椎名桔平:安楽死問題に「一石を投じる」ドラマで主演 自身の健康は“ファジー”に意識

ドラマ「連続ドラマW 神の手」に主演した椎名桔平さん
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ドラマ「連続ドラマW 神の手」に主演した椎名桔平さん

 俳優の椎名桔平さんが主演するドラマ「連続ドラマW 神の手」(兼重淳監督)が、WOWOWで6月23日からスタートする。末期がんの青年に安楽死の処置を施した椎名さん演じる腕利きの外科医・白川泰生が、医学界はもとより、政界やマスコミ、市民団体を巻き込んだ大騒動の激流にのみ込まれていく社会派サスペンスだ。腕利きながら決して“超能力者”ではない“普通の外科医”を演じることが、むしろ難しかったという椎名さんに、役作りや作品の魅力、さらに、自身が健康維持のために日々取り組んでいることを聞いた。

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 ◇大切なのは「経験値」

 原作は、現役医師でもある作家・久坂部羊さんの同名小説。上下巻からなる長編だが、それをドラマは5話という比較的短い展開にまとめ上げている。椎名さんは「凝縮された脚本の世界観の伝い手になる」という意気込みで撮影に臨んだ。

 「もともと人間ドラマが好き」だという椎名さん。やはり久坂部さんが執筆した「破裂」が2015年にNHKでドラマ化されたときも医師を演じた。久坂部さんの作品の魅力を椎名さんは、「人間の尊厳をどう描き、どう考えさせられるかという非常に深いところに(久坂部さんは話を)もっていかれる。そこに一番引かれます」と語る。

 椎名さん自身、「僕は最近、医師役が多いんです(笑い)」と認めるように、これまで、救急医療のドクターや、大学の派閥争いに関係する医師、さらに、今回のような外科医などを演じてきた。ただ、いずれを演じるにしても、医師という職業から役に入るのではなく、「人間として考えてスタートします。その次に職業が付随してくる」のだといい、その際「とても大きな力になる」のは、椎名さん自身の「経験値」だという。

 椎名さんは「テクニカルに何かを作っていくと、(人間的な)奥行きが限られてしまうんです。テクニカルなものももちろん持ち合わせながら、結局、奥行きを作っていくのは、(自分の)経験や思考の積み重ねなのです」と語る。

 ◇「無理に見せなくていい」

 末期がんで苦しむ青年と、その看病で疲弊していく親族を、見るに見かねて安楽死の処置を施してしまう白川。安楽死は、まだ多くの国で認められておらず、日本では殺人罪に問われる可能性もある。もし、自身が白川の立場だったら安楽死を施すかとの問いに、「しませんね、犯罪ですから」ときっぱりと答える。そして、「それをしてしまう医師なんです、白川という医師は。だから、あれほどの大きな激流にのみ込まれていくのです」としながら、「それほど、医師としての信念とか矜持(きょうじ)とか、そういうことの純度が高い人なんです。人間だから迷ったり悩んだりするわけで、そういう役を僕は、同調しながら、できれば揺れながら演じられればいいなと思ってやっていました」と振り返る。

 そんな白川を演じることは、同時に、ある種の難しさを伴った。なぜなら、「主人公としては、なんでもない人間」であり「こんなこともできるよとか、この人を助けられるのはこの人しかいないとか、そういうスーパーヒーローではない」からだ。椎名さん自身、「いくらなんでも、もうちょっとなんかつけてよというぐらい(笑い)、(その平凡さに)不安になるわけです。僕にもっと、『僕の魅力で見せてやる!』という自信があれば別かもしれませんけど(笑い)、そんなふうには到底思えない」ことから、何を武器に見せていくかを「非常に考えた」という。

 熟慮の末にたどり着いたのは、「無理に見せなくていい」ということだった。最近の医療ドラマに登場する医師は、技術力の高さはもとより、ともすれば“超能力”を持っていたりする。だからこそ白川の、「普通の医師の等身大の魅力みたいなものが出てくればいいんじゃないか」と演じていったと明かした。

 ◇自身と重ね合わせ「感情移入できる」

 今後、高齢化が進み、医療の進歩が伴うことで、患者本人の意思をもないがしろにしかねない「終末期医療」や「延命治療」が増えていくことは予想される。そういった中で、「安楽死という問題は、これからますます問われる社会になっていくと思います」と椎名さん。「そういうところに一石を投じるという意味でも、非常にいいタイミングで、素晴らしい原作をドラマ化できたという思いでいます」と身を引き締める。

 そして今作の魅力を、登場人物それぞれに自身と重ね合わせ、「感情移入できる」ことを挙げ、ドラマを楽しみながら、「少し、自分の将来とか、自分の身内の方、大事な方たちの近い将来について考えることで、その方たちに対する愛情がさらに増すのではないかと思います」とアピールした。

 ◇55歳目前で始めたスポーツは…

 ところで、今回、患者を救う立場だった椎名さん。自身は、「若いときは放っておいても不健康というものに進む気はしなかった」そうだが、7月で55歳になる今を「もう少し年をとったときのための基礎を作る年齢」ととらえ、年2回の健康診断は欠かさず受けているという。食事も「体にいいといわれる食材をとる」ようにしているそうだ。ただし、「きっちりやろうと思っているわけではなくて、ちょっと前の言葉でいうと“ファジー”というか(笑い)。でも、そういう意識だけは欠かさないで毎日を過ごしています」と話す。

 また、スポーツで「積極的に体を動かして楽しむ」ことを心掛け、学生時代に勤しんだサッカーは、「遊び程度」に、ゴルフは「お付き合い程度」にやっているという。さらに最近では、キックボクシングと障害物を飛び越えたり登ったりしながら移動するスポーツ「パルクール」を始めたそうで、この取材が行われた5月には、「今、バック転の授業を受けています」とのことだった。「(バック転は)まだ、できないんですけど、けがをしないようにね。そういう自分にとって楽しいことを発見」しながら日々を過ごしているそうだ。

 そんな椎名さんに10年後の自分を想像してもらうと「10年後は60代半ばか……」とつぶやき、「先輩を見ていると、まだまだ皆さんお若いので、僕も若さはなくしちゃいけないと思いますね」といい、運動をして健康を保ち、10年後も第一線で活躍し続けることを「頑張ります!」と約束してくれた。

 ドラマは6月23日からWOWOWプライムで毎週日曜午後10時に放送。全5話で、第1話は無料放送。「神の手」の番組公式サイトおよびWOWOWの公式YouTubeのオンラインで第1話を無料配信。(取材・文・撮影/りんたいこ)

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