フジテレビ系の情報番組「Mr.サンデー」(日曜午後10時)発のドキュメンタリー映画「ぼけますから、よろしくお願いします。」(信友直子監督)が話題になり、上映館数を伸ばしている。信友監督の母で認知症の文子さん(89)と、文子さんを介護する父・良則さん(98)の姿を娘視点のカメラが捉え、語りも監督が担当している。「父と母と私の共同作品」と語る信友監督に、上映後の反響や制作の裏側などを聞いた。
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作品の元は、2016年9月の「Mr.サンデー」での2週にわたる特集番組。翌年10月に継続取材と共にBSフジで放送されて大反響。映画化された。今年11月3日にミニシアター・ポレポレ東中野(東京都中野区)で公開され、クチコミで話題となり、全国約50館での上映が決定。観客動員数も3万人を突破した。
認知症の患者を抱えた信友家の内側を丹念に描いたドキュメンタリー。90歳を超えた良則さんが、アルツハイマー型認知症と診断された文子さんの介護をする日々などが収められている。信友監督が仕事を辞めて実家に帰るべきか葛藤しながらも記録を撮り続けることが自分の使命と感じ作り上げた作品だ。
本格的に撮影を開始したのは2001年から。「ボーナスで買ったホームビデオで、近くにいた両親を撮り始めたのがきっかけ。当初は両親が亡くなってから世に出そうと思っていた」と話す。「Mr.サンデー」のアシスタントディレクターが偶然、文子さんと良則さんの姿を収めた映像を見たのがきっかけで、同番組に取り上げられることになったという。「親に相談すると、すんなり『お前の仕事だったら別にいいよ。お父さんもお母さんも年とって恥ずかしいことはないから』って言われた。親の愛を感じました」と話す。
タイトルはある日、文子さんが口にした言葉だった。「母はブラックユーモアとか自虐とかが得意だったんです。母らしい言葉なので、絶対これだなと思いました」と述懐。劇中では、文子さんを通して認知症の実態が垣間見られる。カメラを回し続けた信友監督は「最初のうちは私も一緒になって泣いていました。母の気持ちを想像すると本当に絶望だと思って」と撮影中のつらさも振り返った。
監督は、観客から上映後に「亡くなった父、母に会えた気がして良かった」「幸せな時間を過ごした」といった反響の声をもらうようになったと明かす。「声をかけてくれる人たちは作品がどうのというより『うちの親は』っていうような体験談をしてくれます(笑い)。共感していただける部分があるのでは」とうれしそうに語る。
制作は「ナレーションをなるべく削って(観客が)感情移入しやすいようにした」と話す。監督は「認知症や老々介護の作品を作ろうと思ったわけではありません」と力を込めながら「私がカメラを回し続けたら、母が認知症になり、90歳を過ぎた父が母を介護することで老々介護という状況になってしまった。60年以上一緒に過ごしてきた夫婦が年をとると、普通の暮らしが尊くなる。(観客には)年を重ねて生きていく、丹念に生活していくことを感じていただきたいです」と話す。
信友監督は、家族の内側をさらけ出すことで「最初は冷たい目もあるのでは、と思ったけど『お母さん、大丈夫?』と声をかけてくれるようになった。(認知症に対して)周りが優しくなっている。一人で抱えるのではなく、共有していく社会になっている」と分析している。
来年1月に90歳を迎える文子さんは今年9月に脳梗塞(こうそく)になり入院中だが意識はあると話し、「父と母のことは相変わらず撮っています」と語った。
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