魔夜峰央:「翔んで埼玉」実写化への思い 最近の風潮に警鐘も「怖がらずに新しいものを」 

映画 マンガ
映画「翔んで埼玉」原作者の魔夜峰央さん

 女優の二階堂ふみさん、歌手のGACKTさんダブル主演の映画「翔んで埼玉」(武内英樹監督)が22日公開される。原作は「パタリロ!」で知られる魔夜峰央さんが1982年に発表し、2015年に宝島社の「このマンガがすごい!comics」で復刻された“埼玉ディス”マンガ。埼玉県民は東京都民から迫害を受けていた……という独特の設定やインパクトあるせりふなどで話題を集めた。魔夜さんに、原作にまつわるエピソードや魔夜作品に通底するものなどを聞いた。

 ◇実写化に「本気なのか?」

 東京でトップの高校・白鵬堂学院の生徒会長で東京都知事の息子の壇ノ浦百美は、米国帰りの転校生・麻実麗に引かれるが、麗は埼玉出身で、埼玉と東京の「通行手形」の撤廃を求める「埼玉解放戦線」のメンバーだった……というストーリー。麗を歌手のGACKTさん、百美を二階堂さんが演じ、伊勢谷友介さん、京本政樹さん、島崎遥香さんらも出演している。

 30年以上前に発表した作品が実写化。魔夜さんは「『本気なのか?』って。『正気かお前ら?』ぐらいまで、思いましたね。これをどう実写化するつもりなんだ君たちは、と思いました」とユーモアたっぷりに、映画化の話を聞いた当時の心境を明かす。

 キャスティングは二階堂さんが初の男性役、GACKTさんが米国帰りの高校生役だ。「びっくりしましたよ。『GACKT? あの? え、まさか』みたいな感じです」と驚きを明かす魔夜さん。「聞いた全員がびっくりしてのけぞった」というが、ただ「次の瞬間『アリか』と思いました。それぐらいのキャスティングじゃないと、映画として成立しなかったと思います。そのへんの二枚目を連れてきても、この作品の持つ虚構性の大きさにかなわない」と納得したという。

 男性役の二階堂さんについても「映画を見たら『あーなるほど』と思った。百美という役を完全に作って、肉付けして、人間にしてくれた。そこが二階堂さんの演技力なんでしょうね。監督は見抜いていたんでしょう」と太鼓判を押す。
 
 作品の感想は「武内監督と感性が似ているのかなと思うことが多々ありました。自分で作ってもこうなりそうだなというところがいっぱいありましたね」と魔夜さん。「特に、川を挟んでの合戦のシーン。全く無意味なカードゲームの、あの発展性。無意味を重ねて発展していくあの姿勢が、すごく(自身の感性に)似ていると思うんです。くだらないことを真面目にやる面白さが私の本質にすごく近いんですよね」と語る。

 ◇締め付けの風潮に警鐘 「みんな影におびえている」

 原作は「埼玉県民にはそこらへんの草でも食わせておけ!」など、インパクト抜群のせりふが多々登場することもあり、復刻するとSNSなどで話題を集めた。だが、発表当時は、「よくも悪くも全く反響がなかった」という。続きをにおわせる終わり方だが、実は続く構想はなかったと魔夜さんは明かす。「私はよく、続きがありそうな終わらせ方をするんですよ。まだ続くだろう、というところで終わらせる。『翔んで埼玉』もその中の1本だったので、続きは一切考えていません」と語る。

 30年以上前の作品が大ヒットし、魔夜さんはどのような思いを抱いているのか。「今は描けない作品だろうな、とは思いますね。これだけ『コンプライアンスがどうの』という時(時代)には。新しい作品としてどこか(の出版社)に持っていっても、出す度胸のあるところはないだろう、と。でも、昔の作品だから『まあ時効だろう』と(笑い)。そういうところがヒットの要因ですかね」と分析している。

 ただ、続けて「でも、今でもやればいいんじゃないのかな、という気はするんですよ」とも。「バッシングも私の耳には届いてませんし。あまり怖がらずに新しいものを出せばいいと思うんですけどね。言葉狩りじゃないけど、いろんな考え方に対して、以前より厳しくなっていますよね。もっと鷹揚(おうよう)な方向に転がってもいいはずなのに、逆に締め付けの方向に行っている。それがそもそもおかしいのかなと思います」。「マンガに限らず、全体的に言えますよね。なぜなのかなと思う。みんな、影におびえているだけですよね」と現代の風潮に警鐘を鳴らす。

