空の青さを知る人よ:「あの花」「ここさけ」の超平和バスターズだからできたこと 長井龍雪監督に聞く

アニメ「空の青さを知る人よ」のビジュアル(C)2019 SORAAO PROJECT
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アニメ「空の青さを知る人よ」のビジュアル(C)2019 SORAAO PROJECT

 人気アニメ「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。(あの花)」「心が叫びたがってるんだ。(ここさけ)」などで知られる長井龍雪監督の新作劇場版アニメ「空の青さを知る人よ(空青)」が10月11日に公開された。「あの花」「ここさけ」と同じ岡田麿里さんが脚本、田中将賀さんがキャラクターデザイン、総作画監督を担当し、クリエーターチーム「超平和バスターズ」が再集結した。これまで名作を生み出し続けてきたこともあり、ファンの期待が高まる中、「空青」はどのように制作されたのだろうか? 超平和バスターズだからできたこととは? 長井監督に聞いた。

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 ◇地味な話を地味なままできる強み

 「空青」は「あの花」「ここさけ」に続く超平和バスターズの3作目。3作は全て埼玉・秩父が舞台だ。秩父出身の岡田さんは劇場版アニメ「さよならの朝に約束の花をかざろう」の監督を務め、自伝的エッセー「学校へ行けなかった私が『あの花』『ここさけ』を書くまで」がドラマ化。田中さんは劇場版アニメ「天気の子」「君の名は。」のキャラクターデザインを担当した。売れっ子3人が集まり、どうやって作品は作られているのだろうか?

 「バカ話から始まるのはいつも通りですし、本当に変わらないです。ただ、信頼度がどんどん上がっている。オレは怖くなっていますよ。それぞれキャリアを積んでいて、2人に付いていくのが大変。気が抜けないし、ハードルがどんどん上がっている。最初のコンテを出す時とかものすごく緊張します。どう思うんだろ……と。緊張感があることはいいです(笑い)」

 超平和バスターズの作品は、キャラクターの心の動きを丁寧に描いてきた。長井監督が考える3人の強み、3人だからできることとは……。

 「あえて言うなら、地味な話を地味なままできることですね。岡田さんは丁寧に心情を描き、田中さんの絵には説得力がある。演出として『驚かし』を入れなくても成立するんです。『空青』にしても、ギミックは過去から『しんの』が来ることだけ。それでも作れるという確信を持てる」

 ◇吉沢亮、吉岡里帆のハマりっぷりに「きた!」

 「空青」は、山に囲まれた町を舞台に二人で暮らす17歳の高校2年生・相生あおいと姉・あかねの前に、突然、あかねのかつての恋人で13年前の過去からやって来た18歳の「しんの」こと金室慎之介が現れる……という展開。過去と現在をつなぐ2度目の初恋が描かれている。「空青」で描かれているのは恋愛だけではない。生まれ育った場所から出ていくこと、大人になることなども描かれている。超平和バスターズの3人の経験が作品に影響したところもあった。

 「最初は秩父から出て行く、自立する話だったのですが、秩父は出ていく場所なのか? 否定するだけの場所じゃないよね?という話になり、そこから話が膨らんでいきました。田中さん、岡田さんも地元から出てきた。自分もくすぶっていることを地元のせいにしていて、地元から逃げたかった。でも、今になって場所のせいじゃないのでは? と思えるようになったんです。自分のせいじゃないのか……と情けない話をしていく中で、こういう話になったところもあります。最初は大きなテーマを考えていなかったけど、結果的にこういう形になり、映画らしくなった」

 「あの花」「ここさけ」は、キャラクターの心の動きが丁寧に描かれている。「空青」はそれ以上に丁寧に心の動きが表現されているようにも見える。

 「『ここさけ』は登場人物が多く、キャラクターに寄り切れなかったところもありました。もうちょっとミニマムにして、キャラクターに寄りたかった。見る人が感情移入したり、キャラクターに寄り添える時間を作りたかったんです。カット数をなるべく少なくしようともしました。テレビはカットを積み重ねていくことでテンポを作っていきますが、『ここさけ』を作った時、映画はカットを細かく割っていくと、加速し続けないといけないように感じました。今回、静かなところは静かに時間が流れるようにコントロールしようとして、始まり方、終わり方を含めて、映画って何だろう?とずっと考えていました。まだ試行錯誤の最中ですけど、映画っぽいものを作ることができたと思います」

 俳優の吉沢亮さんが31歳の金室慎之介と18歳の「しんの」の二役の声優を務め、女優の吉岡里帆さんが慎之介の元恋人の相生あかねを演じていることも話題だ。長井監督は、声優陣のハマりっぷりに興奮したという。

 「特にしんのと慎之介の二役は難しいキャラだと思ってオーディションをしていても、正解が見えていなかった。吉沢さんのオーディションをするまでは、一人二役は無理だと思っていました。慎之介、しんののどちらかがいい人はいたんですよ。でも、吉沢さんの声を聞いて、正解はこれだ!となった」

 「吉岡さんが演じたあかねも難しく、多面性があるキャラクターです。それを見事に表現してくれました。やっぱりうまい人は何をやってもうまいんですね。役が決まってから、田中さんのキャラクターの表情付けも変わったりして表現の幅がさらに広がりました」

 ◇劇場版アニメバブルに何を思う?

 「君の名は。」の大ヒット以降、オリジナルの劇場版アニメが急増。今夏も多くの作品が公開され、“バブル”とも言われている。「空青」も豪華スタッフ、豪華声優陣が集結したことで注目されている。

 「作り始めると大変なので、ほかの作品のことを考えている余裕はないんですよ。少し前まではアニメファン向け以外のアニメ映画は、ジブリと細田守さん(の作品)くらいしかなかったけど、これだけ映画が増えた。文化としてしっかり確立して、根付くといいですよね。この状況が面白いです。自分が中学生の頃では考えられない」

 長井監督は、2020年1月にスタートするテレビアニメ「とある科学の超電磁砲T」を手がけることも発表され、今後の活躍がますます注目されそうだ。「映画をやっていると、テレビシリーズが楽しく見える。テレビをやっていると、映画を作りたくなる。隣の芝生は青いんですよね」と笑顔で話していた。

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