なつぞら:天陽のモチーフとなった夭折の画家・神田日勝とは? 美術館来場者は前年の3倍…

「なつぞら」山田天陽のモチーフとなった画家・神田日勝(23歳の時)=神田日勝記念美術館提供
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「なつぞら」山田天陽のモチーフとなった画家・神田日勝(23歳の時)=神田日勝記念美術館提供

 女優の広瀬すずさん主演のNHK連続テレビ小説(朝ドラ)「なつぞら」で、俳優の吉沢亮さんが演じている山田天陽(てんよう)。物語の舞台が東京に移ってからめっきり出番が少なくなったものの、第13週「なつよ、“雪月”が大ピンチ」(6月24~29日)から第14週「なつよ、十勝さ戻って来い」(7月1~6日)にかけて、結婚の判明やなつ(広瀬さん)との久々の再会が描かれ、SNSを大いに沸かせたことも記憶に新しい。そんな大人気の“天陽くん”にはモチーフとなった人物が存在する。その名は神田日勝(かんだ・にっしょう)。戦後、北の大地で開拓農民として生きながら、独自の画業を築いた夭折(ようせつ)の画家とは……。

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 ◇戦後の北海道で農民として画家として生きた神田日勝…

 生前「農民である。画家である」と明確に語っていた神田日勝は1937年、父・要一と母・ハナの次男として東京で生まれた。やがて、一家は拓北農兵隊(戦災者集団帰農計画)に応募。北海道へとやってきたのは、1945年8月のことで、一家は、全く農業の経験もなく、素手同然での開拓を強いられながらも、現在、神田日勝記念美術館が建っている鹿追の地に定着することになる。

 美術館の解説によると、中学卒業(1953年)後についても、「営農を継ぎ、地域の青年団の仲間と演劇や相撲、釣りなどに積極的に取り組む、快活な青年として成長。その頃、兄・一明は東京芸大に進学。もともと絵に興味のあった日勝は兄の影響を受け、本格的に油絵制作に取り組むようになる」とあり、「なつぞら」における、吉沢さん演じる“天陽くん”と大部分が重なっている。

 画家としては「1956年、初めて帯広の公募展(平原社美術協会展)に『痩馬』を出品し、入賞する。その後、札幌の全道美術協会展、東京の独立美術協会展と発表の場を広げていく」とあり、「馬」(1957年)、「飯場の風景」(1963年)、「牛」(1964年)、「死馬」(1965年)といった油彩作品を次々に発表。

 家族同然だった馬などを題材に、ベニヤ板にペインティング・ナイフを用いて描かれているのが特徴で、世間一般に知られている「黒や茶を基調としたシックな色合い」というイメージもこの時期の作品を指す。一方、1966年以降は赤や黄、青、緑などの原色が多用されるようになり、題材も筆づかいも大きく変貌。社会事象を投影した作品も登場し、社会の矛盾や問題を鋭く突いた代表作「室内風景」(1970年)も生まれている。

 ◇天陽くんは「まさに神田日勝」 朝ドラ効果? 美術館来場者に変化 

 1970年、「馬(絶筆・未完)」を残し、32歳8カ月の短い生涯を閉じた神田日勝。北の大地で開拓農民として生き、同時に戦後日本の画壇で異彩を放った彼の作品は、今も神田日勝記念美術館で目にすることができる。また2020年には、「神田日勝没後50年記念巡回展」が同美術館のほか、東京ステーションギャラリー、北海道立近代美術館と三つの会場で開催されることが決まっている。

 果たして、美術館の関係者は「なつぞら」の“天陽くん”をどう見ているのか。浅野貴さんは「開拓農民として『この地で生きる』と決めた天陽くんは、まさに神田日勝だと思います。馬喰にだまされて買わされた老馬を描いた『痩馬』のエピソードや、『死馬』や『室内風景』を彷彿(ほうふつ)とさせる絵が登場するなど、随所に“日勝”が盛り込まれていて、脚本を手掛ける大森寿美男さんの日勝に対する思い入れが伝わってきます」と話す。

 役を演じる吉沢さんに対しては「端正な顔立ちというのは皆さんが認めるところでしょうが、シリアスな役からコミカルな役まで幅広く演技されて、俳優という仕事に真摯(しんし)に向き合って、さまざまな自分に挑戦している」と好印象を抱いており、「なつぞら」放送開始後の美術館来場者についても、「おかげさまで前年の3~4倍に増えています。最近は若いカップルや親子連れなども増え、幅広くご来館いただいています。本州からのバスツアーも増え、多くの方々に日勝作品を見ていただく機会が増えました」と変化を明かしている。

 最後に、「日勝は農業をしながら絵を描いていたこともあり、当時、家族同然だった馬をよく描いていました。黒や茶を基調としたシックな色合いは世間的な日勝のイメージでもあります」としながら、「しかし、ある時を境に突如色鮮やかな作品が登場し、画面に直接塗りつけたかのような立体的でカラフルな作品も出てきます。その後、完成することなくアトリエに残された『馬(絶筆・未完)』は一見初期の作品を彷彿とさせる出来ですが、近づいてみると……。あとは実際に絵の前に立って、その力を感じ取っていただきたいと思います」と話していた。

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