海に眠るダイヤモンド
最終話前編(9話) あの夜
12月22日(日)放送分
窪田正孝さん主演のNHK連続テレビ小説(朝ドラ)「エール」に岩城新平役で出演中の吉原光夫さん。岩城は関内家が営む馬具店の職人頭で、ヒロインの音(二階堂ふみさん)も恐れるほどのこわもてだが、職人としての腕は一流……というキャラクターだ。ミュージカル「レ・ミゼラブル」のジャン・バルジャン役などで知られる吉原さんは、テレビドラマ初出演。オファーを受けた際、「マネジャーに対して『こんな俺が、朝8時に映ってもいい顔なのかな?』というのは聞きましたよ」と笑い、「思ってもいなかったというのが正直なところです。自分とNHK、自分と朝ドラ、というのがリンクしていなかったので」とも明かす、吉原さんが「エール」について語った。
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「よくマネジャーに怒られるんですが、オファーを喜ぶことは作品に対して失礼かなと思ってしまうんです。後に己を裏切ってしまう感情になるというか」と独自の考えを持つ吉原さん。初の朝ドラ出演を「僕のNHKさんのイメージが、すごく真面目で、すごく細かく、統制のとれた現場というイメージがあったので、撮影に入る前日の夜は、寝て起きては台本を見て、というのを繰り返していました。一字一句、間違えちゃいけないと思って。見かけによらず、結構緊張してしまうタイプなので、現場でも緊張しながら過ごしていました」と振り返る。
改めて「最初の撮影は緊張していて、ほとんど覚えていないんです」と強調する吉原さんは、「僕が普段テレビで見るような方々がいらっしゃって。皆さん温かく迎えてくださいました。撮影自体は、僕がイメージで思っていたよりも、監督が出演者側に預けてくださる現場で。『吉原さん、どう思います?』『ここはどうします?』と投げかけてくださるので、舞台と同様、いろいろとトライさせてもらえました。やりにくさは全くなかったですね。逆に新鮮でした」と話す。
役作りでは「馬具職人頭という役なので、事前に直接この目で見ておきたいなと思い、北海道にある馬具工房に勉強で伺いました」と話していて、「革に穴を開けていく作業、革に糸を通していく作業というのはずっと練習してきましたが、職人さんと息を合わせて作業もさせていただいたことで、実際に演技をする上で、すごく助けになりましたし、役に立ちましたね。他の仕事のけいこがあって、久しぶりに『エール』の現場に入っても、着替えたとたん、革に触って穴を開けたりするぐらい役になじんでいます。NHKさんのリアルなセットは、本物の馬具工房の匂いや場の雰囲気と似ているので、すぐに自分が岩城へ戻ってくるのが感じられます。忠実に再現されているセットにいつも助けられています」と語った。
一流の馬具職人という設定については「すごくプレッシャーがありました」としながらも、「それもあって、北海道まで行って勉強しましたし。なかなかのプレッシャーですよね。でも、死ぬほど練習をしたので」と自信をのぞかせる吉原さん。
「実は、僕はドラマでのルールみたいなものが分かっていなかったので、前室でスタンバイをするということも知らなかったんです。照明さんたちがセッティングをしている中、作業場のセットで黙々と練習をしていました。舞台のセットだと、慣れるためにずっといたりするので。もしかしたら邪魔になっていたかもしれませんが、休憩中も一人で集中して作業をしていましたね。お世話になった工場の職人さんからは『ふつうに働けるよ』と言われるくらいに、今ではうまくなったと思っています。手にはマメがたくさんできましたけどね」と明かす。
また、演じる岩城の印象を「馬具職人はすごく繊細で細やかで、センスがあって、頭がよくないとできない仕事。岩城という人間は、自分をとことん突き詰めて、妥協を許さない。プライドを持って、この職業を背負っていた人だと思います。周りの人に厳しいのも、要は、この仕事を他人になめられるなよ、という意味合いもあるのかな」と語ると、「関内馬具店は軍に馬具を卸す仕事をしているので、量産しないといけない。下請けとしてかなりハードな仕事だったと思います。岩城としては、いい仕事をして、馬具職人という職業が世の中にもっと認められる仕事になるように、完璧な美しいものを作ろうとしている。光石研さん演じる安隆さんを越えようと思っていたわけじゃないけれど、馬具職人としてのプライドを保つために厳しい人間になったんだろうなと思います」としみじみ語る。
さらに吉原さんは、「裏を返せば、たぶん(岩城の)中身にあるものは、温かくて、信じたものに真っすぐな人。関内家に対しても、忠実であり、愛情深い人間だと思います。ずっと僕の中で引っかかっていたんですが、岩城は第9回(4月9日放送)で仕事がなくなった関内家から出ていくというシーンがありました。実のところ、演じていた僕は納得いかなかったんです。岩城はどんなときでも出ていかない人なんじゃないかと思っていたので。幼少期の音(清水香帆さん)に、『職人は仕事がなきゃ食ってかれん』というせりふを言うんですが、役を演じていくごとに、あのときの行動は、関内家のためだったのかなと思えるようになりました。さらに一流になろうとして、外で職人としての腕を上げようとしたのではないかと思えて、あるときふっと腹(腑)に落ちたんですよね」と心境の変化を告白する。
続けて「誰が作ったかは重要視されていない時代で、自分の技術を人に評価されて、雇われることでしか生計を立てられない。それって、職人にとってはすごく寂しいことだったと思います。岩城の背中が少し寂しそうな感じがするのも、なんとなく、そういう背景があるからだと思います」と推し量ると、「今、古着や手作りのものを好む方が多くいるのも、現代の機械で作られたものではなく、当時の細かい手作業で生み出される丁寧さや質感、温かみが出ているからこそ。もの作りを極めた職人の方は、作り上げられたものとイコールというか、温かくてとても優しい方なんだろうなと思います。だいたい、いいものを作る職人さんってファーストコンタクトは怖い方が多いイメージじゃないですか。岩城も見ての通り、いかついですもんね」と笑っていた。
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