超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、「あつまれ どうぶつの森(あつ森)」の大ヒットで好調な任天堂の課題について分析します。
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コロナ禍による全世界的な「巣ごもり」需要を受けて、ゲーム業界の業績が好調だ。任天堂は好例で、連結業績の売上高が1兆2005億円から1兆3085億円と9%上昇。純利益が1940億円から2586億円と33.3%上昇で、ともに前年度を上回る増収増益を達成した。
中でも象徴的なのが、ニンテンドースイッチ向けのゲーム「あつまれ どうぶつの森(あつ森)」で、発売から6週間で全世界1341万本の爆発的な売り上げを示した。前作・前々作とも1000万本以上を売り上げた定番シリーズだが、発売から6週時点での売り上げは総売り上げの3~4分の1程度に留まっていた。これだけの売り上げが1カ月半で達成されたことは、快挙だと言えるだろう。
元々「どうぶつの森」シリーズは、村の動物たちとスローライフを楽しむ内容で、2001年にNINTENDO64でオリジナル版が発売された時は、主流派のソフトではなかった。何かを攻撃したり、破壊したりといったゲームが人気を集める中で、内容が異質すぎたのだ。
それがシリーズを重ねることで着々と支持を高めて、今回の快挙につながった。コロナ禍という特殊事情もあるが、それだけでは説明がつかない。異質なゲームを定番ソフトに育て上げた、任天堂のプロデュース力あってのことだろう。
このように、ゲーム業界ではこれまでも非主流派の中からヒットの芽が生まれ、爆発的な成功につながる歴史を繰り返してきた。全世界で1億7600万本を売り上げたとされる「マインクラフト」は好例だ。日本では小学生に圧倒的な人気を誇る対戦シューティング「フォートナイト」も同様で、いずれも関係者の期待を大きく上回ったタイトルだ。
ただ、こうした次世代に向けた視点で同社の業績を見ると、一抹の不安が残る。2020年度の自社ミリオンセラータイトルに、オリジナルタイトルが「リングフィット アドベンチャー」「ASTRAL CHAIN」の2本しか存在しないからだ。このうち「ASTRAL」は開発会社のプラチナゲームスによるもので、内製タイトルでのヒットは「リングフィット」のみとなる。
一方でスイッチにおける自社タイトルの売り上げ高比率は82.8%にのぼり、自社頼みのビジネスが続いている。同社の定番タイトルが売上を支えており、他社が入り込む隙間がないのが現状だ。そのため社内の開発力が落ちると、業績に黄信号がともることになる。そうした事態を防ぐためには、定番ソフトだけでなく、オリジナルタイトルのリリースが必要だ。
もっとも、スイッチはインディー(独立系)ゲームのラインアップが抱負で、定番ソフトとの住み分けが行われている。消費者からすれば、選択肢が多すぎて目移りするほどだ。大企業とインディーで、ゲームの規模や完成度が異なるのも当然で、インディーゲームのような規模のゲームを作る余裕があれば、定番ソフトの続編を早く出してほしいという声があがるのも、理解できる。
ただし、ゲーム開発者の世代交替が進む中、任天堂といえども後進の育成が求められていることは、言うまでもない。そのためには若手に場数を踏ませることが重要だ。前世代機のWiiU向けに発売された「スプラトゥーン」がスイッチでもヒットしているように、「あつ森」が大ヒットを記録している今だからこそ、次世代の種まきが求められているのではないだろうか。
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーのゲームジャーナリスト。2008年に結婚して妻と猫4匹を支える主夫に。2011~2016年に国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表として活躍。退任後も事務局長として活動している。
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