全領域異常解決室
第7話 すべてお話します 物語はここから始まった
11月20日(水)放送分
24日にWOWOWでスタートする「連続ドラマW 絶叫」は、女優の尾野真千子さん扮(ふん)する平凡な女性が、生きるために、やがて保険金殺人に手を染めていく姿を描いたサスペンス劇だ。原作は、作家の葉真中顕(はまなか・あき)さんが2014年に発表した小説。作家にとって自分の作品は「我が子同然」とはよくいわれることだが、葉真中さんにとって、その我が子が映像化されるのは今回が初めて。映像化されることに対する思いや、撮影現場を訪れた感想、さらに、次作の構想などについて聞いた。
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小説「絶叫」には、ホームレスを囲い込み生活保護費を奪う、いわゆる「貧困ビジネス」や孤独死、さらにブラック企業といった現代の社会問題化している事象も描かれている。それらはもともと葉真中さんの中に、「問題意識として、いずれ書きたいと思っていた要素」だった。
ただ、今作の一番の鍵となる殺人事件に関しては、「今回の作品を書くために作った」ものであり、それについて葉真中さんは、「誤解を恐れずに言うと、僕は完全犯罪を考えるのが好きなんです。ただ、僕の場合は、複雑なトリックによる完全犯罪ではなく、社会の仕組みの穴をつくことでできる完全犯罪。そういうなかで、『これだったらできるな』と考えついた方法が、今回のテーマとも合うので入れ込みました」と創作の経緯を明かす。
13年、「ロスト・ケア」で第16回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞し作家デビューした葉真中さんにとって、「絶叫」は、「作家としてやっていけるかどうかを占う大事な作品」だった。それだけに、出版当初に受けた高い評価と今回の映像化は「もう、まず、うれしいのひと言に尽きる」のだが、実は執筆には「とても苦労した」という。
原作は、主人公の鈴木陽子が、「あなたは」と語り掛ける二人称小説の体裁をとる。その陽子を追う女性刑事・奥貫綾乃の物語が、陽子の物語と「交互にカットバックして、想定する結末に向かって進んでいく」のだが、実は、書き始めた当初は、鈴木陽子の原型になるキャラクターが登場する群像劇だった。しかし、原稿用紙にして400枚ほどを書き進めたところで壁にぶち当たった。そのとき、当時の担当編集者からのアドバイスを受け、7、8カ月かけて書いていたその400枚すべてを捨てて仕切り直し、800枚からなる今作を約10カ月で書き上げたという。
このインタビューが行われた時点では、ドラマはまだ完成前のため、台本を読んだ感想を聞くと、「原作のエッセンスを十二分に引き出した上に、テーマ性を失わせないまま再構築している。アレンジを効かせているところも、こっちが『やられちゃったな』と思うぐらい見事でした」と、池田奈津子さんの台本を絶賛する。小説とは違う結末にも、「僕自身、映像化による『新しく解釈された絶叫を見たい』という気持ちが強いので、うれしかったですね」と大満足だ。
撮影を見学した際には、「文字では何でも書けますけど、映像はそうはいかない。例えば、話の中に豪邸が出てくるんですけど、僕が小説の中で、たった二文字で『豪邸』と書いたものを、制作会社の人はちゃんと実現してくれていた。こういうものが実在するんだと、そういうレベルのところから驚きだった」と目を輝かせる。
さらに原作者として、「この小道具がここにあるのはこういう意味だよねと分かりつつも、全然自分の知らない新しい作品が出来上がるのを見ているような感覚でもあり、非常に貴重な面白い体験でした。好きな俳優さんがすごくたくさん出ていらしたのもうれしかったです」と話す。
主人公の鈴木陽子を演じる尾野さんは、小説を書き上げ、映像化するとしたら誰がいいかと「妄想キャスティング」する中で挙がっていただけに、撮影現場で“動く”尾野さんを見た時は、「ぴったりでした。最高でした」と喜びもひとしお。そして、「これは、『女優、生で見た人あるある』だと思うんですけど、顔小さい!っと(笑い)。よく言われることですけど、本当に、選ばれる人って違うなと思いました」としみじみ語る。
一方、陽子と深く関わることになる、闇社会に生き、善悪を超越した思考を持つNPO法人代表・神代武を演じるのは俳優の安田顕さんだ。原作では、野獣のような男として描かれ、体形も「ずんぐりむっくり」と表現されている。安田さんとはかなりイメージが違うが、「神代は作品内で、主人公、鈴木陽子の運命を変えてしまうという、場合によってはねじ曲げてしまう存在で、一種の神とか悪魔とか、そんなイメージのキャラクター。いわばこの世界における怪物なのですけど、その怪物性を安田顕さんは、安田顕さんなりの解釈で、演技によって表現されていて、僕、本当に安田顕さんはすごいと思いました」と賛辞を惜しまない。ちなみに、事件を追う奥貫刑事を演じるのは女優の小西真奈美さんだ。
4月には、その奥貫刑事が再登場する新刊「Blue」(光文社)が出版される。そのあとの作品の構想もすでにあるという。「発表のタイミングはちょっと分かりませんが、(『Blue』の次の作品は)ほとんど書き上がっています。それはブラック企業を扱った、またちょっと社会派の作品。今年は連載も始まります。かなり大ネタになりますが、バブルの時代のものを書こうと思っています。それから、僕の中で大事にしたいテーマの一つに太平洋戦争がありまして、以前、『凍てつく太陽』という作品を書いて賞もいただいているのですが、太平洋戦争の時代のことを書いた作品を今、準備しているところです」と明かす。
ともあれ今は「絶叫」である。苦労して書き上げた同作が今、映像化という形で再評価されていることを葉真中さんは、「思い入れが強い作品だけに、すごくうれししいですし、自信にもなります」と顔をほころばせる。そして、「子供の例えでいえば、随分親孝行してくれています。めっちゃ稼いでくれてますから(笑い)」と“我が子”の活躍に目を細めていた。24日からWOWOWプライムで毎週日曜午後10時に放送。全4話で、第1話は無料放送。
(取材・文・撮影/りんたいこ)
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