俳優の綾野剛さんと女優の杉咲花さんが共演する映画「楽園」(瀬々敬久監督)が、10月18日に公開された。人気作家・吉田修一さんの連作短編集「犯罪小説集」(角川文庫)を映像化したサスペンス作だ。過去に一度共演したことがあるという綾野さんと杉咲さんに、久しぶりに共演した感想や、撮影現場での様子などを聞いた。
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杉咲さんとの初めての出会いについて、綾野さんは「そのときから、(杉咲さんが)持っているエンジンはすごかったですよ。以来、ずっと共演したいと思っていました」と語る。「そのとき」とは、2011年放送のドラマ「妖怪人間ベム」(日本テレビ系)のことだ。当時綾野さんは29歳、杉咲さんは14歳だった。
そして、「忘れもしません。(2017年の第40回日本アカデミー賞)授賞式のときにごあいさつして、『何か一緒にやりたいね。やるならどんなのがいいかな』と聞いたら、(杉咲さんが)『誘拐される話がいいです』って。『僕が杉咲さんを誘拐するの?』って聞いたら、杉咲さんは『はい』と答えて。そのときから、着眼点といいますか、人と自分を生かす能力が、非常に高い人だと思っていました」と語る。
綾野さんのその褒め言葉に、「いえいえ」とはにかんだ笑顔を浮かべながら杉咲さんは、「綾野さんは覚えていらっしゃらないと思いますが、『ベム』でご一緒したとき、綾野さん、ペン回しをされていたんです」と言ったところで、綾野さんが「それに食いついたんだよね(笑い)」と合いの手を入れると、杉咲さんの顔がぱっとほころび、「覚えてますか? それがすごくお上手で、『どうしてそんなにお上手なんですか』とお聞きしたのを覚えています」と懐かしがる。
そして、「授賞式などでお会いするたびに、『いつか一緒に(共演)できるといいね』と言ってくださって。私自身も、綾野さんのいろんな作品を拝見して憧れの方でしたし、そんなふうに言っていただけることが本当にうれしくて。そうしたら、こんなに早いタイミングでご一緒させていただくことができて、とってもうれしかったです」と杉咲さんは感無量の様子だった。
誘拐する役とされる役、とはならなかったものの、今回、2人が念願の再共演を果たした「楽園」は、青田に囲まれたY字路で、少女の失踪事件が起きることで物語が動き出す。事件は未解決のまま12年が過ぎ、再び同様の事件が起きる。容疑者として住民たちから疑われ、追い詰められていく青年、中村豪士(たけし)を演じたのが綾野さんだ。そして、12年前の事件のとき、被害少女と事件直前まで一緒にいた親友の湯川紡(つむぎ)を杉咲さんが演じる。もうひとりの主人公で、Y字路に続く集落で村八分になり、孤立を深めていく男・田中善次郎を、佐藤浩市さんが演じる。
今回のオファーを、「杉咲さんと僕と(佐藤)浩市さんで考えていますというお話をいただいて、断る理由はまったくありませんでした」と快諾したという綾野さんは、杉咲さんの印象を、「尊敬という思いはもちろんありましたけど、紡という人物をちゃんと見つめて、すごく繊細に、時に大胆に演じている姿を、僕は(撮影)現場でずっと見ていて魅力的だと思いました」と語る。
一方、杉咲さんは2度目の共演とはいえ、互いの役柄が役柄だけに、当初、綾野さんに対して、「(現場では)お話はきっとできないだろうな。どんな感じで現場にいらっしゃるのだろうとドキドキしていました」と明かす。ところが、クランクインの日に綾野さんは、「一緒に話そうよ」と椅子を用意して話し掛けてくれたそうで、「いろんな話をすることができました」とうれしそうに語る。
もっとも、そういった綾野さんの気安さが、杉咲さんには「意外」であり、「(綾野さんは)ものすごく役に入り込まれる方だと勝手に思っていた」ため、撮影の合間に電話をかけたりしている綾野さんを見て、「こんなに難しい役なのに、改めてすごい方だなと思いましたし、びっくりしました」と打ち明ける。
杉咲さんによると台本は、「結構抽象的なせりふやシーンが多かった」そうで、「考えれば考えるほど分からなかった」という。しかしそのときふと、杉咲さんが演じる紡の「分からなくたっていい」というせりふを思い出した。それまでは、「分からないまま現場に行くのは失礼ではないかという思いがどこかにあった」という杉咲さん。しかし、今回はあえて、「分からないまま一回やってみようと現場に行ってみる」ことを選んだ。
杉咲さんの見せ場の一つでもある終盤のシーンでは、「できるのかなと、正直、台本を読んで不安でした。でも、現場に立ったら、自分でも想像のつかない気持ちになりました。こういうことってあるんだなと、すごく不思議な体験でした」と振り返る。
すると、その話を隣で聞いていた綾野さんは、「でも、(杉咲さんには)台本を読んで分かろうとしている意識は、全部のシーンにあるんですよ。分からないからと、彼女があきらめた姿は一回も見ていないし、そこにこそ、人間のゆがみとか、においとか、にじみ出るものが生まれるんです」と杉咲さんの役への向き合い方を分析する。
かくいう綾野さんも、かつては「分かっていないままやるのは、芝居をなめているのかと思われるのではないかと思っていた」と明かす。しかし、経験を積むにつれ、「ぞんざいな言い方ですが、芝居って、それほど崇高なものではない」という思いが膨らみ、同時に、一緒に仕事をする監督には、いつも必ず「役者を尊敬しないでほしい」と言うようになったという。
その理由を、「特に若い、これからの監督は、杉咲さんや僕から出たものが、すべてオーケーになってしまうことがあるわけです。僕たち俳優は、監督から出てくる、いろんなアイデアや演出を受けて、うわっ、そんなことをしていいんだという驚きが欲しいし、そこに挑戦する喜びをたくさん持っていたいんです。でも、(監督から)『その役はもう、あなたのものでしょう』と託されてしまうと、僕たちも知らぬ間に楽な部分に乗っかってしまって、気づいたら、全然中身を伴っていないことをやっている、みたいなことがあるんです」と説明する。
その上で、「全部が全部分からなくていいし、鈍感である勇気はむしろ大事で、分からないまま進んでいっていいと思うんです」と、杉咲さんの考え方に共感を示す。そして、「今までは、役にならなければいけないという考えが強くて、僕は“綾野剛”を捨てていました。でも、この『楽園』では、三十数年間生きた綾野剛が、(役の)豪士を(自分に)入れたときに、どう豪士を生かさせてあげることができるか、それだけを考えました」と続け、「ですから杉咲さんも、杉咲さんが自分の中で育ててきた感性を、そのまま役に投影させればいいと思っています」とアドバイスしていた。
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