月9:「シャーロック」で6作連続の2桁スタート 復活の背景に三つの工夫

放送中の連続ドラマ「シャーロック」で主演を務めているディーン・フジオカさん
1 / 1
放送中の連続ドラマ「シャーロック」で主演を務めているディーン・フジオカさん

 俳優のディーン・フジオカさん主演の“月9”ドラマ「シャーロック」(フジテレビ系、月曜午後9時)が10月7日にスタートし、初回平均視聴率が12.8%(ビデオリサーチ調べ、関東地区、以下同)を記録。これで“月9”ドラマは、2018年7月期に放送された「絶対零度~未然犯罪潜入捜査~」から6作連続で2桁スタート。厳しい時期もあった“月9”が復活した背景には三つの工夫があった。

ウナギノボリ


 ◇刑事、医療ものなどが主軸のスタイルへ

 まず挙げられるのは、“脱ラブストーリー”路線だ。「東京ラブストーリー」「101回目のプロポーズ」「あすなろ白書」「ロングバケーション」「ラブ ジェネレーション」といった王道のラブストーリーで、高視聴率とともにブランドを確たるものにした“月9”。一方で、2010年代半ばから、視聴率の苦戦が報じられるようになり、番組最高になることが多い第1話でさえ、視聴率1桁になることもあった。

 しかし、「絶対零度~未然犯罪潜入捜査~」(2018年7月期)以降は、「SUITS/スーツ」「トレース~科捜研の男~」「ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~」「監察医 朝顔」と、恋愛路線から一定の距離を置き、刑事、弁護士、医療を主軸にした作品が並び、そして結果を出してきた。今回の「シャーロック」も、言わずと知れた名作古典ミステリーが原作。作品への期待の高さと、前クールの作品からの視聴習慣がそのまま数字になる初回視聴率だけに、ラブストーリーからの路線変更は視聴者から一定の支持を受けているといえるだろう。

 ◇放送間隔を空けない工夫

 視聴習慣を重視する施策を次々と打ってきているのも大きい。「ラジエーションハウス」以降、「監察医 朝顔」「シャーロック」では、NHKの朝ドラや大河ドラマのような、主演同士のバトンタッチセレモニーが行われて、枠自体のアピールに努めている。また、「監察医 朝顔」にレギュラー出演した俳優の中尾明慶さんが、「ラジエーションハウス」の特別編と「シャーロック」の第1話に出演したりと、前後作に同じ俳優をキャスティングするなどの異色の手法が話題を集めた。

 さらに「ラジエーションハウス」と「監察医 朝顔」は、連続ドラマシリーズの最終回の翌週に特別編を放送し、その翌週に次クールの作品をスタートさせるなど、間隔を空けない密度の高い編成が光った。

 ◇“逆配置”の妙

 フジテレビには、“月9”と並ぶドラマ枠として、「木曜劇場」(木曜午後10時)がある。「大奥」シリーズ、「医龍-Team Medical Dragon-」シリーズ、「コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」(第2シーズン以降は“月9”)「白い巨塔」「昼顔~平日午後3時の恋人たち~」「最後から二番目の恋」シリーズといった医療ものや大人の恋愛を描いた作品などで知られる伝統の枠だ。

 「木曜劇場」では、2018年4月期にディーン・フジオカさん主演の「モンテ・クリスト伯 -華麗なる復讐(ふくしゅう)-」も放送されており、同じディーン・フジオカさん主演で重複するスタッフも多い今クールの「シャーロック」も、ある意味で“木曜劇場的”だ。一方で、10月17日に「木曜劇場」枠でスタートする、新木優子さんと高良健吾さんがダブル主演を務める「モトカレマニア」は、月9枠で放送しても違和感ないラブコメディー。この両ドラマをあえて逆に配したのは戦略の妙だ。

 ◇“ドラマのフジ”のレガシー

 “ドラマのフジ”と呼ばれ、かつてゴールデン・プライム帯にほぼ毎日のようにドラマを編成していたフジテレビ。ところが現在は、「躍る大捜査線」「救命病棟24時」「ナースのお仕事」「海猿」「絶対零度」「リーガル・ハイ」といった名作ドラマを生んだ火曜午後9時台も、現在は関西テレビ制作になっており、フジテレビ制作のゴールデン・プライム帯のドラマ枠は“月9”と「木曜劇場」の2枠だけとなった。しかし、消滅したドラマ枠で培われた“レガシー”はその2枠に生かされている。火曜9時だった「絶対零度」は“月9”久々のヒットとなったし、その前の「コンフィデンスマンJP」は「リーガル・ハイ」の古沢良太さんが脚本を担当。視聴率復調のきっかけになっただけでなく、映画版は観客動員200万人、興行収入29億円超の大ヒットを記録した。

 王道ラブストーリーやラブコメのイメージが強い“月9”だが、フジテレビの“フラッグシップ枠”として、「HERO」シリーズ、「ガリレオ」シリーズなど、ラブストーリーにこだわらず、時代とともに柔軟な変化を続けてきた。令和時代に突入し、スタイルの変更に、レガシーの活用や編成戦略で、新たな“月9”ブランドが誕生しつつあるのかもしれない。 

テレビ 最新記事