6月10日に授賞式が行われる米国演劇界の祭典「第73回トニー賞」。WOWOWでは同日、授賞式の模様を生中継する。また、5月22日には、WOWOWのトニー賞アンバサダーを務める演出家の宮本亜門さんがトニー賞の魅力を語る事前番組「トニー賞直前!ノミネーション徹底解剖」が放送される。2005年に自身が演出を手がけた「太平洋序曲」が米ニューヨークのブロードウェーで上演され、トニー賞4部門にノミネートされるなど高い評価を受けた宮本さんに、トニー賞の魅力や今回の見どころを聞いた。
ウナギノボリ
10年前の朝ドラ「花子とアン」 当時の吉高由里子インタビュー
――今年も、間もなくトニー賞授賞式が近づいていますね。
そうですね。21歳の時から、テレビ放送や、授賞式会場で、トニー賞は必ず見てきたし、ノミネートされた作品はブロードウェーでほとんど見ているので、この時期になるとソワソワしてきて、とても気になります。それにトニー賞は演劇人、舞台人だけでなく、今のショービジネス、世界のショービジネスにおいても、最も大切な授賞式だと思います。
もちろんショービジネスの最高峰として、ブロードウェーから始まった演劇が世界中で上演される、ビジネスとしての魅力もありますが、僕はそれ以上にクリエーションの面で注目しています。今の時代に、何がはやっているのか、次はどんな時代になるのかということも予感させてくれる。世界中の名優たちが国を超えて集まり舞台に立っているんですよ。その実力で、本気で観客の心を動かす、真のアーティストたちの姿は、最高に魅力的で、見応え十分です。
――宮本さんは2005年に「太平洋序曲」が第59回トニー賞4部門にノミネートされました。その時はどのような気持ちでしたか。
実はトニー賞をそこまで意識していたわけではありませんでした。正直、ノミネートされた時も「えっ!? ノミネートされたの?」という驚きでした。結局、受賞は逃したものの、その時にブロードウェーにはノミネートされている人だらけだということが分かったんです。名作を飛ばしていたり、著名だったりする人も受賞は難しい。5回、6回ノミネートと多くの経験を積んでいて、やっと受賞した人も少なくない。それだけ、しのぎを削っているというすごみがあるんです。
それに賞は良くできているだけでは取れない。賞を取る作品というのは、その時代にピタッとくるものなんです。アメリカ人だけではない、世界中の人たちが今、感じたいことがひしひしと伝わって感動を呼ぶ作品が受賞するんです。ある時は、単に楽しいだけではない、苦みだったり、過酷な現実を見つめたりしながら、エンターテインメントで表現する。そんな作品が受賞すると、ブロードウェーの幅の広さ、奥深さを感じ、うなります。
また、経験して分かったことに、ブロードウェー、トニー賞の壁の厚さもあります。クリエーターたちは皆お互いを知っているし、徹底的に学び合っている。そんなことも知って、これからますます受賞に向かって本気で作品を作っていきたいと思うようになりました。正に、やる気を起こさせてくれた場所なんです。
――今年のノミネートのラインアップを見ていかがですか。
ノミネートを見て、それぞれに違うメッセージを持った、違うスタイルの作品が並んでいるなと思いました。いろいろな意味で、トランプ政権になってから、作品のエネルギーが増していると感じました。ある反発なのかもしれません。人の在り方、共存の仕方を、こう考えるといった政治的な意味合いも入っていて、今こそ、自分たちが感動を通じて表現しておかなければというような、熱い思いが出ているような作品もありました。
――今年のノミネート作品で、宮本さんが注目されている作品を1本挙げるとすれば?
去年はどちらかというと楽しい作品が多かったんですが、今回は一段とバラバラ。その中で僕が特に興奮したのは、ミュージカル作品賞にノミネートされている“Hadestown”(「ハデスタウン」)です。これは実に面白い神話を基に、ある男女のジャーニーを描いています。1回見たらあまりにも面白く、次の日もどうしても見たくなって、他の作品をキャンセルしてチケットを買いました。たった3日の滞在で、これしか見てないというほど魅せられた作品です。
舞台はシンプルだが意味が深くギリシャ神話を基にしていて、今のアメリカ人、いや世界の人に見てほしい作品だと思いました。我々はどこに向かうのか? 芸術とは何の意味があるんだろう? 愛するということは? といったテーマが描かれ、音楽もジャズ、フォーク、それにアバンギャルド性もあって、ゾクゾクッとしました。最後には「ああ、いいものを見たな」「自分が生きていると、こういう作品と出合えることが幸せなんだ」と思って、ウルウルしていました。人がいとおしくなる素晴らしい作品です。
――パフォーマンスもトニー賞授賞式の見どころだと思います。
オープニングパフォーマンスはいつも楽しみにしています。何が出るのか、ギリギリになるまで分からないワクワク感もあって、司会者のエンターテイナー性も相まって楽しいものが多いです。また、作品の一部を見ることができる。これが宝物。今、一番熱いオリジナルキャストが歌って踊ってガツンと見せてくれる、特にトニー賞授賞式のステージならではの1回だけのライブ感もあり、いつも鳥肌が立ちます。
――今までのパフォーマンスで印象に残っているのは?
やはり1982年第36回授賞式の「ドリームガールズ」ですね。僕はその初演を見ているんですが、あの迫力、想像を超える実力は、今思い出しても身震いします。一幕の最後に主役のエフィー役の女優がトニー賞授賞式で歌った映像は、今でも繰り返し見るほど。人の才能は無限大だと証明する、すごい瞬間です。そういった歌や踊りや演技のパフォーマンスがたくさん見られるんです。さすがに見ないと損でしょう! それがトニー賞授賞式の醍醐味(だいごみ)でもあるんです。
――今年の司会を務めるジェームズ・コーデンの魅力は?
彼が素晴らしいのは「僕はブロードウェーミュージカルの大ファンだ」ということを公言していること。いい意味で子どものように歌い踊る、ノリと楽しさがあって、きっと楽しい司会になるでしょう。お客様を楽しませ、笑わせ、劇場が一体となって皆と共に楽しみたい、そんな彼ならではの授賞式になるでしょう。
――授賞式で、ここを見たら面白いというポイントは?
やはり受賞した瞬間です。会場がバーッと沸くとともに、受賞者たちのスピーチ。これが人生ドラマ満載なんです。切磋琢磨(せっさたくま)して、本気で演劇を、ミュージカルを作ってきた人たちだから、人生ドラマだらけ。その一言、一言に、僕はジワーッと涙ぐんでしまう。そしてブロードウェーはお互いをいつもたたえ合う。あの空気はトニー賞ならではですね。誰かが勝った負けたではないんです。
番組「トニー賞直前!ノミネーション徹底解剖」は、22日午後10時45分にWOWOWライブで放送。
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