超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、先日「ゲーム依存症」を世界保健機関(WHO)が「ゲーム障害」という疾患として認めたニュースについて語ります。
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世界保健機関(WHO)が、スイスのジュネーブで5月25日に総会を開き、国際疾病分類の最新版「ICD-11」を正式承認した。これに伴い、テレビゲームのやり過ぎで日常生活に支障をきたす、いわゆる「ゲーム依存症」が、国際的に「ゲーム障害」という疾患として認定された。新疾病分類は2022年1月から施行され、世界中の医療関係者によって、診断や調査で使用されることになる。
本件に対してゲーム業界の反応はさまざまだ。米ゲーム業界団体のESA(エンターテインメントソフトウェア協会)は、ICD-11の内容は証拠不十分だとして、各国の業界団体の連名で、再検討を求める声明を発表した。一方、日本ではCESA(コンピュータエンタテインメント協会)をはじめ4団体が、ゲーム依存に関する調査研究を目的とした研究会を発足するなどして、調査研究を進めている。
筆者もゲーム愛好家の一人として、ゲームが依存症の原因になるという考え方について、ネガティブな感情を持つことは理解できる。しかし、ゲーム業界は今回の認定を逆に好機として捉えて、大学や医療機関などと連携し、研究と対策を進めるべきだ。なぜなら、ゲームの遊びすぎで依存症になるメカニズムを解明することは、面白いゲームを作る上でも重要だからだ。
ゲーム開発者はこれまで、プレーヤーをゲームに熱中させるために、さまざまな工夫を凝らしてきた。もっとも、なぜ人がゲームに夢中になるのか、その仕組みは科学的に解明されていない。こうした中でゲーム開発者は試行錯誤を繰り返し、ヒットの傾向を見ながら、ノウハウを蓄積してきた。ゲーム開発は経験則の積み重ねに負う点が多く、体系化・理論化されている部分が非常に少ないのだ。
その一方でゲーム業界では現在、ストリーミング技術を活用し、スマートフォンで家庭用ゲーム並みのゲーム体験が可能なサービスの構築を、世界規模で進めている。ゲームを競技として捉えるeスポーツも、世界規模でファンを獲得中だ。これによりゲームユーザーの数が飛躍的に増大すると共に、依存症に苦しむ人々も増加すると考えられる。
こうした中、WHOによってゲーム依存が疾患として認定されたことはむしろ朗報だと考える。専門的な治療が可能になり、予防対策や治療法の開発などが進むことも期待されるからだ。にもかかわらずゲーム業界が、こうしたゲームの負の側面や対策に目を向けず、市場の拡大だけに注力するのでは、無責任と非難されても仕方がないだろう。
また、人がゲームに夢中になる仕組みを解明することは、ゲームの可能性を広げる上でも有効だ。すでに知育ゲームやリハビリゲームなども存在するが、応用例はそれだけに留まらない。人が何かに夢中になる行為すべてに、この仕組みは応用可能だからだ。そのためには科学的な見地からゲームプレーヤーの研究を進めることが重要で、いわゆる“ゲーム依存”は有効な切り口となる。
これまでゲームが社会的な批判を浴びるたびに、ゲーム業界や愛好家から「ゲームは悪くない」と擁護の声が上がってきた。しかし、「悪い」の反意語は「悪くない」ではなく、「良い」だ。「ゲームは善である」と声高に主張できないのは、ゲームが人を夢中にさせる仕組みが、科学的に解明されていないからではないだろうか。今回の改訂を契機に、業界のポジティブな対応を期待したい。
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーのゲームジャーナリスト。08年に結婚して妻と猫4匹を支える主夫に。11~16年に国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表として活躍。退任後も事務局長として活動している。
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