

 同じようにeスポーツがスポーツであるならば、「eスポーツには世界を良くする力がある」ことを、ゲーム業界は積極的にアピールするべきだろう。しかし、現状のeスポーツは良くも悪くも企業のマーケティングツールにとどまっていて、残念ながらそうした声は聞こえてこない。「一般のゲーム大会と何が違うのか」と、業界内でも「スポーツ」という呼称に疑問を抱く見方もある。

 一方で、五輪協賛企業の中には、その理念を尊重した上でブランド向上につなげる例もある。2012年ロンドン五輪からプロクター・アンド・ギャンブル・ジャパンが展開中の「ママの公式スポンサー」キャンペーンは好例だろう。選手を陰で支えた世界中の母親を称賛する内容で、世界で高評価を受けている。五輪とスポーツに対する理解が、企業の宣伝活動を一段上のレベルに引き上げた形だ。

 企業は本業で社会に貢献する。だがゲーム業界はこれまで社会的なメッセージを、あまりにも打ち出してこなかった。その象徴がeスポーツに対する姿勢だ。「成長分野だから」「世界ではやっているから」推進するのでは、志が低い。ゲーム業界には「eスポーツには世界を良くする力がある。だから協力をお願いしたい」と、他のスポーツのように胸を張る姿勢を期待したい。

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 おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーのゲームジャーナリスト。08年に結婚して妻と猫4匹を支える主夫に。11~16年に国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表として活躍。退任後も事務局長として活動している。

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