 そんな同作が誕生した背景には、当時の鬱屈(うっくつ)した思いがあったという。「編集長と編集部長という怖い方たちが周りにいて、見張られているその圧迫感、そういう鬱屈した思いが出ているんです」。その矛先が、“埼玉ディス”に向かった? 「後追いで考えると、そうなりますよね。それ以外にこういう作品が出てくる要素は考えられないので。埼玉にも所沢にも恨みはなにもないんですが、そういう思いがベースにあって出てきた作品だと思います」と制作秘話を明かす。

 ちなみに、発表当時こそ反響はなかったものの、今では読者の反応は多い。「会った人が、まず『私、埼玉(出身)です』って。大変多いですね」と笑う魔夜さん。「そこが埼玉県民の面白いところで、他の県ではありえない話なんですよ。ほかの県を扱っていたら、絶対無理でしたね。埼玉県民だけが日本中で鷹揚なんですよ」。では、なぜ埼玉県民が鷹揚なのか。魔夜さんは「土地の立地条件、東京との距離感、千葉との対立関係……」などを挙げ、「そういうことが全部重なり合って、埼玉県民ができているんだな、と。だから、この本が一番売れているのは埼玉だし」と明かし、「千葉はいわずもがな、栃木も危ないよね。だから奇跡の一冊ですよ」と笑う。

 ◇魔夜作品に通底するものとは… デビュー45年の感慨も

 魔夜さんといえば昨年、1978年から「花とゆめ」(白泉社)などで連載され、現在はアプリ「マンガPark」で連載している人気ギャグマンガ「パタリロ!」が40周年を迎え、コミックスは100巻に到達した。改めて思いを聞くと、「ある人が『1年に1冊出しても、100年かかる』と(言った)。連載当初は、年に4冊出していたんですよ。4冊ならもっと早いけど、『考えてみたら25年か、結構長いな』と(笑い)。(そこで)改めて長さを感じました」とほほ笑みながら語る。

 マンガ家人生も、73年のデビューから2018年で45年。100巻という長寿作を生み出すなど今も現役で活躍する魔夜さんの、創作を続ける秘けつは何だろうか。「秘けつなんてものはないですが……」としつつ、「ただ、私自身が飽きない性格だということはあると思います」といい、「『パタリロ!』に関しては、楽だから続いているんです。ほかの作品はみんなバサッと終わっている。主人公が動かないんですよね。描いて3ページぐらいで分かるんです、『あ、こいつ動かない』と。でも、『パタリロ!』に関しては全く何も考えずに、勝手に(キャラが)動きます。パタリロとバンコランを出すと、勝手に2人で漫才やりますから。それを私は描き留めるだけ」とさらりと語る。

 そんな魔夜作品に通底するものとは、何か。マンガを描く上で大事にしている思いとは? 即答で「美しいか、美しくないか」という回答が返ってきた。「生き方、考え方、態度、すべてですね。細かく言えば、姿勢ひとつとってもそう。たとえばどんなおしゃれをしていても、姿勢が悪かったら美しく見えないんです。逆に、見た目がどうでも、姿勢がすっとしていて歩き方がきれいなら、3~4割増しできれいに見えます。そういうことですよ。作品というか、私自身の生き方として」と魔夜さん。姿勢はバレエの経験が生きているといい、「バレエは姿勢が一番注意されるわけですから。立っているだけで大変ですからね。軸は絶対必要。意識はしていないけど、マンガにも自然に出てくるんだと思います」と創作活動の根幹を明かす。

 最後に改めて、デビューから45年たった感慨を聞いてみた。「幸せな人間だなと思います。この世界で45年生き延びてこられたことが。だいたい1年に数百人がデビューして、その中で2年後に生き残っているのは3人だそうです。それがさらに10年、20年……と考えると、45年生きてこられたのは運以外の何ものでもないし、ありがたいことですね」と、そう胸の内を語ってくれた。

映画 最新記事

MAiDiGiTV 動画

最新動画

PHOTO

このページのトップへ戻る