ダンダダン
第5話「タマはどこじゃんよ」
10月31日(木)放送分
壮絶ないじめを描いた中村なんさんのマンガ「いじめるヤバイ奴」(講談社)のコミックス第4巻が発売された。過激な描写が「ヤバすぎる」などと話題になっている。「なんでも未来ずかん」(講談社)や「あぶない科学実験」(彩図社)などの著書で知られるサイエンスライターの久野友萬さんが、ヤバい描写を真面目に、科学的に分析する。
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「いじめるヤバイ奴」は、 講談社のマンガアプリ「マガポケ」で連載中。クラスに君臨するいじめっ子の仲島は、はかなげな女の子・白咲さんに暴虐の限りを尽くしていたが、実は仲島は、白咲さんにいじめを強要されていた……という展開、いじめられっ子が加害者になるという未知の恐怖が描かれている。
久野さんは読後、1970~80年代を中心に人気を集めた「ダメおやじ」を思い出したという。
「ギャグマンガだと気が付くのにしばらくかかりました。『ダメおやじ』をご存じでしょうか? 古谷三敏とファミリー企画による70年代のヒットマンガで、ダメなおやじが会社や家でいじめられまくるという、サラリーマンなら涙なくては読めない、子供は大爆笑というね。とにかくいじめがすごくてですね、焼けたアイロンを顔に当てられるわ、釘(くぎ)バットで殴られるわ、死にますね、マンガじゃなきゃ毎週死んでますね」
「ダメおやじ」と「いじめるヤバイ奴」の共通点とは……。
「過剰ないじめをギャグにする点で、『いじめるヤバイ奴』は『ダメおやじ』の血を引いています。しかし70年代はダメおやじをマンガにできましたが、21世紀はさすがに無理。ネットで炎上でしょう。マンガで人権を語っても、と思いますが、世知辛いもんです。というわけで、『いじめるヤバイ奴』はいじめる側といじめられる側の主客逆転により、この難関をクリアしたわけです。いじめっ子(?)の仲島は、いじめなきゃいけない宿命にひたすら文句を言いつつ、斬新ないじめを考えて乗り切ろうとするわけです。いじめられっ子がいじめっ子をいじめているのなら、世間の一言言いたい派も黙りますからね。中村なんさんは大変に賢い!」
いじめに対してクラスメートはなぜ言いなりになっているのか……。
「仲島と白咲の関係は奇妙なのは当然ですが、気になるのは周りの対応です。なぜクラスメートが言いなりになるのか。仲島が大暴走中なのは分かりますが、止めますよね。1対30ぐらいなんだから。でもみんな仲島の言いなりで『死んだ方がいいよな』『さすがですな』とか、先生に至っては、白咲が首から縄をぶら下げているのに『いじめられてないよな?』……ここは笑うとこですね、きっと」
更に、科学的に分析する。
「何が起きているのか? 科学的に推測すると、脳にはミラーニューロンというものがあるんですね。ほかの個体が行動するのを見ると、自分が行動しているかのように脳が錯覚するんです。ものまね神経細胞とも言われます。その時に脳を調べると、相手と同じ場所の神経細胞が発火しているんですね。相手が何かをつかもうとした時、誰でも無意識に相手の手の動きを目で追ってしまいます。これは、ミラーニューロンの働きです。相手が何をつかもうが関係ないと言えば関係ないんですが、脳は勝手に反応する。ミラーニューロンは行動だけではなく、情動にもリンクします。マンガも映画も小説も、多くの文化が他者への感情移入を要求します。それを可能にするのがミラーニューロンです」
ミラーニューロンは、「いじめるヤバイ奴」におけるクラスの一体感とも関係があるという。
「人間は集団化する動物です。同じ動作をすることで集団の一体感が増すというのは、体育や合唱などでみんなで同じ動きをすると妙に結束感が増すことで誰もが経験ありますよね。あの仲島たちのクラスにはミラーニューロンが悪い方向に働いている。クラスの一体感が、仲島と同化して、一緒になって白咲をいじめることに使われている。自分さえ助かればいいという気持ちと脳の機能が結びつき、あの醜悪なクラスを生み出しているんです。ちなみにミラーニューロン、恋愛にも応用可能です。相手のまねをすればいいんです。相手が腕を組めば自分も腕を組み、相手が髪を触れば自分も頭のあたりに手をやる。動作がリンクすると情動もリンクし、一体感が高まります。要は相手が自分を好きになるってことです」
「いじめるヤバイ奴」で、白咲が白髪であることにも注目。科学的に分析する。
「白咲は仲島との関係が始まってから、白髪に変わっています。昔から、恐怖により一晩で髪が白くなったという話がよくありますよね。有名なところでは、マリー・アントワネットが一晩で白髪になったとか。うそくさい話だと思っていたんですが、アラバマ大学バーミンガム校の研究で、ストレスで白髪になるメカニズムが判明しました。ストレスによって体の免疫機能が異常に亢進(こうしん)、免疫物質のインターフェロンが大量に分泌され、副作用でインターフェロンが髪の毛の色素に関する遺伝子のスイッチを切ってしまうそうです。白咲は、だからいじめられることに強いストレスを感じている。あの異様ないじめは好きでやってるわけじゃないんです。その結果、白髪になっている。これはこの物語の救いなんじゃないかと思います」
「いじめるヤバい奴」は今後、どんな展開が待っているのだろうか……大胆に予想する。
「『ダメおやじ』は後半、一転して全く別の話になります。ダメおやじは性格の良さを評価されて大会社の社長になり、大金持ちになる。いじめられるどころか、みんなに尊敬されるのです。この物語が『ダメおやじ』の流れをくむなら、最後には救いがあるに違いない。白咲と仲島はハッピーエンドを迎えるでしょう。それを白咲の白髪が暗示しています。その時、白咲の白髪は黒髪へと変わることでしょう」
<プロフィル>
久野友萬(ひさの・ともかず) サイエンスライター。著書に「なんでも未来ずかん」(講談社)、「ラーメンを科学する」(カンゼン)、「あぶない科学実験」(彩図社)など多数。
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